第63話 止まってはまた走り出して
「本がだいぶ戻ってきましたね」
「ああ、レイナもそうだが、アカリとヒナタも頑張っているのだろう」
レイナがまだ唄い続けている本棚の前では、唄う姿をただ見守っているクロスとノアの緊張感が募っていく
「ですが、本が戻るほど……」
ノアがクロスに話しかけた瞬間、バタンと大きな音が響いて、二人驚いた表情でその音のする方に振り向くと、レイナが本棚の前で倒れていた
「大丈夫かい?」
慌てて駆け寄りレイナを抱きしめたクロス。うっすらと目を開けクロスを見て微笑むレイナ。支えられながら体を起こすと少し顔を動かして辺りを見渡した
「ええ、大丈夫よ。それより二人は?」
「まだ本の中だ」
「じゃあ……もう少し……」
そう言うとゆっくりと立ち上がり、息を整えて再び唄いはじめたレイナ。静かだった本棚の周りにまた唄声が響き渡る
「レイナ様……」
「すまないな、レイナ」
倒れてもなお力強いレイナの唄声に聞き入っていると、再び二人のいる場所のあちらこちらから本が現れ本棚に戻りはじめたのを見たノアが、不安げな顔をしてクロスの方に振り向いた
「お二人はどうなっているのでしょうか……」
「さあ……。あまり、本に飲み込まれなければよいが……」
ため息混じりに返事をすると、近くにある本棚の方に歩いてくクロス。空っぽだった本棚に本がたくさん並んだ姿に、どこか悲しい表情でそっと触れた
「もう少し本が戻れば助けられる。二人とレイナが保ってくれれば……」
「ねえ、まだ歩くの?」
「うん。たぶんもう少しかな」
その頃、楽しそうな声が消えアカリも女の子の後ろを歩いていた。行く宛もなくまだまだ建物すら見えない真っ白な視界が続く中、だいぶ歩き疲れてきたアカリが不満げに声を荒らげ叫んだ
「ねえ、あなた名前なんて言うの?ヒナタはどこ?お母様は?ねえってば!」
後ろから騒がしく聞こえてくるアカリの声も気にせずどんどん進む女の子。その態度に苛立つアカリが更に叫んだ
「何にも教えてくれない……」
と、叫んでいると突然足を止めた女の子。すぐ後ろを歩いていたアカリが女の子の背中に当たって少しよろけた
「本が増えてる……」
アカリの衝突にも気にせず、辺りを見渡す女の子。ふとその表情を見ると戸惑いうろたえていた。呟いた言葉とその表情に、不思議に思いつつアカリも見渡してく
「本?本なんて一冊もないよ」
そう言いながらまだ辺りを見渡していると、女の子にガシッと強く腕をつかまれ、そのまま引っ張られた
「急ごう!ヒナタに会えなくなっちゃう」
「どこに行くの?ねえ」
急に腕を引っ張られながら無理矢理走らされて戸惑いつつも問いかけるアカリ。その質問に答えるように、とても焦った顔をして女の子が叫ぶように返事をした
「ヒナタのいる場所!早く行かなきゃ。でも……」
そう言うと今度はまた走っていた足を止め、また辺りをキョロキョロ見渡しはじめた。息を切らしているアカリの手を強く握り、少し戸惑いながらアカリの方に振り向いて、アカリの両手をもっと強くつかんだ
「ヒナタもイチカも泣いてる……急がなきゃ……」
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