第64話 笑顔を取り戻す唄声
「あまり泣かないで。こっちまで悲しくなっちゃう」
「だって、ずーっと歩いててもアカリもお母様にも会えないし……私、もう疲れた」
レイナが倒れて慌ただしくなっていた頃、女の子と一緒に走っていたヒナタが、泣くのを我慢し続けたのを耐えきれなくなり座り込んでしまったヒナタ。グスグスと聞こえてくるヒナタの声を、困ったように女の子が見ていた。しばらく見守って声をかけても動く気配のないヒナタにどうしようか悩んでいると、何かの気配を感じたのか、急に険しい顔をして辺りを見渡しだした
「本が増えてきてるんだ……」
そう呟くと、うずくまっているヒナタの腕をまたグイグイと強く引っ張りはじめた
「ヒナタ、行こう。きっともう少しだから頑張って」
「何を頑張るの?もういい。歩きたくない……」
「良くないよ!アカリにもフタバにも会えなくなるよ。私だって、きっと……」
どうにか歩かそうと引っ張り続けながらヒナタにそう叫んでいると、急にヒナタの手を離して、二人の辺りを見渡しはじめた
「唄が聞こえる……」
「えっ?なに?」
上を見上げ呟いた言葉が聞き取れずに、聞き返していると手離していたヒナタの手をまた強く引っ張りはじめた
「急ごう!ほら、早く立って!」
さっきよりも強い力に思わず少し腰を上げ立ち上がると、息つく間もなく走り出した
「アカリもイチカもきっと近くにいる!だから、悲しまないで、泣かないで。急ぐよ」
暗闇の中をまたバタバタと足音をたてて走り続ける二人。すると、走り出してすぐ二人の周りが少し明るくなって、泣いている小さな子供や机に顔を伏せている人達の姿が次々とヒナタと女の子の前に現れはじめた
「でも、泣いてる子がいる……」
「ここは、悲しい思い出の集めた本棚だから。悲しい本が増えてきたの。だから、泣いてる子がたくさんいるの」
「助けないの?」
「本の思い出だから、助けられないよ。それより、本に埋もれないように唄を聞いて」
「うた……?」
そう言われて、次々に現れる人々や二人の走る足音に気を取られ、聞こえていなかった唄声がやっと聞こえてきたヒナタ。集中してその唄声を聞くと、聞き覚えのあるその唄声に、不安そうな顔をしていたヒナタの表情がだんだんと笑顔になっていく
「お母様の唄声だ……」
ヒナタの嬉しそうな言葉を聞いて女の子が後ろを振り向いた。やっと見れたヒナタの笑顔に、緊張感が張り詰めていた女の子の顔も少し和らぎ、ヒナタの手を強くつかんでいた手も緩んで、話しかける声もほんの少し明るくなっていく
「唄声のする方に急いで行こう。たぶんアカリとフタバも唄声が聞こえているはず。だから、会えるから頑張って」
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