第38話・新しい目覚め
ココの後について校門まで走ると、そこには彼方くんがいた、
「彼方くん?!」
「チッ、来たか、よりによってお前が」
その向こうには、五人の、僕らと同年代の男子がたむろしていた。
「え~? 那佐中のスピードスターが、ケンカに応援呼ぶようになっちゃったんだー?」
「あれだけコアで俺たち吹っ飛ばしておいてー?」
「なっさけなくなっちまったねえ」
「データ、なし」
ココが言う。
「この学園の関係者ではありません」
「分かってる」
「何が分かってんだい、そこの坊ちゃん」
おっと絡まれた。
「ここに駆け付けたってことは、彼方に助太刀するために来たんだよなー? それでも五対二だから、数ではこっちが上だ」
「言っておく」
彼方が低い声で言った。
「そいつは強いぞ」
え?
学園外の男子も、聞いた僕も、驚いてそっちを見た。
「こんな坊ちゃんが強いわけねえだろ」
「スピードスターに土をつけたって言うのか?」
「ああ」
彼方くんの言葉に、男子五人は言葉を失った。
続いて、いやらしい笑みを浮かべた。
「こんな坊ちゃんに負けたか! スピードスターなんて名乗って粋がってたお前が!」
「なっさけねぇ、弧亜学園で一番になるって言い切ってたのが、一年の一ヶ月で負けるなんてよ!」
彼方くんは拳を固く握りしめて、相手を睨んでいる。でもコア戦闘の態勢じゃない。
コア戦闘を仕掛けようとしているのは男子五人……恐らく彼方くんの中学時代の知り合い、しかもいい知り合いじゃない。
「全員、捕えてください」
ココが淡々とした声で言った。
「学園内に入れて不法侵入とするか、学園外でコア法違反とするか。決して学園外でコア戦闘を行わないように」
「了解」
僕は鼻の頭を掻いてから、ゆっくりと男子生徒五人の前に立った。
「坊ちゃん、何処中の何様だい?」
「弧亜学園風紀委員、丸岡仁です」
僕は名乗った。
「学園外でのコア戦闘はコア使用法違反に当たると知っていて、ここに来たんですか?」
「はっ、弧亜学園がどんな学校だろうと、数と力があれば勝てるんだよ!」
「警察沙汰になると知っての訪問ですか?」
「違うね、そこのスピードスターに仕返ししてやりたかっただけだ」
男子の一人がニヤリと笑う。
「こいつ、中学校の時、コア移動で車道走ってたし、コアケンカも結構してた。そんなヤツが弧亜学園に入って偉そうな顔をしているのが気に食わないだけだ」
「彼方くんは偉そうな顔をしていない」
え、と彼方くんの表情が一瞬変わった。
「彼方くんは本当に強くなるために地味なトレーニングを毎日真面目にこなしてる。中学の時はともかく、高校では校則を守り、規律を守り、日々努力している」
右手をさりげなく後ろに回して、僕は言った。
「数を頼りにコア戦闘を挑んできても、今の彼方くんには勝てない。正式な訓練を受けた人間と受けていない人間の差は大きい」
話しているうちに、ニヤニヤ笑っている彼らに腹が立ってきた。
「そんな、彼方くんの努力も知らないで勝手にケンカを売りに来るんじゃない!」
「じゃあ、お前が俺らの相手をしてくれるのかい」
「丸岡、どいてろ! 俺のケンカだ!」
「コア戦闘は校則違反、ましてや他校の生徒となったら、罰則大きいよ」
彼方くんはぐっと息を飲み込んだ。
「風紀委員に任せておいて。そして力を貸して」
「チッ、結局お前も他人の力でケンカするんだからな」
コアが白藍色に染まったのを気配で察した。
「お前が彼方の代わりにボコられるってのか!」
男子の一人が殴りかかってきた。
「
僕の周りを空気が取り巻き、その拳を弾き返す。
「な!?」
殴ってきた男子が息を止めた。
「彼方より……強い
ああ、彼方くん、真面目に訓練してるんだなと分かった。
僕は特に
「こンの……!」
一人が鉄パイプで殴ってきた。でも
「どうしたの」
僕は聞いた。
「僕を彼方くんの代わりにボコボコにするんじゃなかったの」
多分、彼らの企みはこうだ。
まず、彼方くんを校外に誘い出す。
次に、物理攻撃や精神攻撃か知らないけど、それで彼方くんを挑発する。
そして、彼方くんにコア戦闘をさせて、そこで警察を呼ぶ。
弧亜学園の生徒がコア戦闘を許されるのは校内だけだ。校外では普通にコア戦闘は禁止されている。コアは身を守るのに使えるとはいえ、彼方くんのかつての性格を考えると、絶対に攻撃に移行するから。
「言っておくけど、物理攻撃でもコアを使わないとこの
「くそナマイキな坊ちゃんがあ!」
僕と男子五人の間には開いた校門がある。外に男子、中に僕と彼方くん。校内にいる間は風紀委員はコア戦闘が可能。だけど外に攻撃をしたら風紀委員でも警察沙汰になる。
僕は校門のギリギリ内側に立って、相手の直接攻撃をひたすら
「何だ、この程度で彼方くんに勝とうとしてたのか。そりゃあ勝てるはずない。彼方くんがバカらしくて挑発を無視したわけが分かった」
かあっと男子五人の顔が赤くなる。
「こっちにだってなぁ、コアがあるんだよ!」
男子の一人の首筋にあった紺青色のコアが光った。
途端、僕の身体が動かなくなった。
「……! …………!」
金縛り?
