第66話 優しい言葉に心揺らいで

「ここにある本達は、昔からある守るべき大切な記憶……。良き事も悪き事も、ずっと見てきた本達だ……」

 レイナのいる場所とはまた違う本がたくさん置かれた場所にノアと共に移動してきたクロス。ここでは、本棚に戻ることなく、足の踏み場もない程に本が床に散らばっている

「あまり、消えるというのは良きことではないが……」

 ため息をつきながら、本を避けつつ奥にある本棚へと歩いていく

「ノア。アカリとヒナタはどうなっているか見えるか?」

 クロスに聞かれて、近くにあった本から無作為に一冊取りパラパラとめくりはじめた。取った本は何も書かれていない真っ白な本。近くにあった他の本の確認を終えるとため息つきながら、クロスに返事をした

「いえ。ですが、見えないとなると、おそらく近くにはいないかと……」

「なら、好都合だな。是非ともレイナの唄に誘われていることを願うか」

 ノアの報告にクスッと笑うと、奥へとまた進みはじめると、落ちていた本達が、ふわりと浮かんでクロスの後をついていく。その光景を見ていたノアも、クロスの後を追いかけ歩きはじめた










「唄がさっきより聞こえる」

 その頃、まだまだバタバタと足音をたてて唄の聞こえる方へと走っていたアカリ。その側で遊んで楽しそうな子供達の声よりも、唄声が辺りに響いている

「うん、きっとそこが出口だと思う。でも……」

 唄声に嬉しそうなアカリとは対照的に、段々と暗い表情になっていく女の子。アカリを引っ張っていたはずの手は、いつの間にか逆になり、アカリに引っ張られていた


「やっぱり行かないで!」

 そう叫びながら、アカリの手を思いっきり手離した女の子。突然の出来事に、驚いて立ち止まり後ろを振り返ると、さっきまで笑顔だったはずの女の子が息を切らし涙を貯めて震えていた

「私、アカリと離れたくない!ヒナタもイチカここにいて!」

 女の子がまた大声で叫ぶと、側にいた子供達が驚いてグスグスと泣き出した。泣き止まない声が増えていくほど消えていく子供達。異様な光景に、アカリがどうしようかと悩んでいる間に、子供達は完全に消えて、二人きりになってしまった。すると、少し落ち着いてきた女の子がアカリにゆっくりと近づいてきた

「ここには、楽しい思い出はたくさんあるけど……。けどアカリと離れたくない」

 女の子が叫んだ言葉に、驚いてちょっと困った顔になるアカリ。顔を背けて泣かないように我慢している女の子の姿を見て、クスッと笑って優しく抱きしめた


「フタバ、大丈夫だよ。私と一緒にヒナタとイチカの所に行こう」

 優しいアカリの言葉に驚く女の子。その表情を見たアカリがエヘヘと笑って今度は強く抱きしめた。すると、ずっと聞こえていた唄声とは違う、聞き覚えのある唄声が微かに聞こえてきて、女の子を離して目を閉じ、その唄声に集中するアカリ。少しずつ唄声がはっきり聞こえてきて、その唄の声の主に気づいて、女の子の方に振り向いた

「この声、ヒナタの声だ。ヒナタもお母様の唄って気づいたんだ!」

 そう言うと、テンションが一気に上がったのか、うつ向いている女の子の手を取り強くつかんで、上下に振り下ろしはじめた。急に手をつかまれるなり動かされ、ビックリしてまた顔を背けた女の子。すると、アカリが女の子の頬をつついて、またエヘヘと笑った

「一緒に唄おう。ヒナタとイチカも私達が唄うのをきっと待ってるよ」

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