第6話・受験戦闘
二次試験合格者五十四人が連れてこられたのは、学校の建物に囲まれた中庭だった。
コイが泳いでいる池があり、木々もあり、拓けた場所もある。お昼とかここで食べると良さそうだな。
それにしても、何が始まるんだろう。
受験生は皆緊張している。
僕もかなり緊張していた。
コアの力を使えたらしいとは言え、自分の意志で発動させたわけじゃない。コアが青く光ってたと渡良瀬さんは言ってくれていたけど、自分でそれを確認したわけじゃない。
力の発動条件も方法も分かっていない分、僕は他の受験生より百歩も二百歩も後れを取っている。
それを乗り越えなきゃいけないんだ。
「では、受験内容を発表します」
大勢の人間が、校庭をぐるりと取り囲むように立って、僕らはその真ん中にいる。
僕らを連れてきた試験官は、全員を見渡して、言った。
「これより受験生同士、一対一で戦ってもらいます」
え。
受験生は思わずお互いの顔を見合わせて、バッと体の一部を隠した。
多分、コアのある場所だろう。
コアの色である程度相手の能力は見当がつくもんな。
隠してないのは彼方と僕くらいだ。
彼方は恐らくバレたって問題ないと思うほどの強い能力の持ち主で自信もある。僕は……隠したところでどんな能力を使えるか自分でも分かってないから隠すだけ無駄ってだけ。
「コアを使用した攻撃・防御のみを認めます。肉体攻撃はコアの力でブーストした場合のみ許可します。試験官が終了を告げた時点で勝負は終わります。それ以上の攻撃をした場合は受験資格は剥奪といたしますのでご理解ください」
分かりやすい試験方法ではある。
コアの使い方を見ることもできるし、相手に対してコアをどんなふうに使えばいいのかという判断力や理解力を見ることもできる。
何より合否が分かりやすい。
しかし、試験官は無表情を崩さずややこしいことを続けた。
「戦う場所はここ、戦う順番はありません。同時刻、同時間に全員でここで戦いますが、攻撃出来るのは対戦相手のみです。ただし、他の受験者のコア能力を利用して対戦相手を攻撃、あるいは防御することは許可、といたします」
この説明に、受験生の中に首を傾げているのが何人もいた。
僕も頭の中でこの説明を噛み砕いた。
攻撃できるのは対戦相手のみ。コアを使った攻撃のみ。
だけど、同じ場所で戦っている誰かのコア攻撃を利用して対戦相手を攻撃することも許可するってわけか。
「対戦相手は、くじで決めます」
受験生は息を飲む。
だけど僕はそれ以上に不安でいっぱい。
何も出来ずボコボコにされる自分が浮かんだ。
溜め息を我慢して他の受験生を見れば、ガチガチに緊張している人ばかりの中で、自信満々の彼方が目に入る。確かにあれだけの高速飛行が出来てあれだけの空気の動きをコントロールできるんなら、戦闘に応用するのもカンタンだろう。
「では、受験番号の順にくじを引いてください」
彼方が真っ先に出てくじを引く。
「数字を読み上げてください」
「7!」
彼方はニッと笑って紙を振った。
「3」「1」「19」と読み上げられ、渡良瀬さんが出て行く。
「5!」
渡良瀬さんは番号を告げてから列に戻ってくる。
次は僕の番だ。
出来れば、そんなに攻撃の痛そうじゃない人と当たりますように……。
念じて、引く。
「!」
僕は目を見開いて、そして天を見上げた。
僕の運は、二次試験を通過した時点で尽きてしまったようだ。
「番号は?」
「……7……」
彼方がニヤッと笑ったのが見えた。
ナマイキに自分に説教かまして逃げた僕を合法的にボコボコにする機会を手に入れたんだから、笑いたくもなるだろうな。
「あの怖い人?」
渡良瀬さんが小声で聞いてきた。
「……うん」
ああ、フルボッコ確実だ……。
「大丈夫だよ」
渡良瀬さんはそんな僕の背中を叩く。
「君なら絶対いけるって」
「いけると、いいん、だけどね」
「対戦相手は確認しましたか」
「「「はいっ」」」
空気はピリピリしている。
「では、グラウンド中に散ってください。一分後に勝負開始とします」
「じゃ、頑張ろうね!」
渡良瀬さんはタッタッタッとグラウンドの端へ走っていく。
ポジショニングは、自分のコアの力を発揮できる場所を確保する、重要な能力だ。
だけど、僕にポジショニングって言われたってなあ……。
僕は全てを諦めて空を仰いだ。
彼方にボコボコにされるんだもんなあ……。あの空気の渦でも吹っ飛ばされるの確実だったしなあ……。あんなのまともに攻撃に使われちゃ死ぬっきゃないもんなあ……。短い時間だったけど、二次試験合格なんていい夢見れたし……だけど負けたら記憶全部消されるしなあ……。
「五、四、三、二、一……」
試験官の声が高々と響いた。
「試合開始!」
あちこちで、炎が渦まき、鋼が飛び、大地が動き、草が散る。
みんな一生懸命なんだなあ、偉いなあ……。
ぼんやりと思っていると、ゆっくりとこちらに向かって歩いてくる人影。
彼方。
「逃げないくらいの根性はあったか」
彼方はニヤニヤしながら言った。
「その根性に免じて、俺の技、見せてやるから、よーく味わいな」
できれば痛くないのがいいけど。
「俺のコア、白に近い青の力は、空気を操ることだ。しかも多方面にな。これを使うと空を飛べれば空気の刃も作れる」
はいはい、わざわざ説明していただけるんですね。ありがとうございます。
「さっきは吹っ飛ばしてやろうと思ったが、今回は違う。俺、色々な技を開発してきたんだよ。それをお前に試してやる……」
はあ、じわじわといたぶるのがお好きで。
「俺の実験台になる名誉を与えられたんだ、泣いて喜べ!」
僕、マゾじゃないんだけど。
思っている間に、左頬に青白いコアをつけた彼方は、人差し指を立てた。
その周りに、何か、見えないものがある。見えないものがある、と言うのは、その何かの向こうの景色が歪んで見えるから。小さな歪みがいくつもいくつも、彼方の指先から現れる。
「これは
確実に相手に当てられるわけだ。
ていうか、いちいち僕に説明してからコア使うの? 非効率的だと思うんだけどなあ。
その時、地面がぐらりと揺れた。
「うわ」
誰かが局地地震を起こしたのか。こんなスペースでも地面を揺らすのはかなりの荒技。伊達に三次試験まで来てないってことか。
「痛い目に遭いたくなかったらコアで防御しな。ま、貴様みたいなウジムシが防御できるとは思えないけどなあ!」
空気の歪みをたくさんまとった彼方の指が、僕めがけて突き出される。
その瞬間、
その時、今度は傍らの木が根っこを引き抜いて動き出した。
よろける僕の傍らを空気の音が通り過ぎていって、後ろに消えた。
……これはコアの防御だ。人様のコアの力を借りたけど、一応コアの影響で防御した。
「コントロールできるって、言っただろ?!」
ひょう、ひょうと音を立てて、空気の弾丸が僕めがけて飛んでくる。
ヤバい。
当たりたく、ない!
咄嗟に頭を庇う。
コア、僕を守って!
これまでにないほど強く、コアに祈った。
その時。
……奇跡が起きた。
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