第67話 あなたの優しい温もり
「素敵な唄……」
まだ薄暗く周りにはグスグスと泣いている子供や落ち込む人達がいる中、聞こえてくる唄声に合わせるようにヒナタが唄い続けていた。そのすぐ側で、女の子がヒナタの唄に聞き惚れていると、一通り唄い終えたヒナタがニコッと笑って上を見上げた
「アカリとフタバにも届いてるかな……」
「うん、アカリはこの唄、好きだもん。きっと聞こえてるよ」
女の子の呟いた言葉に笑顔で返事をすると、おもむろに両手を少し強めにつかんだ
「イチカだって好きでしょ?この唄。だから、アカリが唄った時、嬉しくて私の所にアカリを連れてきたんでしょ?」
「……いつから気づいてたの?」
驚き戸惑う女の子。その表情を見て、ヒナタが強く握った女の子の両手を解いて、優しくぎゅっと抱きしめた
「手を繋いだ時、すぐ気づいたよ。本の時、こうやって、ぎゅって抱きしめた時と、おんなじ暖かさだったから」
そう優しく嬉しそうに話すヒナタに、少し恥ずかしくなって顔を背けた女の子。すると、二人が抱きしめあう様子を見ていた子供達が、ヒナタと女の子のもとに駆け寄って、ニコニコと微笑み消えていった。気づけば周りには誰もいず、二人きりになっていた。それでもまだ、どこからか聞こえてくる唄声が響いて、その声を目を閉じ聞き入ると、ふぅ。と一つ深呼吸をしたヒナタ。女の子の手をぎゅっともう一度つかんで、ニコッと笑った
「一緒に唄おう。イチカの唄も、アカリとフタバに届くように。ねっ」
ヒナタの明るい声と優しい笑顔に、まだ少し戸惑っていたイチカの表情が段々と笑顔になっていく。ヒナタがつかんでいた手を強く握り返すと、ふぅ。と深呼吸をして返事をするように、ゆっくりと頷いた
「……うん、ありがとう。ヒナタ」
「おや、本が……」
ふと、上を見上げたクロス。本棚に戻っていく本達を見て、少し困った顔で呟いた
「クロス様。どうしましたか?」
「レイナの言う通りだ。あまり戻りたくないらしい……。アカリとヒナタと離れたくないのか。困ったものだ」
ノアに返事をしながら、本を見つめクスッと笑うと、戻ってきた本を一冊手に取りページをめくった
「いつでも会えるように、二人の唄があると気づいてほしいものだな。なあ、ノア」
「そうですね。レイナ様に似て素敵な唄をお二人も唄いますから」
二人で落ちていた本を本棚に戻していると、本達が戻ってくる速度が早くなっているのに気づいたクロスが、勝手に本棚に戻りはじめた本を見て、またクスッと笑った
「本もそろそろ気づいたかな。二人の唄がここにある本達の未来を奏でると……」
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