第48話・意外な情報通
学校の本は持ち出すことが禁止なのでコピーをもらって、中庭で待っていると、彼方くんと渡良瀬さんもやってきた。
で、集めた情報を集めると。
「学園の敵は国内にも国外にもたくさんあり過ぎて絞れねえ」
「コア生物を生み出す研究に関しては、やっぱり弧亜学園が一番ね。ていうか、弧亜学園が全世界に研究結果を放出してるみたい」
「で、七〇年前の初代学園長から、コア監視員の作り方は三代目の今まで受け継がれてきたみたいだ」
弧亜学園がとんでもないのはよくわかったけど、情報は絞れないというのが正直なところ。
「各国のコア生物研究機関は軍関係に近いところにいるけど、弧亜学園に勝る所はないわ」
「コア監視員って言うコア生物を生み出せるってだけでコア生物研究のトッパーではあるな」
「いいや、元は学園は軍の施設だったみたいだけど」
彼方くんと渡良瀬さんは一斉にこちらを向いた。
「ちょっと待て、どういうことだ」
「戦時中にコア生物研究をしてたって」
学園史のコピーを引っ張り出す。
「本当ね……日本軍の研究施設として、コアの軍利用を研究してた……」
「何でも初代が散々苦労して軍と切り離して、若人のコアを平和利用しようって言うことにして学園って形で再建したとか」
「元は軍施設だったわけか」
「うん。でも、初代学園長はそれ以前からコア監視員を創ることができたって」
「何?」
「いやだから、それがバレると独裁国家とかに利用されると厄介だからってGHQとかには秘密にしてたらしい」
「お前、そんな情報、どの本の何処に書いてあった?」
「いや、ココが」
「おい、待て」
彼方くんは真剣な目で言った。
「お前のコア監視員が言ったのか?」
「? ……うん」
「なんでお前のコア監視員はそんなことを知ってるんだ」
「え? もう
「丸岡くん、監視員から何を聞いたの?」
「え? 学園の歴史とか」
「俺のコア監視員はそんなこと言わなかったぞ」
「私のコア監視員も、そんなこと一言も……」
???
「ココ?」
呼んだら、ココはすぐに現れた。
「聞いてたんだろ、どういうこと、ココ?」
「聞かれたから答えただけですけどー」
「聞かれたから答えただけだって言ってる……」
「……確かに、私は聞かなかったわ」
「ていうか、何でこんなことをコア監視員に相談しようとするんだよ」
「今僕の知ってる中で学園に一番詳しいのはコア監視員だから、と思ったんだけど」
「チェンジ! ほんとにチェンジするぞ! 情報共有許可出たんなら俺にも教えろ!」
「ミャル~……教えていいことは教えてよ……」
そこから一気に情報分析は加速した。
僕ら三人のコア監視員は生まれて一年経ってないけど、情報は全てのコア監視員が共有している。そして、
僕がココを頼って情報を探したから、ココは情報を提供した。一方最初っからコア監視員を信用してない彼方くんやこの一件でちょっとコア監視員不信になっている渡良瀬さんは、本の場所以外の情報……つまり、調査内容について聞く、ということをしなかったから、二人のコア監視員は情報提供しなかった。そう言うわけ、らしい。
全世界に散っていた学園の敵は、十分の一以下にまで絞れた。
各国の研究機関が知っている、弧亜学園のコア生物研究は、「弧亜学園は一般に知られるコア生物より、更に高い知識と複雑な思考回路を持ち合わせる有用性のあるコア生物を生み出すことに成功している」というだけで、それだけは各国がいくら情報料を弾んでも脅してもなだめても透かしても出てこないらしい。本拠地である日本の総理大臣にすら伝わっていないという。
そして、学園の歴史。
軍の研究施設から、私立の学校兼研究機関となるまで。
そして学園が学園の形をとる前から、美丘という姓を持つ女性がコア監視員を作り出せたこと。
「本当の、本当に、学園長がこの情報を出していいって許可したんだよね?」
再確認する僕に、ココは大きく頷いた。
「はいー!
「だって」
「……お前なあ」
彼方くんが呆れ声を出した。
「よくこんな状況で、コア監視員を信用できたなあ……」
「動き出せたのは、ココのおかげだから」
そう。あの時、ココが言った、「今何をすれば望む未来が引き寄せられるか、それを考えるのが一番建設的だと思う」という言葉。
そして、更に僕が尋ねた、「望む未来が見えない時、八方ふさがりでお先真っ暗、そんな未来しか見えない時は?」という問いに、「それを何とかするための思考でしょう?」と答えてくれた。
あの言葉がなければ、僕は、今多分ここにはいない。
「他のコア監視員を知らないから何とも言えないけど、少なくともココは、僕に動くことを勧めてくれたから」
「学園長の目で、耳で、口って言う生き物なんだぞ?」
「それを言ってくれたのが学園長なら、学園長に感謝するよ」
彼方くんは溜め息をついた。
「……でも、重要な情報源ってことは分かったわ」
渡良瀬さんは何とか自分と折り合いをつけようとしているみたいだ。
「学校の本気で敵になりそうな勢力はある程度絞れたし」
「中は?」
思わず出した僕の言葉に、彼方くんと渡良瀬さんはきょとんと僕を見た。
「学園長の敵に絞れば、学園の中にもいるんじゃないかな、敵」
少なくとも学園長は長田先生を警戒している。
なら、他の研究員を警戒していてもおかしくはないはず。
「そっか、内部の敵……」
「そっちの方が可能性としては大きいな」
彼方くんは唸る。
「コア監視員のことが学外に漏れていないなら、コア監視員の網をかいくぐる能力なんてのを作り出せるのは内部の人間だけだ。弧亜学園の生徒、教師、教員、コア医、研究者」
「記憶消去の上の追放処分なんて、極端な罰則だと思ってたが、コア監視員のことを外部に知られないようにするため、とすれば納得できるわね」
「でも、どの研究者が怪しいかをココたちに聞くのは難しいと思う」
「なんでですかー?」
ココは聞いてきたし、彼方くんと渡良瀬さんも一瞬虚空を見てから僕を見たので、コア監視員の意見を聞いたことが分かった。
「だって、相手はコア監視員の目を反らせる研究を実用にまで持ってきた研究者だよ? 当然、自分付きのコア監視員の目を逃れる方法を先に編み出してると思う。コア監視員の目のない所で研究できる人が、コア監視員にそのことを気付かせるはずがないよ」
「確かにな……」
その時、不意にココが消えた。
「ココ?」
虚空を見るが気配もない。
右手の甲に熱が宿った。
「ナナ?」
一瞬透明のコアが緋色に染まって、それまでとは違う、緋色の服を着たナナが現れた。
「ごめんなさい、皆さんのコア監視員を追い払うようなことをしてしまって……」
「何かあったの?」
「……はい」
ナナはしばらく躊躇していたが、やがて顔を上げて言った。
「わたしの
「今絶賛捜索中だろうが」
「そうじゃなくて、
「危ない?」
渡良瀬さんに促され、ナナは言った。
「わたしに届いたんです。
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