第181話 タカの異変

夏休みもあけて新学期が始まった。理佳子は夏休み前に石井と気まずい別れ方をして憂鬱な気分で学校に向かう。

嫌だなぁ~…もし顔合わせたらどう接すれば良いだろう…麻衣早く来ないかなぁ…

そしていつもの曲がり角を曲がった時、やはり石井がとぼとぼ歩いているのが視界に入ってきた。

ちょっと時間ずらして行こ…

その場に理佳子は立ち止まって石井が見えなくなるのを待つことにした。しかしその期待は裏切られ、石井が理佳子の方へ振り返る。

ウソっ!何でここで振り返るの~?

石井はハッとしてすぐに前を向いて足早に行ってしまった。


「行っちゃった…でも良かった!」


理佳子が独り言を言った時に後ろから本田麻衣が


「何が良かったの?」


急に声をかけてきた。


「あのね…夏休み前に石井君から声かけられてて、ハッキリ気持ちはないって言っちゃったの…だから今日この日が気まずかったんだけど、石井君目が合ったら足早に行ったから…」


「なるほどね。理佳子にしては上出来!ちゃんと断れたんだ」


「うん、いつまでも気を持たせるのは悪いし…」


「ウジウジした理佳子だから流されて付き合っちゃうのかと思った」


そう言って本田麻衣が笑う。



理佳子先輩…ハッキリとフラれたけど、こんなに想ってるのに…いったい俺の何がダメなんだろ…

この前は命の恩人とまで言われた俺が…俺が居なかったら理佳子先輩…あのときどうなってたか…やっぱり諦めきれない…だって…めちゃくちゃ可愛い!例え彼氏が居てもせめて話しくらいは…

その日の放課後も石井は密かに理佳子の姿を追った。そしてこの間、理佳子と学校帰りに一緒に歩いていた男がまた理佳子の隣に居た。

彼氏が居るのに何故あの男は許されるんだ?理佳子先輩、なんか楽しそうに喋ってるし…あいつ誰なんだよ…

石井はずっと二人の後をつける。そしてまたこの間と同じ所で二人が別れた。

んー…楽しそうにしてるけど、彼氏って感じゃないよな…理佳子先輩がそんな浮気性なわけないよな!

石井は都合よく理佳子の理想像を勝手に植え付けていた。


そして翌日の放課後


理佳子先輩はこの日も例の男と帰り道を一緒に歩いてる…何故だ…本田先輩と一緒じゃない…怪しい…

石井は理佳子が彼氏を乗り換えたのではと心配になりずっと二人の行動を監視する。

まさかとは思うが…理佳子先輩、ほんとに乗り換えた?それとも浮気?まさかぁ~…

理佳子は正直困っていた。最近何となく仲良くなった同級生、飯田昌司(いいだしょうじ)に声をかけられ成り行きで一緒に下校している。理佳子は気が弱くハッキリと断れる性格では無いため、この飯田に一緒に帰ろうと声をかけられやむ無く共に歩いていただけだった。


理佳子は家に着いて

ハァ…また厄介なことになっちゃったな…飯田君最近急にどうしたんだろ…こんな所、たかと君に見られたら…何の言い訳も出来ないよね…だけど、ただ一緒に帰ろうって言われただけで断る理由ってなぁ…タカ、おいで…

理佳子は猫のタカに癒しを求めた。タカは理佳子が呼ぶと必ず理佳子に甘えてくる。まるで理佳子の気持ちが読めるかのように。辛い時は慰め、嬉しい時はまるで自分のことのように喜びを表現する。そして、困ってる時は甘えてきて癒してくれる。理佳子にとってタカは必要不可欠な存在となっていた。

ミャアオ…

しかしこの日はタカは側に来てくれなかった…

タカ、どうしたの?具合でも悪い?

タカは少し離れた場所でジッと理佳子を見つめるだけだった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る