第69話 また笑顔で会えるように

「どういうこと?せっかく会えたのに……」

「私達は、ここにある本を守らなきゃいけないから。二人は、お家に帰らなきゃね」

 ぎこちない笑顔でアカリに答えるフタバ。すると抱きしめているイチカの体が、ぎゅっと力を込め震えだした

「もう、会えないの?」

「うん、たぶん。本の中に入りすぎるのは良くないから。特にここは悲しい思い出の本がたくさんあるし……」

「でも……」

 フタバがアカリの質問に答えると、その答えに何にも言えずにいると、隣で話を聞いていたヒナタがイチカとフタバの側に歩きはじめた



「帰ろう、イチカ」

 ぎゅっと手をつかんで優しく声をかけると、うつ向いていた顔をゆっくりと上げて、ヒナタの顔を見て、ブンブンと強く顔を横に振った

「ダメだよ。ここに残らなきゃ。この本達を守らなきゃ……」

「私もここにある本を守るから、一緒に帰ろう」

 ニコッと笑って優しく言うヒナタの言葉に、強く握られた手を握り返して頷くイチカ。二人のやり取りを見ていたフタバがイチカをまたぎゅっと抱きしめると、ずっと、聞こえていた唄声が消え、辺りは静まり返ってしまった

「お母様の唄が……」

 暗く静かな空間に急に怖くなってヒナタの側に駆け寄ってくアカリ。ヒナタも少し怖くなって不安な表情になっていく。その二人の顔を見たイチカが、抱きしめていたフタバの手を払うように、勢いよく立ち上がった。三人がイチカの行動に驚いていると、ふぅ。と深呼吸すると、さっきまで聞こえていた唄を思い出しながら、少しぎこちなく唄いはじめた



「……イチカ?」

「またきっと会えるように、唄うの。フタバとここで待ってる。二人の思い出の本があるとも思うし。それを読んで待ってるよ」

 不思議そうに話しかけたヒナタに、そう言うとフタバの方に振り向いた。すると、イチカに答えるようにフタバが頷き笑って一緒に唄いはじめた。二人の少しぎこちない唄声に、ちょっと驚いていたアカリとヒナタ。二人、顔を見つめ合うと一度頷き、イチカとフタバの手を取り、大きく深呼吸をして一緒に唄いはじめた

「私達も、二人に会えるように唄うよ。きっとまた会えるから」

「うん。一緒に唄えば、またきっと会えるよ」

そう言いながら微笑むアカリとヒナタを見て、イチカとフタバもまた微笑むと四人の唄声が暗闇の中を響き渡る








「……唄が聞こえますね」

「そうだな。少し悲しさもあり嬉しさもある、素敵な唄だ」

 再び本が消えて無くなった本棚の前で、どこからか聞こえてくる唄声に聞き惚れていたクロスとノア。疲れた顔で本棚に背もたれて上を見上げて、クスッと笑っているとコツコツと二人のいる場所へと歩いてくる足音が聞こえてきた

「二人の唄ね。それと、本達も一緒に唄っているのね」

 レイナがクロスと同じく少し疲れた顔で、二人のいる場所にやって来た。レイナの姿を見て、ゆっくりと立ち上がるクロス。隣に来たレイナの肩を抱き寄せると見つめ合い微笑む二人。まだ聞こえてくる唄声に耳を傾けて、クロスがレイナの肩をもう少し寄せると、本棚がガタガタと再び揺れだした本棚に、クロスが振り返りフフッと笑った

「ああ、これからのアカリとヒナタ、それと本達の未来を願って、もう少し唄を聞いてみようか」

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