第13話・このコアの力
「受験以外でそのコア能力を試したことはあるかね?」
「いえ……あ」
涙でぐちゃぐちゃになっていた渡良瀬さんを思い出す。
「一人、コピーしました。時間がかかったけど、色が変わった」
「能力の発動は?」
「大したことじゃないです。興奮状態が落ち着いただけ」
「渡良瀬瑞希君か」
ばぶぅ! と吹き出しかけて、僕は反射的にそれまで黙って事態を見ていたココを見た。
「はっは、コア監視員はこの場合関係ない」
御影先生は楽しげに言う。
「受験生の中で精神強制安定のコア能力を持っていたのが渡良瀬君で、渡良瀬君がどんな能力を持っているかは受験に関わった全弧亜学園関係者が知っている。それに自己精神安定は数あれど、他者精神強制安定は珍しい能力だ。だから渡良瀬君と思ったんだ、他意はないよ。監視員にもね」
そこで御影先生は笑みを引っ込めた。
「色々試したいことがある。例えば色でコピースピードが違うのか、能力は何処までならコピーできるのか。あるいは限界がないかもしれん。せっかく勝ち取った君の育成資格だ、君の能力を限界まで引き上げて見せる」
先生が持ってきたのは、たくさんの掌大の透明な容器一つ一つに収められたコア……らしきもの。
らしき、って言ったのは、見た目は確かにコアなんだけど、コアは普通人間に宿って、人間が死んだ時に一緒に消滅する、って言うのが常識だったから。
「これは、コア主に不要とされたコアだよ」
謎なことを言い出す先生。
「君も、コアを取り換えられないかと思ったろう?」
全くその通りなので頷くしかない。
「そんな人の為にコアの解除と再定着を研究していた人がいてね、このコアはその結果だ。確かに人間にくっついていたが、そこから切り離されて、このケース内で定着している」
「その研究はどうなったんですか?」
「コアを取り除いた人間に、別のコアを見つけて定着させようとしたが、一度コアを切除した人間に新たなコアが定着することなく、コアなしとなってしまった。本来の目的からは外れたが、凶悪なコア犯罪者からコアを取り上げる刑罰には使えたね」
「じゃあ、これ、犯罪者の?」
「いや、これは実験志望者のものだ。凶悪な力は持っていない。力を持っていないあるいはコアが気に食わない志望者から解除したコアだよ」
「コアって一生外せないと思ってた……」
「今の段階では外したら二度とコアは手に入らないんだがね」
色とりどりの主を失ったコアを机の上にズラリ、と並んで、先生は言った。
「さあ、この中のどれでもいい、君の気に入ったコアのコピーを試してみてくれ」
ぴ、と何かのスイッチを入れる。
部屋中が淡い光に包まれた。
「これは?」
「コア周波数や反応を見る計器だよ。安心しなさい、君には害はない」
「実験ですか?」
「現在能力の把握は成長への第一歩だ」
御影先生は真面目な顔で言った。
確かにそれはその通りだと思うので、僕はどっちかって言うと地味な色が多いコアの中からブラウンのコアのボックスを手に取った。
渡良瀬さんにやったように、色に集中する。色が染まるように。この色になるように。
…………。
コアは変わらない。
一通り試してみたが、色は変わらなかった。
渡良瀬さんの時はできたのに……。
「できません」
声が暗いのは、自分でもわかった。
あの二次・三次受験の時は偶然だったのか。
「ふむ、まあ、予想通りだ」
落ち込む僕に、先生は左手親指の付け根についた自分のコアを見せた。
グレイ……というよりは、メタリックな輝きを放つシルバーのコア。
「レアですね」
「そう、レアだ。銀と言う色はなかなか出ない。透明程のレア度はないがね。さて、これはコピーできるかな?」
先生の科学者的雰囲気にそのメタリックシルバーはよく似合うと思った。
この色を、宿す。
この色に、変える、変える、変われ、変われ……。
ゆっくりと、僕のコアの色が変わり始めた。
先生が机から身を乗り出して僕のコアを覗き込む。
部屋中の計器が何やらカチカチと動いている。
もっと、もっと、深く、輝いて。
十分くらいかかったか。
やっと、僕のコアは先生と近いシルバーに変わった。
「なるほど、やはりそうか」
先生は頷くが、僕は精神力を使い切って、コアをシルバーのままにするのもしんどい。
「君の能力は、コア紋をコピーできるのだな」
「……、……?」
コア紋? と聞き返そうとしたけど、言葉が音にならない。
コア紋は正確にはコア周波数、と言うらしい。
コアが人間と同化することによって、何らかの目に見えない波動を放つ。
それが指紋のように一人ひとり周波数が違うから、コア紋、と呼ばれるようになったとか何とか。
「君が私のコアを見て変化を始める直前、君のコアの表面に確かに私のコア紋が浮かんだ。それがコア全体に広がり、変化を始めた。つまり、君のコアは誰かに定着しているコアじゃないとコピーできない。……おっと、もういいよ。元に戻しても」
先生の色のコピーする時、何だかコアが拒絶するような感じを見せたのを必死で抑え込んだので、僕はかなり疲れていて、許可が出たので色を戻した。あれだけ苦労した色が一瞬で消える。何だかむなしい気がした。
「コア紋は人間に定着しているコアにしか生じない。実は、この中には、これとか」
と御影先生は一つの黄色っぽいコアを見せた。
「これは、つい先日私が拾ったものだ。私と同化しなかったからね。何かの研究に使えるかもと思って持っていたが、君はこれもコピーできなかった。つまり、そのコアはコアを宿している人間の能力しかコピーできないということだ」
「落ちてるコアが使えないと何か問題ありますか?」
「例えば水の能力が必要だって時に、近くに水に関するコアを持っている人間がいない。落ちていたコアが青く水の可能性がある。しかし君はそれをコピーできない。人間と同化して能力の方向性の定まったコアでないと使えないし、色と関係はあってもコア主の使えない力は君もまた使えないというわけだ」
「……はあ」
「疲れたのは分かるが聞いておきたまえ、この先の君に必要なことを私は言っている」
どう必要なのか、正直分からない。
「例えばコア戦闘の時、君は相手の能力をコピーして攻撃ができる。しかし、相手が持っているのと同じ技しか使えない。受験の時のように、同じ力で相手の技を相殺することができるが、そこまでだ。相手の油断、あるいは近くにいるコア主の能力をコピーして方向性の違う技を使えないと、引き分けには持ち込めても勝利とはいかない」
少しだけ、先生の言いたいことは分かった。
僕は人のコアの力をコピーできる。でも、コピー以上のことはできない。
「つまり、やっぱりこのコアは外れってことですか?」
「そう悲観したものではない。コピーが本物に勝つには、本物以上のプラスアルファがあればいい。君と私には短くとも三年と言う月日がある。コピーした技を、相手の威力を上回って攻撃することができれば、君の勝ちだ」
先生は確信した口調で、そう言い切った。
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