第144話 黒崎天斗と矢崎薫の出会い

黒崎天斗と薫が初めて会ったのは薫が小学三年生の時だった。二人は学区が違ったため、小学校は違ったのだが、矢崎透がいじめっこに苛めに会っていた黒崎天斗を薫の元へ連れてきたことが始まりだった。

矢崎透は小学六年生、薫や天斗とは随分体格に差が出ている。


「薫…こいつ…黒崎天斗だってよ!しかもお前と同級生だぞ!顔は似ても似つかねぇけど、面白い偶然だよな!」


「ふーん…また弱虫連れてきたの?兄ちゃん…」


「まぁ、そう言うな!世の中皆が皆、心が強い奴ばかりじゃないさ。お前、こいつ鍛えてやれよ!」


「えぇ!やだよ…私は弱虫大っ嫌いなんだってば!」


「わかんねぇぞ!こいつはもしかしたら化けるかもしれん!」


「兄ちゃんいつもそういうけど、みんなすぐに逃げだしちゃうじゃん!」


「そりゃお前のやり方の問題だろ?お前はやり過ぎるんだよ!」


「兄ちゃんが言うか…女の私をスパルタで鍛えといて…お嫁に行けなかったら一生恨むからね!」


「そんときはこいつに貰ってもらえ!」


そう言って透は大声で笑った。

それから薫は毎日毎日黒崎天斗をスパルタで鍛えた。薫は兄から空手や合気道の手解きを受けていて、小学生なら男子でさえなかなか敵う者が居ないほど強くなっていた。

そして天斗も薫の厳しい特訓に毎日毎日欠かさず付いていく。

そして中学入学する頃には、薫も天斗も地元で有名過ぎるほど名を轟かせるほどに成長していた。

天斗がこれほどまで熱心に薫の特訓に耐えたのにはある理由があった。


薫…俺は…お前のことが…

それはずっとひた隠しにしてきた天斗の薫への想いだった。しかし、その日は突然…


「ねぇ…天斗…もし私がお嫁に行けなかったら…あんたどうする?」


「どうって…そりゃお前ほど男勝りだったらそれは不思議じゃ無いからな…笑ってやるよ…」


天斗は素直になれず薫に自分の気持ちを伝えることは出来なかった…


「フンッ!あっそ!笑うんだ…もう二度とあんたには聞かない!」


薫は強くなった天斗に少しずつ想いを寄せつつあったのだが、この一言で気分を害してしまった。薫はとても気性が荒く短気だったからだ。後にも先にも天斗が薫に告白出来るチャンスが訪れたのはこの時一度きりだった。


もし…あの時…俺が素直に好きだって言えたなら…今頃お前のことを…あんなに淋しい想いはさせなかったのに…あんな悲しい目には…合わせなかったのに…薫…俺は今、死ぬほどあの時の事を後悔してるよ…もし時が戻せるのなら…絶対お前を…


天斗…今更なに?何を言おうとした?もう遅すぎるんだから…ずっと気付いてたのに…あんたの気持ち…だからあの時…なのにあんたは…バカだよ…いつもクール気取って、カッコ付けて…肝心なことは何も言ってくれなくて…私はいつも淋しかったんだから…いつも愛情が欲しかったんだから…

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る