第143話 墓参り

ジメジメとした梅雨の時期に突入し、連日降り続いた雨もこの日は一旦休息を取る。薫の元カレ、武田剛の命日…薫は一人帰郷し剛の墓参りに訪れていた。

剛…ごめんなさい…私のせいで…

薫はお墓に花を添え、簡単な掃除をして線香を差して手を合わせる。そして立ち上がり、手で涙を拭った。振り替えると…伝説の黒崎天斗が立っていた。


「よぉ…久しぶりだな…薫…」


「天斗も来てたんだ…」


「あぁ…俺も…アイツを守ってやれなかった自責の念ってやつに…苦しんで来たよ…なぁ、薫…少し付き合わないか?」


「いいよ…」


二人は昔の仲間とよく練り歩いた街をブラブラと歩く。


「なぁ、お前…今でも剛のこと…」


そう言いかけて黒崎は止めた。


「愚問だったな…一生お前の中には消えずに居るよな…」


薫は黒崎の想いに気付いていた。しかし薫はそれをずっと知らないふりをしてきた。


「天斗…あんたは今でも彼女作らないの?」


「……………」


「私さ…好きな人出来たよ…剛のことを忘れさせてくれるぐらい良い奴でさ…」


「そっか…」


「何て言うか…剛と似てる所もあるけど…もっとバカっぽくて…単純で…理解力に乏しくて…変な奴なんだけど…」


「お前それのどこが良いんだよ…」


黒崎は思わず失笑した。


「あいつ…太陽みたいに温かくてさ…一緒に居ると…凄く優しい気持ちになれる…」


「どうりでお前の表情が牙を無くした虎みたいになってんのかよ…」


「あいつは私をか弱い女の子扱いしてくれるもん…いつも…私を守ってくれる…」


「そいつはめでてぇなぁ…お前を守れる男なんかにそうそう出会えねぇだろうからよ…」


「最近、あんたの目立った噂は聞かないね…」


「フッ…お前…俺の影武者とつるんでるって噂は本当か?そっちに色々ゴタゴタが回ってるからだろ?」


「たかとは…私の幼なじみだよ…昔、私が酷いこと言って疎遠になったけど…めちゃくちゃ根性ない奴でさぁ…あんなに弱虫だったのに…」


「お前がそいつを覚醒させたんだろ?ここ最近、急に出て来て…お前の学校に居るって噂が流れて来てよ…」


「うん…あいつは…異常だよ…喧嘩一つしたことないのに…短期間であの石田を落とした…尋常じゃないスピードで強くなった…」


黒崎は、なぜ影武者の天斗がそれほどまで強くなる才能があったのか、そのたかとの出生の秘密を知っていたが…あえて薫には話さなかった。薫の複雑な家庭事情の真実を薫本人は知らず…何故か黒崎天斗は知っていたのだ…


「まぁ、何にせよお前が思いの外元気そうでホッとしたぜ…」


「うん…」


「透さんは…元気か?」


「うん、元気だよ!今日ここで会ったって話したら喜ぶだろうね、きっと…」


「薫…透さんに宜しくな…」


「うん…言っとく」


「薫…」


「じゃあね…」


薫はあえて黒崎の言葉を遮った。それは黒崎のことを思ってだった。そして二人は別れた。黒崎は去り行く薫の後ろ姿を見えなくなるまで目で追っていた。


薫…あの時…俺は…

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