第135話 寄せ合う愛情

「理佳子、今日はどうするんだ?」


夕食を終えて天斗の部屋で二人はベッドに座っている。


「どうって…」


「今日は家に泊まっていくのかって…」


「ごめん…明日朝から用事があるから帰らなくちゃ…」


「そうか…じゃあんまり遅くなるわけにはいかないな。駅まで送ってくよ」


「ありがとう…たかと君…」


「ん?」


「これ…バレンタインだから…」


理佳子は恥ずかしそうに天斗に差し出す。


「ありがとう!開けてもいいか?」


「ダメ!後で開けて…恥ずかしいから…初めて手作りチョコ作ったの…」


「手作り?そうか…わかった、ありがとう!」


二人は見つめ合う。


理佳子…ほんとに可愛いなぁ…


たかと君…大好き…


二人は抱き合い唇を重ねて


「行くか…」


「うん…」



駅に到着して電車を待つ。


「理佳子、マフラー温かいよ」


「へへっ。頑張ったもん…」


ホームに電車が入ってきた。


「じゃ、また連絡する」


「うん…私も…」


理佳子を乗せた電車が遠くに見える。

家に戻って理佳子がくれた手作りチョコを手にする。


「理佳子…」


型に入れて作られたそのチョコは、優しい甘い香りがする。そして…紙が添えられている。


たかと君…ずっと私だけを見て。大好きだよ。


当たり前だろ!お前だけを見てるよ!お前への愛を貫くつもりだ…必ずお前を…


理佳子は電車に揺られながらボーッと考え事をしている。

たかと君…いつか…私を迎えに来て…あなたとずっと一緒に居たいよ…今だってほんとは離れたくないのに…いつか…あの約束…私をたかと君のものに…



「かおりん…」


小山内は制服のズボンを履きながら何か言いかけたが


「清…何も言わないで…」


薫も私服に着替えてそう言った。

この二人の間に濃密な愛の時間が流れた後のことだった。そしてその気まずい空気を変えるために


「清…もうすぐ兄貴帰って来るかも…」


「そうなんだ。じゃあ、挨拶した方が良いよね?」


「ううん、多分会わない方が良いと思う…」


「え?どうして?」


「…妹の彼がここに一緒に居るって、兄としては複雑な想いだと思うから…こんな私を一生懸命親代わりしてくれてるから、余計な気を遣わせたくないんだよね…」


「そっか…じゃあ…今日はもう帰った方がいいみたいだね…」


「ごめんね…今日は…………また月曜日ね…」


「うん…かおりん…ありがと」


「うん…」


ぎこちない二人の会話が続いたが、小山内は玄関の方へ向かって歩いていく。


「じゃ、」


「うん…清…大好きだよ…」


小山内はニコッと笑顔を返し玄関のドアを開けて出ていった。


かおりん…今まで生きてきた中で一番幸せな日だったよ…

小山内は少し前の時間を振り返りながらニヤニヤしていた。純粋に薫と心も身体も繋がった感覚を思いだし、薫に対して更なる愛情が深まった。

俺が…かおりの寂しさを全部埋めてやる…


清…あんたは本当に優しいね…大好きだよ…薫も小山内の優しさに心から信頼を寄せていく。


その時、玄関の方からガチャッと音がした。


「兄ちゃんお帰り~」


薫は玄関の方へ兄を出迎えた。


「どうしたんだよ…珍しいな…お前…最近…」


そう言いかけて矢崎透は薫の顔を見つめる。


「なに?」


「そうか…どうやらお前、吹っ切れたみたいだな…」


そう言って意味深に微笑んで自分の部屋に入った。矢崎透は薫の悲しい過去を知っている。ずっと兄として妹を案じていたのだ。薫の陰が消えてホッとしていた。

お前の凍った心を溶かした男はどんな奴なんだ?

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