第43話・創造主とは何ぞや

「長田先生は、創造主クリエイターに会った事はありますか?」

 追加授業の時、僕は長田先生に聞いた。

「はい、クリエイターと言えど色々ありますが……弧亜学園でクリエイターと言えば、はい、俗に創造主クリエイターと呼ばれる、はい、コア生物をクリエイトするコア能力者のことですか?」

 向こうから、「何余計なこと聞いてんだ」という彼方くんの視線が痛い。

 でも、正しい知識は手に入れておきたい。

 僕の創造主クリエイターに関する知識は、他の高校一年生と大差ない。複数コア持ちで超強力なコア能力の持ち主というだけだ。

 いずれ出くわすなら、少しでも情報が欲しい。

 ただ、御影先生は創造主クリエイターの話を始めると、空の向こうへ意識が飛んで行ってしまい、何やら僕には分からない専門用語を連発して感激してしまうから聞けなかったんだ。

「その創造主クリエイターです」

「はい、難しい話ですねえ」

 ラジオ体操は終了し、筋トレとヨガの組み合わせの練習中。

 水分補給の休憩時間に、相変わらずぬぼーっとしながら長田先生は答えてくれた。

創造主クリエイターと呼ばれるコア能力者に会った事があるかどうか、ということについては、分からないというしかありません」

「分からない、ということは、会ったことがあるかも知れない、というわけですか?」

「はい、そうです」

 長田先生は遠い目で話を続ける。

「コア監視員というコア生物がいる以上、この学園の関係者に創造主クリエイターがいることは間違いありません。しかし、君たちも知っての通り、その正体は明らかではありません」

「先生にも秘密なんですか?」

「はい。知っているのは恐らく学園長と、創造主クリエイター本人しかいないと言われています」

「学園長なら知っている?」

「恐らく、知っていると思われます、はい。ただ、学園長がそのことを他者に漏らすことはあり得ないと思いますし、一年生が学園長に会う機会があることは珍しいので、会って聞くのは、無理だと思います、はい」

 そして、長田先生はぬぼーっとした顔を向けて僕に聞いた。

「はい、どうして今、そんなことを?」

 あ、ヤバい。

 と思ったら、思わぬ救いの手が来た。

「俺のコア監視員をチェンジしてもらいたいんだよ」

 彼方くんがぶっきらぼうに言った。

「うるさいわイラつくわ注意するわ人の日常に近付き過ぎだあいつ。もうちょっと大人しいヤツにチェンジしてもらいたい、って話をしてたんだよ」

「おや、はい」

 長田先生のぬぼーっとした目の奥で、何かが光ったような気がした。

「コア監視員の交代を要求ですか、はい。でもそれは、無意味だと思われます、はい」

「無意味ってどういう意味だよ」

「コア監視員は、はい、どうやって君の所に来ましたか?」

「合格届と一緒に入ってた紙にコアを触れさせたらあいつが出てきた」

「はい、その通りです」

 先生はそのまま続ける。

「はい、コア生物は特殊な生まれ方をするのは、君たちは何処まで知っていますか?」

「何処までって」

「コアの力で作った肉体にコア周波数って言うエネルギーを吹き込むんだろ?」

 彼方くん?

 驚きの目を送った僕に、彼方くんの視線は明らかに「これくらい知っておけ」と言っていた。

「はい、その通りです。それから考えると、コア監視員は珍しい産まれ方をしていると、はい、そう思いませんか?」

「珍しい……生まれ方」

「一枚の紙のように見せたコア生物の肉体と精神と生命の素を、コアに接触させる。それだけで、コア監視員が生まれる。はい、創造主クリエイターがその場にいないのに、対象のコア周波数だけでそれらを構成しなおす。……ですから、監視対象の動揺や好悪で俗にアバターと呼ばれるパーツが変換されることはありますが、君のコア監視員は君の内から生まれてきたのだから、もう一度同じことをやったとしてもそっくり同じなコア監視員が生まれるものと思われます」

