第82話 全面戦争

「片桐…俺は今でもお前を仲間だと思ってんぞ…」


その時片桐は言葉に詰まった…仲間?今でも?

片桐は少し動揺している。


「小山内、お前が俺を裏切らなきゃ俺だって今でもお前の参謀としてお前と一緒に高みを目指してたんだよ!」


「どうやら何を言ってもお前には届かないみたいだな…」


みんなだいぶ息が戻ってきていた。

敵の総大将的な存在の橋本達也が


「片桐~、ごちゃごちゃ言ってねーで殺るぞ!小山内は俺が狩るんだ」


「橋本~、久しぶりだな」


「小山内、今日こそお前の命日だぞ!今までの雪辱晴らしてやらぁ!」


「フッ、何度やってもお前みたいな愛も何も持ち合わせちゃいない拳なんぞに俺が倒れるかよ!」


相手は俺達の周りを囲むように包囲している。陣形としては完全に不利な形だ。さすが片桐、軍師と呼ばれただけはある。圧倒的な戦力差、倍以上の数に囲まれて形勢は完全に不利な中で小山内が全く物怖じしない姿に仲間達は絶大な信頼を寄せている。

この状況下でもし小山内が少しでも怖じ気づいてしまえば一気に皆の士気が下がってしまうだろう。これはやはり人の上に立つものとしての資質なのだと俺は感じた。

俺と重森は小山内から少し下がった所で立っていた。

重森が


「たかと、これが初の実践になるけど小山内の生きざまちゃんと見ときな。あいつは男の中の男だよ。本物ってのがどういう役割を果たさなきゃいけないのか、人を守るってことがどういうことなのかを見る絶好のチャンスだよ…」


「わかった」


俺は重森が言わんとする真意がわからないまま返事をした。

小山内の「オラァー!」という怒声を号令にしてそこに居合わせた全員が一気に動き出す。

小山内と橋本がこの陣形のど真ん中で一騎打ちとなる。

外周から一気に敵が押し寄せてくるのを俺達は迎え撃つ形になった。

片桐はといえばいの一番にこの戦場から離脱し高みの見物を決める。策を労する者はたいがい臆病なものだ。

橋本達也は流石に敵の大将だけあって小山内と対等にやり合う。

俺達は外側から押し寄せてくる上に数が違い過ぎるためあっという間に押し込まれて行く。俺は重森を庇いながら向かってくる目の前の敵を相手にする。やっぱり重森の特訓の成果は凄まじい、相手の攻撃がまるでスローモーションのように見える。かわして相手を投げ飛ばすのは難しいことではない。


「行けるぞ重森!お前のお陰だ!」


チラッと重森を見てそう言った。

重森も合気道の技でどんどん向かってくる敵を投げ飛ばしていく。

小山内の方を見ると、既に決着は付いているようだ。小山内も目の上から血を流しているが相手の橋本達也は小山内の足元に倒れている。

小山内がこっちを見て人混みをかき分け歩いてくる。

小山内も重森の周りにいる敵をどんどん蹴散らすが数が多いためどんどん倒した敵も息を吹き返す。このままじゃ切りがねぇ…


と、その時遠くから数台のバイクの音が近づいてきた。

重森が


「アイツら…来るなって言ったのに…たかと、一気に反撃に移るよ!」


俺はうなずいて小山内に


「行け!ここは俺らに任せろ!片桐を追え!」


そう言って小山内に向かって親指を立てた。

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