第71話 婚約作戦

俺は一度階段に戻り音をたてて降りて自分の存在をアピールしてリビングに入っていった。


「おはよう、たかと君」


「おはよう、二人とも早起きだなぁ」


俺は白々しく何もなかったかのように振る舞った。

母さんが


「天斗~、理佳ちゃんほんと良い娘だよぉ~。早くに起きてきて何か手伝いますって朝ごはんの支度手伝ってくれたりテーブル拭いてくれたり。あんたほんと良いお嫁さん連れてきてくれたねぇ」


「おばさん…そんな…」


「母さん!そんなに理佳子にプレッシャー与えるなよ。理佳子だってまだ高校生なんだから、これからまだ俺より好い人見つける可能性だってあるだろ?」


そう言ったとき理佳子の顔が少し曇った。


「たかと君…」


母さんがそれを見て


「そんなんだからあんたは今まで彼女の一人も作れなかったんだよ。全然女心分かっちゃいないんだから。ほんと父さんそっくりだわ…」


「え?俺はただ…」


「女ってのはね、男に強く想われたいもんなんだよ。どんなことがあろうと手放さないって強い意思で繋ぎ止めて欲しいもんなんだよ。分かっちゃいないねぇ…ねぇ?理佳ちゃん」


そう言って理佳子に笑顔を向けた。

俺は理佳子の様子を窺う。


「おばさん…私…」


理佳子はお嫁さん候補に上げられて言葉が詰まっているのか何か言いかけるがなかなか切り出せないような感じだ。


「ほら、あんまり母さんプレッシャー与えるから理佳子困ってるじゃん」


「違うの…私…たかと君の側に居たい…たかと君転校してから私の知らないたかと君が現れて…ちょっと遠くに感じてしまうから…だから…私もこっちに転校したいなって…」


「ほら、見なさい!理佳ちゃんだって天斗の側に居たいって言ってるでしょ。こんな良い娘にあんたがこの先出会えるとでも思ってるの?」


「そりゃあ…俺だって理佳子のことを凄く大事に思ってるよ…でも、まだ人生先の事なんて…」


そう言ったとき理佳子が俺を見た。

ちょっと不味いこと言ったのかな…俺はそんなに大した意味は無かったけど…理佳子はもしかしたらもっと違う意味で俺のことを…


「いや、違う理佳子!俺はだな…ただ理佳子がこの先心が変わる可能性だってあるんじゃないのか?って思っただけで…」


あわてて俺は弁解する。


「たかと君…私…私はたかと君をそんな軽い気持ちで好きになったんじゃ無いのに…」


り…理佳子…そうだよな…理佳子本気だったから昨日の夜俺に全てを捧げようとしてくれたんだよな…ごめん…


「お前はほんとバカだねぇ…そんなんじゃ理佳ちゃんに逃げられちゃうよぉ」


「…理佳子…ごめん…そういうつもりじゃないって…俺も理佳子のことを…」


「じゃあもう婚約しちゃおっか?」


母さんはあっさりそんな言葉を口にした。

が、こういうのってそんな簡単にノリで決めることじゃないだろう?

何かまんまと母さんの策略にハマって行くような気がしてならない。

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