「このままこいつを連れてきゃあ、弧亜学園の名前にも傷がつくからなあ!」
別に、このまま放っておけば、他の風紀委員が駆けつけて彼らを何とかしてくれるだろう。
でも、彼方くんが。
彼方くんの形相が、以前と同じようになっている。
「貴様ら……こいつをどうする気だ!」
「どうもしねぇよ、お前の代わりに袋叩きにするだけさ!」
「この……!」
まずい。
彼方くんが学園と無関係の人間にコア戦闘でダメージを与えれば、確実に追放処分だ!
その時。
僕のコアが熱くなった。
見なくても分かる。コアの色が……一部だけが変わっている。
ちょうど半分に分断して、片方が彼方くんの白藍色に、もう片方が乱入者の紺青に。
殴りかかろうとした彼方くんに、金縛りをかける。
「ぐっ?!」
そして、乱入者の後ろに、
問答無用で背後から空気圧で吹き飛ばし、学校の敷地内に追い込む。
その途端、金縛りが解けた。
どうやら気が反れると解けるものらしい。この程度でよく弧亜学園にケンカ売りに来たな。
「こ……の」
そこへ、援軍の風紀委員が駆けつけてきた。
「学園内不法侵入!」
五人がしまったという顔をして逃げようとするが、僕はまとめて五人に金縛りをかけた。
「丸岡くん、無事?!」
援軍の一人の渡良瀬さんが声をかける。
「うん。僕は大丈夫。彼方くんもケガはしてない」
言って、僕は右手を見た。
透明なはずの僕のコア。
それは、細胞分裂でも起こしたかのように真ん中から色が変わっていてた。
白藍色と群青色に。
「二つの能力を……? 同時コピー?」
呟いた僕に、コアを覗き込んできた渡良瀬さんが目を丸くする。
「……一つのコアに、二つの色をコピーした?」
今まで、そんなことはできなかった。
御影先生の担当授業で、何度か同時コピーか混色コピーができないかという実験をしたけど、できなかった。
なのに今、こんな風にできたわけは。
……ナナ。
僕のコアに宿ったコア生物しか心当たりはない。
「丸岡!」
先輩が駆け寄って来て、集中が解けたせいでコアは透明に戻った。
「彼方は手を出していないな?」
「はい。彼方くんは校内にいて、相手の挑発に乗らずに対応してました。僕がそこに駆け付けて、ちょっと無理やりだけど学校内に放り込んだんです」
先輩は虚空を見て(おそらくコア生物とやり取りしているんだろう)、頷いた。
「彼方が手を出していないことを確認」
その間に風紀委員が五人を取り押さえ、遠くからサイレンが聞こえてくる。
ここは私立学校だけど国にも結果を提供しているコア施設でもある。そこに無理やり入ってきたら、ただの不法侵入では済まない。下手をすれば懲役刑を食らう可能性だってある。ただの学校に元同級生を訪ねてきたと言い訳も聞かないだろう。
「おい」
彼方くんがやって来た。
「彼方くん。ケガはない?」
「ケガする前にお前が乱入してきたんだろうが」
はい、その通りです。
彼方くんは風紀委員が五人を警察に引き渡してこっちを見ていない隙に声をかけてきた。
「お前、俺の
……なんて勘の鋭さだ。
「コアを二つ持っている人間でも、同時使用は難しい。それを一つのコアに二色コピーして使うなんて無理だってことはバカでも分かる」
更に声を潜めて。
「……教えろ。お前、今、どんな力を持っている?」
「……僕にも分からない」
素直に答えるしかなかった。
「ただ、異変が起きたとしか」
「異変」
彼方くんは顔を上げた。
「後で説明しろ」
「せ、説明って」
「もちろん他のヤツには言わない。言ったってマネできるはずないしな」
「なら、説明なんて」
「お前の担当教員にお前が二色同時コピー使用したって言った方がいいか?」
「いやそれは出来れば避けてほしい」
「なら説明しろ。そこの渡良瀬もその様子だと知っているようだしな」
「……コア監視員に言わないわよね」
「俺はあいつらが嫌いだ」
監視員にチェンジと名付けた監視対象は言い切った。
「あいつがいちいち指図してくるからうるさくって仕方ない。あいつに何か知られずにできるんなら一番だ。そして、今コアケンカしかけたばかりだってのにあいつは姿を消している」
彼方くんは厳しい顔をして言った。
「あいつらが避けて通るんなら、俺は黙っている。これ以上あいつらに余計なことは言われたくないんでな」
僕は渡良瀬さんを見た。
「……自分で決めるしかないんじゃない?」
それもそうだ。
僕は頷いて、言った。
「後から説明する。それでいい?」
「くだらない言い訳なら聞かないぞ」
「僕は嘘が下手だって昔から言われてたから」
「そうだろうな」
あ、ひどいこと言われた気がする。
「後で聞きに来る。忘れたらひどい目に遭わせるからな」
半分脅迫みたいな言葉を残して、彼方くんは警察の事情聴取に行ってしまった。
「本当にそれでいいの?」
「うん、彼方くんは、多分、約束を破るようなヤツじゃないと思うし」
プロテインを持ってきてくれたことを話して、僕は空を見上げた。
「味方は一人でも多い方がいい」
「味方になってくれると思う?」
「分からない」
けど。
「彼方くんはそれを言い訳に脅すようなマネはしないと思うから」
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