第23話 佐々木日登美の闇

俺は陰に隠れて二人の様子を窺って(うかがって)いる。


男は口髭を生やしサングラスをかけて縦縞の服を着て斜に構えたいかにもヤクザ風のスタイル。

なんで佐々木がこんな所であんなヤバそうな奴と!

俺は咄嗟に佐々木の方へ駆け寄ろうと立ち上がった。

その時重森が俺の腕を掴んで引っ張り俺を座らせる。

俺は小声で


「いったい何が起きてるんだよ?佐々木ちょっとヤバい状況じゃないか…なんで重森こんなこと知ってんだよ」


俺の頭の中は整理が付かず少し感情的になっていた。

重森も小声で


「いいから自分の目でよく見てみな」


冷静にそう言った。

俺はじっと二人のやり取りを観察した。

何かヤクザ風の男が佐々木に手渡している

袋に入った何か…何だろう…

そして佐々木は男に何か言われている。

よく聞き取れないが所々聞こえてくるやり取り…


「いいか、ちゃんと全部さばいとけよ!」


男が威圧的に言ってるのがわかった。

佐々木がうつ向いたまま頷いた。

そして男が去ろうとしたところへ佐々木が男の袖を掴んで止めようとした。

男は佐々木の腕を振り払い振り払った腕で佐々木の頬を殴った。


「あっ!」


俺は思わず声が出てしまったがどうやら気づかれなかったようだ…

佐々木は殴られた頬を自分の手で抑えうつ向いたままだ…

そして男は佐々木を気にかけることなく行ってしまった。

佐々木はその場にうずくまりどうやら泣いてるようだ。


俺は重森の顔を見た。

重森はそっぽ向いてこう言った。


「あの娘麻薬の売人と繋がってるの。それで利用されてんの。それで麻薬の売買のトラブルに巻き込まれてあんたの名前を笠に着て利用しようとしてるだけ…わかる?」


わかる?って…そんな…あの無邪気な佐々木が…そんな闇の世界に…とても信じられない…


「目が覚めた?ほんと女見る目が全くないよね…」


重森はショックを受けている俺に追い討ちをかける。


「まさかとは思うけど、あんなクズにプレゼント選ぶの付き合わせたんじゃないよね?あの娘とんだクズ女だよ!男を次から次へとたぶらかして薬売りさばいて、アイツに何人の男が麻薬に沈められたと思う?この世界はね、あんたみたいな坊やが思ってるほど綺麗なものばかりじゃないの!」


そう言って重森は立ち上がり歩いて行ってしまう。

俺は一瞬立ち尽くしてしまったが慌てて重森の後を追う。

自分の浅はかな行動を振り返り自分が凄く惨めに思えてきた。

重森とバスに乗りそして電車に乗り換え帰宅する道のりの中でずっと俺は考えていた。

自分の愚かさと、そして重森の謎…

何故重森は佐々木の裏の顔を知り得たのか…

いったい重森は何者なのか…

俺は重森のあまりにも謎めいた影に興味が湧いていた。

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