第12話・学園生活の始まり

 時間ぴったりにココに起こされて、今日から本格的に弧亜学園の生徒としての活動が始まる。

 それを告げるのが、入学式。

 と言っても、保護者は参列しない。入学式は新入生と学園関係者の相互理解、とかなんとか言ってたけど、正直よくわからない。

 とにかく、僕含む五十四人のお披露目の場だってこと。

 本校舎の講堂まで連れていかれる時、男子三十人が集まって、三次試験の勝者が敗者の顔を見て唖然とすることが多かった。……もちろん彼方は僕の顔を親の仇のように睨んでいたけど。

 仲良くやれるかどうかは分からない。

 御影先生に入学式が終わるまで秘密だよ、と言われているけど、クラスはない。けど、一般授業は合同教室で全員まとめて行うらしい。一般授業以外は担当教員とマンツーマンもしくは他の教員や生徒と協力したコアコントロール授業や能力開発授業があるという。

 それだったら何とかなるかなあ……。これも御影先生が教えてくれたんだけど、僕と彼方の相性が最悪に近いというので部屋を出来るだけ離したってことだし、合同授業以外では顔を合わせることもないかな、と。


 講堂の壇上に五十四人全員が上がらされ、入学式が始まった。

 合同授業などの講師の紹介、生徒会長の挨拶、校長の挨拶。

 驚いたのは、校長が若い女性だってことだった。

 美丘みおか千鶴ちづる校長は、何処かで観た覚えがあるんだけど……思い出せない。

 ただ、彼方が何やら口をパクパクさせていたのは見た。知り合いだったんだろうか。

 そして、学校の仕組み、決まり、行事などが発表されて。

「担当教員を紹介します。例外がない限り、三年間皆さんのコア開発を手伝う教員ですので、二人三脚で頑張ってください」

 五十四人の教員が上がって来て、担当生徒と握手を交わした。

 御影先生は意味ありげな笑みを浮かべて僕と二回目の握手をした。

 彼方は……熟年の、厳しそうな先生だ。

 渡良瀬さんは……白衣に聴診器を引っかけた、入試の時に僕含む受験生の三次試験後診察をしていた阿古屋とか言うコア医。

 教員の立候補あるいは話し合いで決められたって言う担当教師は、三年間かけて生徒のコアを研究し、伸ばすことに力を注ぐって言う。

 僕のコピーのコアがどんな風に研究されてどんなふうに伸ばすかは分からないけど、少なくとも地味で目立たなかった中学校の時よりはいいかと感じた。

「では、さっそく授業を開始します。担当教員は生徒を担当室に案内してください」

「担当室?」

「主に担当教員の管理する部屋だね。コア研究などはそこで行われる、実践の時は広い場所あるいは屋外を使うこともあるが」

 御影先生の小声の説明に納得する。

「では新入生、担当教員、退場」

 一年生は講堂を出ると、担当教員に連れられて、校舎のあちこちに散っていった。


 御影先生は僕を本校舎二階の部屋に連れて行った。

 ドアには『丸岡仁・担当御影秀敏』と書いてある。

「ここが君の担当室だ。場所が分からなくなったらコア監視員に聞き給え。コア監視員は校内に関しては完璧な知識を持っている」

「コア監視員って、何でいるんですか」

「何故だと思うね?」

 知らないから聞いたんだけど。

「コアは十五歳で入手でき、それから三年くらいの時間をかけて能力が変化していく。つまり、同じ人間、同じコアでも、三年間の訓練次第で全く別の力が手に入るということだ」

 ああ、それなら聞いた。だから受験生はコアの能力を伸ばしたい生徒がこぞって自分の持ちたい力を専攻する高校を目指す。

「コアの波長は、コア主の体調や精神状態に大いに左右される。時には暴走することもある。だから、コア監視員が必要なんだ。生徒一人一人のコア紋を記録し、体調や精神状態、それによって起きたコアの異変などの観察がね」

「だから、わざわざコア生物を作る」

「そうだ。コア医や研究者にとっては何をさておいても欲しいデータだ」

「だけど、性格が……」

「コア監視員の性格かね?」

 御影先生はちょっと笑った。

「御節介くらいがちょうどいいんだ。控えめなコア監視員では、例えば彼方君のように暴走するタイプだと止められないからね。まあ彼は例外みたいなものでコア監視員とも相性が悪いらしいが」

「コア監視員を作ったのは学園のコア研究者ですか?」

「ああ。ただし名前は明かせない。三学年百五十人以上のそれぞれのコア生物を作るコア主なんて、正体がバレたら引っ張りだこになるからね」

 さて、と御影先生は、椅子に座って僕にも椅子に座るように言った。

「君の色は淡いベージュと言っていたが、恐らく違う」

「淡いベージュにしか見えませんが」

「それは肌の色が薄まって見えるだけだよ。君の本当のコアの色は無色。何の色もない」

 言われて、やっと自分の力に納得した。

 色がない。ということは、色々な色に変われるということだ。

 コピーの能力も、色がないから近くにある色に染まるって言うことだろう。

「そうだ。言ってみれば将来も伸ばし方も白紙状態……。何せ、無色と言う色は今までなかったからね。コア研究者は君の担当になろうと我先に手を挙げていた」

「先生も挙げていたんでしょう?」

「まあね」

「その場合は、どうやって決まったんでしょうか」

「話し合いで穏やかに解決することもあるが、大体は揉める。その場合は最も原始的にしてコア研究者らしい手段を取る」

「?」

「コア戦闘だよ」

 大したことでもないように御影先生はさらっと言ったけど、内容はとんでもなかった。

 だって、入試の時に渡良瀬さんの担当教員阿古屋先生が言ったように、コアを使った戦闘は コアは職業上必要な場合及び自分の身を守るため以外に他人に攻撃的な使い方をしてはならないとされているのに。

「何事にも例外はある。例えば、コア戦闘による対応策を練習するとか、対人コア能力を試す場合とか」

「自分の持つ対人コア能力を試す?」

 何だか詐欺師の言い分のようだけど。

「この学園はコア研究のためにある。コア戦闘もごくごく当たり前だ。それに、社会に出た時に、戦闘能力を必要とされることも多々ある」

「そりゃあそうですけど」

「研究員同士でもあるのさ。今のコア研究は思った方向に進んでいるかという疑問がね。だから、コア研究の進展状況を調べるために、互いに合意の下模擬戦闘を行うことが許可されている」

「それって言い訳ですよね」

「ああ言い訳さ。だが、言い訳でもコア研究は進む。コア同士のぶつかり合いはまだまだ研究の余地があるからね。それに、君だってどうせ教わるなら強い教員に教わりたいだろう?」

「それは……まあ」

「と、言うわけで」

 ぱん、と手を叩いて、御影先生は僕の前の椅子に座った。

「まず、君のコアが現在何をどこまでコピーできるかを見てみよう」

「楽しそうですね」

「ああ楽しいとも。コア研究者として、コア能力の研究が楽しくないわけがない。それもこんな前例のない色を前にして」

 透明、か。

 肌の上に埋め込まれているから淡いベージュだとばかり思ってたよ。透明だって気付いたらもうちょっと早くコア能力に辿り着けていたかもしれない。

「さあ、まずは君の現在のコア能力を試そうか」

 先生は嬉しそうに言った。

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