第134話 愛情貧乏

「ねぇ、かおりん…かおりんの両親って何してる人?」


「……………」


二人は黒崎家を出て 街を歩いていた。


「かおりん?」


「んー…母ちゃんは…病気で入院してる…ずっと…」


「何か重い病気なの?」


「………難病で、治ることはない」


薫は小山内に嘘を付いた。薫は母のことを語りたがらない。真実を知っているのは、亡くなった剛と伝説の黒崎だけだった。


「父ちゃんは?」


「父ちゃんは…母ちゃんと離婚して独りで暮らしてる」


「そっかぁ…かおりんのところも色々大変なんだなぁ~」


薫はこれ以上自分の家族のことを詮索されたくなかった。


「かおりん…淋しい時はいつだって俺が側に付いていてあげるから!」


「清…」


私は…あんたのそういうところが好きだよ…色々辛い事ばかりで人生何度も終わりにしたいって思ってきたけど…今は清のお陰で凄く楽しい…あんたは本当に太陽みたいな人だよ…


「ねぇ、清。今度ライブ見に行かない?実は知り合いがさ、バンドやっててライブハウスでちょくちょくライブやってるんだ!」


「あっ!それはもしかして!あの地下にあるライブハウスじゃない?」


「うん、そうだよ!」


「いいよ!行こう!」


清…その温かい光でずっと私を照らしていて…私の闇を照らしていつも私を包んでいてね…私だって…好きでこんなどん底の人生送って来たわけじゃ無いんだよ…ずっと…愛情が欲しかった…たかとや、理佳子みたいに…幸せな家庭で…親の愛が欲しかった…清…あんたの家庭に…私も入りたい…


「清…家に…来る?」


「え?いいの?」


「うん…家は兄貴と二人で暮らしてる。兄貴はいつも仕事で居ないから…」


「そうなんだ…かおりんはいつも淋しいんだね…」


「じゃ行こ!」


そう言って二人は手を繋ぎ薫の家へ向かった。


「ここが、私ん家…」


そこは古いアパートで、少し老朽化が進んで鉄の階段はあちこち腐食している。

薫は玄関の鍵を開けて


「入って」


小山内を部屋に通した。

部屋の中は日当たりが悪く日中なのに薄暗い。間取りは2DKで部屋はタンスなどが狭い部屋を圧迫している。


「ごめんね、むさっくるしい部屋で…兄貴が稼いだお金で私を学校に通わせてくれてるから貧乏でさ…」


「かおりんも苦労してるな…」


「清…これ…」


そう言って薫は小山内に小さな包装されてるものを渡した。


「これは?」


「バレンタインデーでしょ?」


「ハニー~~~!」


早速小山内はその包装を開けて中を確認する。


「かおりん…ありがとう!」


ハート型の可愛らしいチョコレートだった。


「清…三倍返しだよ!」


薫は笑いながら言った。


「全て俺の愛情で返す!」


「えぇ~!」


「俺が全力でかおりんに愛情注ぐよ!」


薫は嫌そうな表情を見せながらも、内心はどんなものより嬉しい言葉だったのだ。

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