第62話 前へ進む決心

理佳子は通話ボタンを押す。


「もしもし?薫?」


理佳子は複雑な心境の中電話に出る。


「理佳…今日はごめんね…ちょっと急に体調崩しちゃって…」


薫はまさかその場に天斗が居るとは思いもよらず理佳子に昼間のことを詫びるつもりで話し出した。


「ごめん、ちょっと待ってね」


そう言って天斗にジェスチャーでごめんと顔の前に手を上げて立ち上がり部屋を出て廊下、階段の降り口手前でもう一度電話を持ち直し


「ごめん、薫?大丈夫?」


「うん、そんな大したことじゃないから。あのあと小山内が家まで送ってくれてさ…あいつ…けっこう良いやつなんだよね」


薫はそう言いながらも何か別のことを考えてるような、言葉に迷いがあるような感じで声に力がこもっていないように感じた。

理佳子は当然薫の気持ちに気付いている。

理佳子は意を決して切り出す。


「薫…私ね、薫のことが手に取るようにわかってる」


そう言われたとき薫は胸が締め付けられるような気持ちになった。

理佳子にしても薫にしても姉妹のように育って来たからお互いがお互い相手の思考や気持ちは解りすぎるぐらいわかってしまう。それを知ってるが故に理佳子には全て見抜かれていることも辛い。


「理佳…そうだよね…理佳には何も言い訳する必要もないんだよね…」


「薫…ねぇ薫…薫はたかと君を通して彼のことを見てるんでしょ?」


薫は鋭すぎる理佳子の洞察力に脱帽する。


「理佳…」


「薫?私ね…いつもいつでも薫がどんなことでも私を優先して私の為にしてきてくれたことはずっとずっと感謝している。だから、薫の為なら私どんなことでも協力するし、どんな努力だって惜しむつもりはないよ…でもね…」


薫はそれ以上理佳子の口から言われるのが辛くて理佳子の言葉を遮り


「理佳…大丈夫だよ。心配しないで…理佳子の大切なものは私にとっても…だから何も心配しないで」


「薫…」


「理佳…私さ…彼のことをもう私の中から消そうと思ってる。だって…辛いもん…いつまでも亡き人を想い続けるのは…私さ…凄く私を想ってくれるやつ現れたから…なんか忘れられそうな気がするんだ…」


「薫…」


理佳子は薫の中に迷いがあることはわかっている。しかし確かに薫の中で何か自分で自分を鼓舞し前へ進もうとしている手応えもまた感じ取っていた。


「薫?小山内君…凄く真っ直ぐな人だよ。私にはわかる。ちょっと不器用なところもありそうだけど、真剣に薫のことが…」


「わかってるよ(笑)あいつ…バカだけどそこそこ喧嘩もやるやつでさ…告白されて返事待たせてるんだけど…今度ちゃんと答えようと思ってるんだ。」


昼間の薫とは全く気持ちに変化を感じていた。

きっとまた私の為に自分の中で気持ちに整理を付けて薫は電話をくれたんだ…

その自分の中の気持ちを自分自身に言い聞かせる為に今こうして話してくれたんだね…

ありがとう…薫…


「そっか、おめでとう…薫」


「フフッ…ありがとう…」

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