第7話・真に発動したコア

 青白い光が、僕を包んだ。

 頭を庇って上げた右手のコアが熱い。

 空気弾エア・バレットが、僕を包む青白い光に飛び込み……いや。

 光に食い込んだ。

 弾丸は僕に触れる寸前で、青白い光に食い止められた。

 食い込んだ弾丸は、青白い光に包まれて……。

 光の壁から跳ね返された。

 ……違う。

 弾丸は、まるで意志を持っているかのように、彼方めがけて飛んで行った!

「なっ」

 彼方は咄嗟に空気の壁で防御した。

 彼の周囲を取り巻く風が弾丸を掻き消す。

 そして、僕を包む青白い光は消えた。

 右手の熱も、嘘のように引いていく。

 その一連の動きが、僕にはまるでスローモーションのように感じられた。

 コアを見る。

 コアはいつもと同じように、淡いベージュのまま。

 だけど、僕は感じた。

 確かにコアが発動したのを。

 僕の「助けて」と言う思いに反応して、コアが力を発揮したのを。

「バカな!」

 彼方が吠える。

空気弾エア・バレットを弾き返すなんて……いや、それより!」

 彼方の右頬にあるコアが、青白い光を発している。さっき僕を包んだのと同じ色。

「なんで貴様が俺と同じコアを持ってるんだ!」

 やっぱりだ。

 彼方も、僕を包んだ光が彼方のコアと同じ色をしていると言った。

 多分、僕のコアの能力は……。

空気斬エア・スラッシャー!」

 今度は、空気を操る青白い光までが見えた。

 これから、身を、守る。

 同じ力で。

 今度は自分のコアを見る余裕があった。

 淡いベージュのコアは……一瞬にして、彼方と同じ色、青白い光を宿して、僕を包む。

 空気の刃が、青白い光に触れる。

 これを、相手に、返す。

 空気の刃が、飛んできた時と同じ勢いで、彼方めがけて襲い掛かった。

「なっなっなっ」

 今度は彼方は同じ空気の刃をぶつけて、自分に跳ね返ってきた刃を消した。

 コアは元の色に戻っていく。

「何だ……なんだそのコアは! その能力は! 俺の技をコピーするなんて、そんな、卑怯な能力……!」

 コアは唯一無二、と言われている。

 同じ色でも宿る人間が違えば使える力は違うのだと。

 それが、全く同じに返されたら、そりゃあ驚くだろう。

 一番驚いているのは僕だけど。

 ……と、言うことは。

 僕はじっと彼方の右頬で光を発しているコアを見た。

 あのコアを、映す。

 あの色を、宿す。

  きゅううううう……。

 右手のコアが、青白い光を宿した。

 そして。

 僕の全身は、青白い色に包まれた。


     ◇     ◇     ◇     ◇


 モニタールームでは、中庭の至る所に設置された監視カメラで、受験生たちの戦闘が映し出されていた。

 弧亜学園の教師やコア医が、それを見ている。

 その判定員全員の目が、一番大きいモニターに映し出されている二人の少年に向かっていた。

 全く同じ色を宿している少年に。

「おい、同じ色の受験生なんていたか?」

「いや、一八三番は淡いベージュって申請が来てる」

「だけどコアの光は全く同じ……」

「学園長、これはどういうことで……」

「一八三番のコアは」

 学園長と呼ばれた人物は、ゆっくりと言った。

「地肌に透けて淡いベージュに見えたのであって、恐らく、本来の色は」

 二次試験の判定役でもあった学園長は、確信を持って、一同に告げた。

「無色」


     ◇     ◇     ◇     ◇


 出来た。

 家族や先生とあれだけ練習しても発動できなかったコアが、これほどカンタンに発動するだなんて。

 多分、だけど。

 コアは唯一無二。だから似たような色でも人のマネは難しいって言うか無理。全く同じ色だったとしても、コア主の性格や身体能力で発揮できる力は違うという。

 だからコアの発動の練習って言ったって、誰かのやり方をそっくりそのまま試すことはない。誰かのマネはできない。

 

