第68話 涙が再び溢れる訳は
「悲しみも喜びも二人で分け合えば、ここにある本達と共に、更に良き本が書けるだろう」
嬉しそうにクロスが独り言を呟くと、ガタガタと揺れだした。戻り並んでいた本達がその揺れでバサバサとまた地面に落ちていく
「多少、二人には怖い想いをさせたが、友達も増えたみたいだし、私達が望む本より、もっと……」
本棚の上を見上げると、今度は落ちていた本達が、クロスを囲むようにバサバサと、ページの音をたてて舞い上がっていく
「ねぇ、アカリ。あれ見て」
本棚が揺れだすほんの少し前、アカリと一緒に走っていた女の子が、突然立ち止まり進んでいた場所とは違う先を指差した。アカリも立ち止まって、指差す先を見ると、アカリがいる真っ白な視界の中とは真逆な暗い道があった
「行こう。ヒナタがいるかも……」
その道を見て、女の子の手を強くつかんで歩き始めるが、すぐにグッと後ろに手を引っ張られ振り返ると、女の子が進むことを嫌がり、うつ向いて首を横に振っていた
「もう、怖がりだなぁ……」
「アカリだって、ここの本棚に来る時、暗い道進むの怖がってたでしょ」
「なんで知ってるの?」
レイナやクロスのいる場所に来る前の事を思い出して、あわてふためくアカリ。その姿に不安な顔をしていた女の子がクスクスと笑うと、アカリが女の子の手を強く引っ張って暗い道へと進みはじめた
「行こう。ヒナタとイチカが待ってるんだよね。早く見つけてみんなでお母様の所に帰ろう」
「……うん。みんなで帰ろう」
手を繋いだまま、暗い道を走って入っていた二人。さっきまで明るく白かった場所とは違い、辺りを見渡しても暗いその道を恐る恐る歩いていく
「ヒナタ!イチカ!来たよ!」
大声で呼び続けていると、少し離れた場所から、細く聞こえてきた
「……アカリ?」
聞き覚えのある、その声のする方に急いで駆け寄ると、暗闇の中、一人きりで立っているヒナタを見つけた
「ヒナタ!よかった!こんな暗いところにいたの?」
「うん。アカリこそ、どこにいたの?」
「私は、ここよりもっと明るい場所にいた……」
そうヒナタと話していると、側でうずくまっている女の子に気づいて、慌てて駆け寄っていく。気配に気づいても顔を上げず、うつ向いたまま。それでも、グスグスと聞こえる声に、隣に座って顔を隠している腕の隙間から、顔を覗き込みながら声をかけた
「ねえ、イチカでしょ?どうして泣いているの?」
「アカリとヒナタが優しすぎるからだよ」
アカリの問いかけにすぐ答えたのは、ヒナタの側でアカリの様子を見ていたフタバ。ゆっくりとアカリの側に歩き、うずくまったままのイチカの後ろからぎゅっと抱きしめた
「せっかく帰ってきたのに、こんな素敵で優しい二人に会えたのに、離れなきゃいけないから……。だから、泣いてるの。二人が帰ったら、二度と会えないから……」
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