第60話 悲しみを知ってしまったから

「ここ……どこ?」

 眩しかった光が消えて、そーっと目を開けるとなぜか本棚があったはずの目の前は、何もない真っ白な世界。隣にいたはずのヒナタの姿も見当たらず、恐る恐る振り返ると、レイナやクロスの姿も見当たらず、一気に不安が押し寄せ、両手をぎゅっとつかんで、辺りを見渡しはじめた

「お母様……ヒナタ……。どこ行ったの?」

 一人呟いても返事も来ず、辺りは相変わらず真っ白な視界で、歩くのも怖くなり動けないアカリ。震えてきた足を止めるように、その場に座り込んでしまった。そのまましばらく動かずに呆然としていると、パタパタとこちらに向かって走ってくる小さな足音が聞こえてきた


「誰?」

 突然聞こえてきた足音に驚いて聞こえてくる方に振り向くと、ニコニコと笑顔でアカリを見ている背は低く髪の長い女の子がいた

「ねぇ、一緒に遊ぼっ!みんなもいるから、あっちでみんなと遊ぼう」

 名前も告げずに迷いなくアカリの左手首を引っ張る女の子。突然見ず知らずの女の子に強い力で引っ張られて戸惑いうろたえるアカリ。慌てて手を振り払おうとつかまれた左手をブンブンと揺らした

「みんなって……ちょっと待って!」

 振り払う力を押し退け、アカリを引っ張り続ける女の子に抵抗して、動かないように足に力を込めたアカリ。すると、その声と力に女の子が悲しそうにアカリの方に振り向いた


「私、お母様とヒナタを探しているの。遊ぶのは後で……」

「そっか……残念……」

 アカリの言葉を遮って、しょんぼりとうつ向き、そう言うと、少しずつ体が消えていく女の子。アカリをつかんでいた左手首も消えていく

「消えた……なんで……」

 動くようになった左手首を、右手でつかんで呆然としていると、また誰かが近づいてくる気配を感じて、少し緊張した面持ちで気配のする方に振り返った


「その子が悲しいって思ったから、消えたんだよ」

 そう言いながら、女の子のいた場所を見つめ悲しい顔をしている、また新たな女の子がアカリのすぐ側にいた

「えっと……誰ですか?」

 今度はアカリよりも背の高い初めて見る女の子が現れ困惑するアカリに、その女の子が話しかけられ嬉しそうにクスッと笑った

「ねえ、アカリ。少しお話ししよう。きっと会いたい人にも会えるから」

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