 僕のコアは、多分、誰かのマネをしないと発動しない力……誰かのコアの色を、コピーする力。傍に別のコア主がいて、それをコピーしなければいけない力なんだ。

 そんな能力聞いたこともなかったから、家族や先生と同じように使おうとは思わなかった。

 それが彼方との出会いの時、二次試験の時、そして今、発動したのは、コアの力で攻撃されたから。コアが僕の危機に、自動的に発動して、相手のコアの色と力をコピーして、同じ力を返すことで攻撃を反射して、僕を守った。

 と、言うことは。

 今の僕は彼方と同じ力を使えるって言うことだ。


「くそっ、くそうっ」

 悪態をつきながら彼方は風を練っている。

「今度は、跳ね返せない程の力で……!」

 僕は彼方のやっていることをそのままマネした。

 空気を、コアの力を宿した手で、粘土を練るように、わたあめを作る時のように、練る。

 僕のコピーは、どんな種類の力を、どの辺りの力までコピーできるか分からない。

 だから、同じ力を跳ね返すしかない。

 今度はコアが反射的に守ってくれるんじゃなく(コアに意志があるかどうかは分からないけれど)、僕自身の意志で跳ね返す。

 それが出来るなら……勝ち目はある。

 こっちを眼殺できそうな目で睨みながら空気を練っている彼方から目を離さず、僕も空気を練る。

 彼方が大体自分の胴体くらいの大きさまで空気を練り上げると、手を止めた。

 それを確認して、僕も手を止める。

「ものまねオウムなんかに、俺は負けない!」

 ものまねオウム、ね。その通りだ。

 だけど、やっとコアの使い方が分かって、微かにだけど勝機が見えてきたんだ、引く気はない。

「食らえ! 空気圧殺エア・プレッシャー!」

 圧縮された空気を彼方が放つ。と同時に、僕も練り上げた空気を彼方めがけて放った。

「行けええええええ!」

 二つの空気の塊は、ちょうど僕と彼方の中間でぶつかり合った。

 だけど、そんなのを決着がつくまで眺めているヤツは、いない。

 彼方は空気弾エア・バレットをぶつかり合う空気に打ち込んでいる。文字通りの追い風を送っている。

 僕も……!

「きゃあっ!」

 悲鳴が、聞こえた。

 渡良瀬さん?!

 渡良瀬さんが、ぶつかり合う空気の真ん中に吹き飛ばされそうになっている。

 まずい。

 あれだけの圧縮された空気の中に巻き込まれたら、コアを使ってもただじゃすまない。

 僕は咄嗟に、座布団くらいの空気の塊を、渡良瀬さんと空気圧の真ん中に送り込んだ。

 空気に跳ね返されて、ぽうん、と渡良瀬さんは地面に落ちる。

 だけど、その瞬間、その油断を、見逃す彼方じゃなかった。

「死になああああああ!」

 その短い時間の間に練り上げた空気の塊を、彼方は空気圧に叩きつけた。

 凄まじい風の力が僕めがけて襲ってくる。

 咄嗟に全身を風の膜で覆ったけど、二人分プラス彼方が送り込んだ力の空気圧は、それこそ、台風のようなエネルギーとなって僕に襲い掛かってきた。

「うわあああああ!」

 僕は空高く吹っ飛ばされた。

 おい、この高さは何だよ、生身で観覧車に乗ったようなものじゃないか。

 そう思いながら地上高く舞い上がり……

 放物線を描きながら落ち……。

 がくん。

 何かに引っかかった。

 校舎の屋上に合った風見鶏に引っかかったらしい。

 ぶらーんと、風に吹かれてふらふら。

 校舎三階分の高さにいる。

 降りられるかな。彼方の力をコピーして……。

 コアは元の淡いベージュに戻っていた。

 時間切れか。

 改めて、彼方の力をコピーして……。

 して……。

 出来なかった。

 多分、距離が離れすぎたんだろう。こうなると僕のコアはお手上げだ。


  たんたんたぬきの金時計~♪

  か~ぜにふかれてぶ~らぶら♪


 どうでもいい歌が、僕の頭の中でリフレインしていた。

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