「チッ、チェンジできねえか」

「コア監視員と言えば、はい。私は思ったことがあります。この学園の入学には、コア監視員が必要なのではないかと、はい」

「?」

 首を傾げてしまった僕に、彼方くんはしばらく考え込んでいたけど、こう答えた。

「コア監視員を生まれさせるほどに強いコア周波数を持っている生徒を選ぶ。って意味か?」

「はい、そう言う意味です」

 長田先生が肯定する。

「いくら偽造生命の素となる、あのコアをくっつけた紙があったとしても、はい、恐らくある一定以上のコア能力者でなければ、コア監視員は、生まれないでしょう。受験とは名ばかりで、実際は、コア監視員を生まれさせるコア力の持ち主を選抜しているのではないかと思っています、はい」

「先生……?」

「はい、もちろん、この学園に就職、研究している身としては、かなり異端な考え方だということは理解しています、はい。ただ、純粋に数として計算すると、生徒より、教師より、教員より、研究者より、どのグループより多いのは、コア監視員ではないかと思われます、はい」

「全く、見えないだけであっちこっちで見張ってるってわけか」

 彼方くんの文句を、長田先生は黙って聞いていた。

「監視員って言うけど、何を見張ってるんだろう?」

 僕は呟いた。

「何って……生徒じゃないのか」

「だって、生徒よりコア監視員が多くて、監視対象がないコア監視員は消えるってことは、つまり……監視対象が生徒以外のグループにもいるってことでしょう?」

「はい丸岡君、正解です」

 長田先生はぬぼーっと答えた。

「はい、私もこの学園に、教員として入る時、コア監視員をつけられました」

「つまり、この学園で人間とコア監視員は一対一の割合になるってことか」

「そうです、はい」

 こくりと一つ頷いて、長田先生は続けた。

「監視とは言いますが、はい、このような異端思想を君たちに語っている私が、今まで追放されたことはありませんでした。もし、コア監視員が本当の意味で学園の為に我々を監視しているのであれば、はい、以前の彼方君であればあっと言う間に追い出されたでしょうし、異端的考えを持つ私も追放されたでしょう、はい。コア監視員が誰の為に、何を見張っているのか、知っている人間は学園長と創造主クリエイターの二人……いえ、下手をすればどちらか片方しか知らない可能性だってあります」

「……先生は、そんなことを僕らに話して、いいんですか?」

「何人かの生徒に話したことはあります、はい。卒業した生徒もいましたし、記憶消去・追放された生徒もいました。私の言葉がどう影響したかは分かりませんが」

「……先生は創造主クリエイターをどう思っていますか」

「この学園の、ですか」

 長田先生は表情を変えず(と言うかあんまり表情がない)訥々と続ける。

「非常に驚いたのは、コア生物、その肉体と生命を、紙のようにして、コアを接触させるだけで、肉体と精神と生命を発動させるというコア能力者が存在していたということでした、はい。恐らく有史以来最強のコア主だと、そう思っています、はい」


「バカかお前は」

 追加授業を終えて、彼方くんの第一声がそれだった。

「長田は確かに信頼できそうだと俺は言ったよ。だけど、創造主クリエイターについての質問なんて、不審に思われても仕方ないぞ」

「情報は、仕入れとかなきゃって思って」

「まあ、な。確かに情報は入ったよ。この学園には人間と同じ数のコア監視員がいる」

 そう思うとなんだか急に息苦しくなってきた。

「そうだよね……コア監視員は僕を見張ってる。コアを見張ってるって思ってたけど、監視員を秘密警察って言い換えたらこの学校について疑問に思ってる人を見つけて追い出すことだってできるはずだ。長田先生のように」

 彼方くんはんー、と考えていたが、顔を上げた。

「だったら、今以上にヤバい橋を渡る度胸はあるか」

「え?」

「俺は学園長を知っている」

「えええ?!」

 彼方くんは苛立った顔で言った。

「受験の時、お前と出会ったろ。俺が空気圧殺エア・プレッシャーでお前を吹き飛ばそうとして逆襲食らった時。あの時、止めに入った女がいたのを覚えているか?」

 必死で思い出す。

 ……車の中から制止した女の人。

 一気に記憶が学園長と女の人に繋がった。

「会いに、行ってみるか? 長田の一万以上ヤバい橋を渡ることになるが」

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