第39話・秘密の共有
月が改まって新しい週が始まって、僕は中庭に渡良瀬さんと彼方くんを呼び出した。
渡良瀬さんもいるのは、僕の説明不足の時に補ってくれないかと頼んだから。
そして二人の秘密が三人の秘密になっても「三角関係ー!」とおおはしゃぎして消えたココたちコア監視員はいない。
「まず聞くが」
仏頂面で切り出したのは彼方くんだった。
「なんで特別な用事でもない限り二十四時間傍にくっついてるあのコア監視員が姿を消すんだ」
「ん~、どっから話すべきなのか……」
考えて、この中庭に、空からナナが落ちてきたところから話し始めた。
「コア監視員に姿が見えないコア生物?」
「うん。事実、僕のコア監視員や渡良瀬さんのコア監視員には見えてなかった。僕が掌で彼女を隠してたけど、監視員は覗き込んで、誰もいないと判断した」
「コア監視員が嘘をついた可能性は」
「そんなところで嘘をつくコア監視員なんていないよ」
「俺のとこのはよく嘘つくぜ」
「え、本当」
「お前の居場所を隠したり、お前の部屋を知らないって言ったり」
「それは揉め事を減らすためだったんじゃ」
「ふん。底の浅い嘘しかつけないのにしょっちゅう嘘をつくからチェンジしろって言ったら勝手に名前がそうなったんだ」
「それで「チェンジ」な訳ね」
渡良瀬さんも複雑な顔をした。
「彼女は本来なら僕や渡良瀬さんにも姿が見えないはずって言ってたけど、僕たちには見えた。僕たち以外には見えないかもしれない。それは分からない」
「俺には見えない可能性があるんだな。……で、そのコア生物がどうした」
「
「
そんなバカな、という表情をしているけど、事実なんだから仕方がない。
「で、コア生物の常で、コアに同調してなきゃ生きてられないんだけど、
「同調と同化は違うだろ」
学園に入学できるだけあって、彼方くんはそう言うところ勘が鋭い。
「同調はあくまでも特定の周波数に共振するように固有振動数を合わせることで、生物が外界から摂取した物質を、特定の化学変化を経て、自己の成分あるいは有用な物質に合成する同化とは意味が違う」
「……詳しいね」
「これくらい知っておけ」
「……肝に銘じます」
「で。同化って、現状どういうことなんだ」
「このコアの中に、いる。コアの一部に宿って、自分がコアそのものになっているみたいだ。だけどコア監視員のように自我があって、脳みそに直接言葉を送り込んで会話ができる、みたいだ」
「なんで断言できない」
「彼女、そのまま眠っちゃったみたいでそれ以来反応を示さないんだ」
「は?」
「違和感って形で、彼女がいるのは分かる。でもその違和感を、僕のデータを取りまくっている御影先生の結果には出てこない。確かにコアの中に彼女はいるんだけど、無反応。僕の違和感って形でしか感知できないし、その違和感も薄れかけてる。何度か心の中とか直接声をかけてとかでコンタクト取ろうとしてるんだけど、全然」
「消えた、わけじゃないんだな」
うん、と頷くと、彼方くんは考え込んで。
「じゃあ、ちょっと乱暴に起こすしかないな」
と言った。
「乱暴に?」
「そのコアの中にいるんだろ? そのナナとかいうコア生物」
「うん」
「あのケンカの時まで、何の反応もなかったんだろ?」
「うん」
「だったらやることは一つ。外から衝撃を与えて中を揺るがすことだ」
「彼方くん、それって無茶な……」
渡良瀬さんの言葉に、彼方くんはチラリとそっちを見た。
「コアのコピー……一つでは足りないってなった時に、コアの半分だけが色を変えたんだって、渡良瀬言ってたろ」
「そうだけど……」
「コア監視員のようにコア周波数に同調してるんなら、それが乱れることで異物に影響を与えられるかもしれない」
それに、と彼方くんは付け加えた。
「本当に一から十まで同化してしまったら、コアだけじゃなく丸岡自身にも影響が出る可能性がある。その前に一度引っ張り出して話を聞かなきゃいけないだろ」
彼方くんの言うことは間違いじゃない。
少しずつ薄れゆく違和感。これが消えたら、多分ナナは僕の中に取り込まれる。その時僕がどうなるか、ナナがどうなるか分からない。違和感が消える前にどうにかしなければならない。
「でも、具体的にはどうやるの? 言っておくけど、コア戦闘は校則違反よ」
「そんなことはしない。複数のコア周波数を流し込んで、丸岡のコア周波数を乱すだけだ。コアに反応が出たのは、俺と片場、二人のコア周波数をコピーした時だったろ。あれと同じだ。幸い俺と渡良瀬がいるから、条件は揃っている」
「でも、丸岡くんに影響は」
「丸岡のコピーは他人のコア周波数を読み取ることによって同じ力を得るんだろ。同じだ。ただ、丸岡がコピーした時はコアは反応したがコア生物は反応しなかった。だから、今度は丸岡がコピーするんじゃなくて、俺と渡良瀬でコア周波数を送り込む」
「つまり、僕をコア攻撃するってこと?」
「違うな、周波数を送り込むんだ。コアを直接接触させて、周波数を直に送り込む。これなら周波数を写し取る能力の丸岡に問題はなく、コアの中にいるコア生物だけが飛び起きる可能性がある」
「……やってみる?」
回答は任せる、と渡良瀬さんは僕を見る。
「やってみよう」
僕は頷いた。
渡良瀬さんの左ひじの桜色のコアに、彼方くんの左掌の白藍色のコア。
これが触れると一体どうなるかは……分からない。
だけど、このままナナが溶けていくのも放っておくわけにも行かないし。
僕は右手の甲を突き出した。
渡良瀬さんの左ひじと、彼方くんの左掌が迫る。
「いいか、合図したら同時に触れるぞ」
「分かってる」
「せーの」
カツッ!
コアにはあり得ないはずの固い音がして、慌ててコアを離した渡良瀬さんと彼方くん、そして僕の目の前で、コアが白藍色と桜色がマーブルのように渦を巻く。
その渦から光が溢れ、黄色い光となって、コアの上に浮き上がってきた。
「……ナナ」
コア監視員とよく似た姿に誰にも似ていない顔。トンボのような半透明の翅。
彼方くんが目を細めてそっちを見ている。
「見えてるの?」
「微かに」
彼方くんはぶっきらぼうに返した。
「薄く薄く見えるが、何とか分かる。なるほど、コア監視員そっくりだ」
僕にはくっきりと見える。
「お、おはようございます」
ナナは恐る恐るあいさつした。
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