第20話・風紀委員のお仕事とは
風紀委員会室は、様々な書類や何やらが、しかしきちんと整理されて置かれている、何だか背筋の伸びる部屋だった。
この部屋の住人……風紀委員の先輩たちは、服装もしっかりしてるし、何処か目つきが鋭く威圧感のある人が多い。
やると決めたけど、こんな先輩たちと同じ仕事ができるんだろうか。
「おはようございます。丸岡仁です」
「渡良瀬瑞希です」
「おはようございます」
僕みたいな後輩にも、きちんと挨拶を返してくれる。
「委員長は奥の会長室にいます。どうぞお進みください」
頷いて、恐る恐る足を踏み入れる。
風紀委員は、どれだけ細くか弱く見えても、全員がコア戦闘の猛者だとココは言っていた。コアケンカとか、コアを使った校則違反とか、そう言うのを押さえるために、特別に戦闘訓練を行っているんだそうで。なるほど、高校の時にそう言う訓練を受けていれば警察とかの仕事もできるんだろうなあと思う。
部屋の奥に、「会長室」と言うプレートの部屋があった。
コア紋でロックされた鍵は、僕たちが右手を押し付ける前に開いた。
「「おはようございます」」
「はい、おはようございます」
相変わらず先輩は柔らかい笑みを浮かべて座っている。
「朝早くに呼んでごめんなさい。でも、風紀委員になってくれると決まったからには色々説明しなければならないこともあって」
百先輩……今日から八雲委員長に変えなければならないだろう……は、デスクから立ち上がって応接用のソファに僕たちを座らせた。
「風紀委員の仕事は、コア監視員から聞いたかしら?」
「はい。主に校則違反の取り締まりだと」
「そうよ」
穏やかな笑顔をしているのに、雷撃なんて物騒なコア能力を持っている委員長はにっこり笑った。
「大体の生徒は、風紀委員に注意されたら態度を改めるわ。風紀委員は生徒への罰則を与えられる数少ない生徒だから。でも、聞かない人もいる」
ほう、と委員長は憂鬱そうに溜め息をつく。
「そう言う生徒に対応するために、風紀委員にはコアの無許可使用が認められているの。だから、その権利を悪用しないと信頼された生徒しか風紀委員になれない」
「僕たちは、何故」
「風紀委員の採用基準は極秘なの。学園の風紀を守るためだから。以前いたらしいのよ。風紀委員の採用基準を知って、一年間大人しく基準を満たして、その後採用されて権利を悪用した風紀委員が。もちろんその後記憶消去・学園追放処分を受けたそうだけど、権利を振りかざす人は風紀委員になってはいけないのよ。少なくとも貴方たち二人はそれを満たしていると、私は確信しているわ」
風紀委員会室に感じた雰囲気と同じ、緊張させないけど背筋が伸びるような雰囲気に、僕は少し残っていた眠気が吹っ飛んだし、渡良瀬さんもびくっと身動きした。
「さて、今回の新風紀委員の発表は今日の昼食時の学園ネットで行われるわ。風紀委員の採用は四月と九月にあって、その度にネットで公開されるの。風紀委員にはバッチをつけてもらうから、すぐに分かってはもらえるんだけど」
「でも生徒の罰則ってどうやってつけるんですか? 僕たち、罰則どころか校則すらまだ覚えていません」
「コア監視員を通じて、先輩に聞けばいいのよ」
にっこりと委員長は笑った。
「どんな敏腕風紀委員でも、初めては必ずあるわ。風紀委員会の取説のようなものがコア監視員。フォローするのが先輩」
風紀委員の先輩が出してくれたお茶を飲みながら、僕たちは委員長のお話を傾聴した。
「校則違反が行われると、まずコア監視員が止める。それでも収まらない場合、近くにいる風紀委員に連絡が入るわ。風紀委員はそこに駆け付けて、確認、校則違反を止めるよう命令する。それでも聞かない場合は罰則ということになるわね。駆けつけた新入委員の手に負えなければ、別の風紀委員が応援に駆け付けることになっているわ。だから、恐れないで取り締まって」
「罰則って、一体何があるんですか?」
「色々よ。反省文とかトイレ掃除とか花壇の整備とか」
一番物騒な罰則しか聞いてない(だって記憶消されて学校追い出されるってよっぽどだよ!)僕たちには、随分軽い罰則だなと感じた。
「例えば、何か備品を壊した場合は当然それを直すあるいは弁償することが罰則になるし、ケンカなら反省文、及び学校生活の制限」
「その罰則って風紀委員が出していいんですか」
「もちろん。その為の風紀委員だもの」
「でも人によって厳しい判断を出す場合とか緩い判断とか出す場合もありますよね」
「それもコア監視員に聞けばいいの。風紀委員のコア監視員は校則と罰則に関するデータを出力できるようになるから」
「……それって、コア監視員がやればいい仕事なんじゃ……」
渡良瀬さんの言葉に、委員長はちょっと意味ありげな笑みを浮かべた。
「あら。風紀委員にはちゃんと存在理由があるのよ」
「存在理由?」
「コア監視員が校則違反に対する罰則の権限を持っていたら、確かに生徒は大人しくなるでしょう。でも、この学校を卒業したら、当然コア監視員は離れるわよね」
「はい」
「コア監視員の監視から解放されて、自由になった、好きなことができるとコアを悪用する卒業生は多いのよ」
……確かに、外付け判断装置がなくなれば、好きなことをやってもすぐに怒られたりはしない。
「だからの風紀委員。コア監視員はあくまで止めるだけ。校則違反を取り締まるのは人間。罰則を決めるのも人間。そう思われることが大切なの。本当は人間の善性を信用したいのだけれど、罰を与える人間がいるから、違反を止める。そう思う人は確かに多いわ」
もちろん、と委員長は更に笑みを深くする。
「風紀委員も、成長の機会よ。校則違反を取り締まっていれば、いつ、どの辺りで、どんな生徒がどんな違反を犯すか、分かるようになってくる。嘘をつく人、暴力に訴える人、そんな人に対応するのはあくまで風紀委員だから、そのうちコア監視員の連絡がなくても不審者を見分けられるようにはなるわ。目を見て、違反を犯しそうだと思うこともできる。風紀委員はそうやって成長できる」
要するに、続けることで怪しい人をコア監視員の協力なしで見分けられるようになるってことか。勉強を続ければ、参考書がなくても答えが分かるようになる。それと同じことなんだ。
「重要なことはコア監視員に聞けば教えてくれるってことですね」
渡良瀬さんの質問に、委員長は大きく頷く。
「ええ。言ったでしょう? 取説って。委員活動をしている時の精神状態に迷いなどがあれば、コア監視員は迷いの元をただす情報を教えてくれるわ」
取説付きなら、僕でも何とかやっていけるかも知れない。
「風紀委員についての説明はとりあえず以上ね。後はみんなとの顔合わせをして、ネット放送の録画を取ればおしまい。その前に、質問は?」
僕と渡良瀬さんは顔を見合わせて、お互い悩んでいる様子がない事を確認した。
「そうね。やって見なければ質問もないわよね」
委員長は頷く。
「じゃあ、他の委員との顔合わせと録画をやってしまいましょう」
他の新入委員は、二年生か三年生ばかりだった。ちょっと不安そうな顔をしている人もいれば、堂々としている人もいる。
そして先輩委員たちは、そんな新入りを励まして、録画室に入れる。
録画が終わって、教室に戻って合同授業を受けて。
昼食中の学校のネットで、新風紀委員のお披露目がされて。
何処かの席でひっくり返ったのは、彼方だった。
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