第10話重森薫(しげもりかおり)

あれから俺は清水に何も言えないまま時間だけが過ぎた…


ずっと清水のことばかり考えてきたが、いよいよ新学期がやって来てしまった。


学校の門の前まで来て


「ヨシ!今日から俺は普通の黒崎天斗だ!」


そう自分に言い聞かせ校内へ向かう。


職員室の中をそーっと覗く。


確か…あれが担任の田中先生だったか…

俺は担任の所へ歩いていく。


「おぉ、おはよう黒崎。宜しくな!」


そう言って田中先生が握手してきた。


「宜しくお願いします」


俺もお辞儀をした。


「じゃあ、始業式終わってから教室入っくれ。その方がゆっくり紹介出来るしな。」


「はい」


俺は始業式が終わるまで職員室の客間のソファーに座って待っていた。

だったらこんなに早く来ること無かったのになぁ…

待つのは長い…待ちくたびれてウトウトしてしまう…


回りがザワザワ騒がしくなり生徒達が教室に戻る気配がする。

いよいよかぁ…なんか緊張するなぁ…


担任の田中先生が


「ヨシ黒崎!行こうか!」


「はい」


担任と2年3組の教室に向かう。


教室のドアを担任がガラガラと開け先に入って行った…


「えぇ、今日から新しいクラスメートが加わる。○○高校から転校してきた…黒崎…天斗君だ」


担任が俺を手招きする。

俺はゆっくり教室に入り担任の横に立つ。


「自己紹介して」


担任が促す


「えぇと…黒崎天斗…よろしく…」


なんて無愛想な挨拶になっちまったんだ!

ほんとに俺はここぞというときダメな男だ…


その時全員がザワザワとざわついた…


な…何だよ…この異様な空気…ま…まさかとは思うが…ここに来てまたあの本物ヤンキーと間違われるってやつか?

何かみんな俺から目を反らしてるような…



「去年○○県から転校してきた重森薫(しげもりかおり)君と同じ出身だ。同郷だから仲良くしてやってくれ」


そう担任が言った。


同郷?ってもしかして…清水の言ってた従姉妹ってあいつか?


「丁度重森君の隣の席が空いてるからそこに座れ」


そう言われて俺は重森という女子の隣の席に向かった。

横を通ろうとする度にすれ違う奴等がビクッと避けていく…


もしかして…俺を本物と勘違いしてるのか?

こんなところまで伝説は広まってんのかよ…

初日から先が思いやられる…俺は嘆いた…


「よろしく…」


隣の重森薫に挨拶したがこちらには目も合わせず黙って前を向いている。

何だよこの無愛想な態度は…って俺も人のこと言えないか…


後にこの女子こそが俺の運命を大きく変えることになる…

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