第61話 お嫁さん候補

二人はリビングに入っていった。

母さんは鼻歌歌いながら台所に向かい晩御飯の支度をするのか、まな板には野菜が置かれトントントントンとリズミカルに包丁の音が心地よいテンポで響いている。


「おばさん?」


理佳子が母さんの背中に向かって話しかけた。


「あら、理佳ちゃん!」


母さんが振り返って理佳子に優しい笑みで返した。


「おばさん、今日は突然の訪問にも関わらずお泊まりまでさせて頂くことになってすみません。何かお手伝い出来ることはありませんか?」


「いいのいいの!理佳ちゃんはほんとに礼儀正しくて可愛いわねぇ。昔からあなたはほんと可愛らしいわ」


母さんは理佳子を凄く気に入ってるみたいだな。まぁ、理佳子ならどこに行っても可愛がられるタイプだろうけど。


「そんなこと…」


理佳子ははにかみながらそう言って


「でも、せっかくですから何かお手伝いします」


「良いのよ、理佳ちゃんはお客さんなんだからゆっくりして。今日は肉じゃがとお魚を焼くから晩御飯の支度出来たら呼ぶわね。あぁ~今日は嬉しい日だわ。理佳ちゃんに久々に会えておばさんとっても嬉しい」


母さんめちゃくちゃ上機嫌だな…


「天斗、あんた理佳ちゃんお嫁さんにもらえるようしっかり繋ぎ止めなさいよ!」


「おばさん…そんな…私なんて…」


「理佳ちゃん!お願い!天斗を宜しくね(笑)」


まさかの展開!もう理佳子がお嫁さん候補に上がってるよ!そりゃこんな良い女だったら俺もお嫁さんに欲しいけど…でもいくらなんでも気が早すぎるだろ!


「おばさん…ありがとうございます。私の方こそ宜しくお願いします」


そう言って理佳子は母さんにお辞儀をした。

母さんもニッコリ笑って頷く。


「じゃあ理佳子二階に行こうか」


「うん、おばさんそれじゃまた」


そう言って軽く会釈をして二階へ上がった。


「いや、ビックリしたよ。まさか母さんあそこまで理佳子気に入ってるとはな」


「昔もおばさんには良くしてもらったから」


「そうなのか?」


「うん、凄く可愛がってもらったの」


理佳子が昔のことを思い出してるのか、少し物思いに耽っているような、視線が少し遠くを見ている。


「そう言えば、そっちの学校ではイジメとか大丈夫か?」


「うん、今はけっこう落ち着いてるかな…」


「そっか。それなら良いけど…何かあったらすぐ電話してくれたらいいんだぞ?」


「ありがとう。たかと君がそう言ってくれるから私は大丈夫だよ」


そう言ってニコッと笑ってつぶらな綺麗な瞳で俺を見つめる。

色白で小顔で、薄くて赤い唇。髪はストレートで肩ぐらいまで伸びていて、前髪は眉毛にかかるくらいに自然に垂らしたまだ幼さの残る理佳子…可愛い…

俺はじっと理佳子の顔を見つめそっと俺の唇を理佳子の唇に近づける。

理佳子はそれに応えて目を閉じる。

もし、理佳子と結婚するとしたら…いつもこんな甘い生活が待ってるのかな…

理佳子…お前のこと…

俺と理佳子の唇が触れようとした瞬間


理佳子の携帯に着信…


俺と理佳子は甘い夢の中から一気に現実に引き戻された。

俺はこの最悪なタイミングの着信に思わず舌打ちをしてしまった。

理佳子は笑って


「ごめんね、間の悪い携帯で」


そう言って笑いながら誰からの着信か確認する。


「あっ…薫からだ…」


思わず二人は顔を見合わせた。

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