第62話 ここは、楽しくて悲しい場所

「お話しするの?」

「うん、歩くの面倒だから、ここでいい?」

「いいけど……」

 アカリの返事を聞いて、その場にすぐペタンと座り込んだ女の子。うーんと背伸びをしている様子を見ながら、アカリも恐る恐る隣に座った。しばらく二人無言のままでいても、真っ白な視界は変わることのないまま。ふと、ニコニコとご機嫌で上を見ていた女の子に、アカリが顔を近づけて話しかけた

「ねえ、あなたお名前は?どこから来たの?ここはどこ?ヒナタどこ行ったか知ってる?」

 さっきまでの不安そうな雰囲気とは違い、グイグイと質問しはじめた

「待って。答える前に、ほら見て」

 近づいてくるアカリの体を押さえると、横に顔を向けた女の子。アカリもその方に顔を向けると、見たことのない親子が楽しそうに絵本を読んでいる姿が現れていた

「なに……誰?」

「あの人達はね、あの本棚にあった本の思い出なの」

 女の子がそう言うと、あちらこちらから楽しそうに遊ぶ子供の声やそれを見守る大人達の笑顔がアカリの周りに溢れだす

「みんな、笑ってる……」

「うん、ここは楽しい思い出だけを集めた本棚だからね。……けど」

 そう言って苦笑いする女の子に首をかしげていると、アカリの周りに聞こえていた楽しそうな声達が少しずつ消えはじめていた









「ねえ、どこ行くの?」

 アカリが女の子の隣に座って話をしているその頃、暗闇の中女の子に手を引っ張られ続けながら歩いていたヒナタ。何度、問いかけても返事をしない女の子に少し苛立ってきて、話しかけてた声が、ちょっとずつ大きくなっていく

「暗いし、お母様もアカリとも離れちゃいそうだから、あまり動きたくないの。だから……」

「ヒナタ。見て、ここ」

 足を止めた女の子の見つめる先には、一人うずくまっている男の子がいた。グスグスと泣いている声が聞こえてきて思わず、女の子と繋いでいた手をぎゅっと握り返した


「泣いてる……」

「うん、嫌なことがありすぎたんだって」

 女の子の話を聞くと繋いでいた手を離し、男の子に近づき肩に触れようと、そっと手を伸ばした瞬間、ガシッと強く腕をつかまれ驚くヒナタ。つかまれた方に振り向くと、女の子がゆっくりと顔を横に振っていた

「ダメだよ。あまり近寄ったらヒナタも悲しくなっちゃう。そうしたら、アカリにもう二度と会えなくなるよ」

「……アカリが、どこにいるか分かるの?」

「知ってるよ。でも私だけの力じゃ、今は会いに行けないの」

「教えて。イチカにも早く会いたいの。だから……」

 女の子に急かすように、思わず早口で話しかけるヒナタ。二人が話し合っていると、いつの間にか男の子が消えていなくなっていた。ヒナタが男の子がいた場所を呆然と見ていると、またグイッと強く腕を引っ張られ、少しよろけて転けそうになっても、女の子は気にせずヒナタの腕を引っ張ったまま、再び歩きはじめた

「もう少し歩こう。まだ見せたいものがたくさんあるの」

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