第43話 ロマンチックな夜

理佳子…大好きだぜ…

お前を大切にする…

ずっとずっとだ…

絶対離さない…


たかと君…私…あなたと離れたくない…

ずっと傍に居たいよ…

私を連れてって…もうたかと君が居ない街はいや…


二人は長いキスの中で無言の会話を続けていた。

お互いこの時間が過ぎ去るのを惜しんでいる。

お互い離れたくない…しかしまたこの日が終われば…この時間が終わってしまえば…


連れて帰りたい…理佳子を連れて帰りたい…


離さないで…私を連れてって…お願い…



長いキスから俺は理佳子の唇から俺の唇を離し


「理佳子…」


「………たかと君」


二人はお互い見つめ合う。

理佳子の目には涙が溜まっていた。


わかってる…お前の気持ちはわかってる…

俺もお前と同じ気持ちだ…


二人はこの幸せな時間が永遠に続けばという思いで見つめ続ける。理佳子の目に溜まっていた涙が一筋こぼれ落ちた。


俺はそっと親指でその滴を拭ってやった。

そのまま理佳子の左頬に手を当てた。

そして俺の親指は理佳子の唇に触れる…

お互い無言で見つめ合う。

二人の間に言葉は無い。心と心で熱い会話が続く…

理佳子の目から次々と涙が溢れ出て来て俺は自分の胸に理佳子の顔を優しく押し当てた。

理佳子はまた泣き出してしまった。


「理佳子はほんと泣き虫だなぁ…」


「グスン…グスン…だって…だって…グスン…ヒッ…ヒッ…グスン…」


「いいさ、気の済むまで泣けよ」


理佳子はなき続けた。

それから10分ほど経っただろうか…

理佳子はだいぶ落ち着いたらしくそっと顔を上げ俺を見つめる…

また俺と理佳子はお互いの唇を重ね合わせた。


「ありがとう…たかと君…もう…大丈夫…」


「お前ほんと可愛いやつだな」


理佳子は恥ずかしそうにはにかむ。

そこで小山内のバイクの音が遠くから聞こえてきた。


「理佳子…」


「うん…もう大丈夫だよ…」


「このまま連れて帰りたいよ…」


「止めて…それ以上言われると…また辛くなるから…」


理佳子は俺の肩に頭を乗せた。


「わかった。次はちゃんデート出来るな…」


「うん…」


「もっともっとゆっくり会える…」


「うん…」


「もし、理佳子が…俺が転校する前に気持ち教えてくれたら…」


「多分…たかと君が転校しなかったらずっと想いを伝えることは出来なかったよ…」


「………そうか」


「だから…」


理佳子はしばらく沈黙する。


「だから…淋しいけどこれで良かったのかな?って…」


そうなのかな…これで良かったのかな?

遠く離れて会うのは困難なのに…これで…


「たかと君…淋しいけど、きっかけが無かったら私こうして幸せな時間は訪れなかったんだもん…だから…これ以上望めないよ…」


「そか…お前は大人だな…」


「そうじゃないよ…こんなにたかと君に想われて大事にされて…満足しちゃった…」


「理佳子…」


「そろそろ戻らないと…お友達が心配するよ?」


「そ…そうだな…」


二人は立ち上がった。

そして俺は歩きだそうとした時、理佳子は俺の袖を掴み…俺は振り返ってもう一度キスをした。

そして二人は手を繋いで歩き出す。


「たかと君…」


理佳子が空を指差しながら言った。


「綺麗な夜空だよ」


「あぁ、凄く綺麗だな」


それはとても静かでロマンチックな夜だった。

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