第55話 怖さを一緒に乗り越えて

「お母様……」

 クロスの元に歩いていくレイナの後ろ姿を見て呟くアカリ。呼び止められても振り向くことなくクロスの元に歩いてくレイナの姿を見ていたヒナタがふと、すぐ側にある本棚を見て、驚いた顔になった

「アカリ、あれ……ほら」

 そう言いながらアカリの服をツンツンと引っ張り指差すヒナタ。呼ばれてヒナタの方に振り向くと指を差した先に、本棚の前にたくさんの本が無造作に置かれていた

「本がたくさん重なってるだけじゃないの?」

「違うよ、ほら」

 ヒナタの声に合うように本棚から一冊、ふわりと本が浮かんで出てくると重なった本達の上にパタンと落ちた。すると、また新たな本が一冊出てきて、本の上にまた落ちていった


「お母様がしているの?」

「違うよ。レイナにはそんな力はないから」

 不思議な本の動きに怯えながら一人言を言うように呟いたアカリの言葉にクロスが答えると、本を見ていた目線をクロスの方に向けた

「でも、本が……」

 ちらりとまた落ちた本に目を向けると、たくさんあったはずの本が少なくなっていた

「本が消えてく……」

「あっちの本も無くなってく」

 ふと、ヒナタが反対側にある本棚に目を向けると、同じように本が浮かび落ちては消えてた

「そう、だからちょっと急がないといけないんだ」

 ため息混じりにそう言うと、クロスの前にまだ浮かんでいたイチカとフタバを見てクスッと笑った

「本当はアカリとヒナタがもうちょっと、唄も覚えて、大きくなったらの予定だったけれど……仕方ない」

 すると、イチカとフタバがふわりとレイナの横を通り抜け、アカリとヒナタのもとに戻ってきた。思わずフタバを抱きしめようとアカリが手を伸ばした

「アカリ、ダメだよ」

 そう言いながら、アカリの手をガシッと手を止め、しょんぼりするアカリ。二人のやり取りにクロスがクスッと笑った



「二人とも。その本と一緒に、こっちにおいで」

「えっ、でも……」

 急にクロスにそう言われてうろたえるアカリ。ヒナタはただイチカを見つめ、なにやら考えている様子

「アカリとヒナタ。こっちに来なさい」

「お母様……怖いです」

「大丈夫よ。私が守ってあげるから」

 クロスの元に着いたレイナが、アカリとヒナタの方を向いて話しかけるが、余計怖くなりうつ向いてしまった

アカリ。すると突然、ヒナタがアカリの腕をまたガシッとつかんだ

「行くよ、アカリ」

 グイッと腕を引っ張って歩こうとするヒナタ。だが、行くのをためらうアカリは、動かないように足を踏ん張っている

「でも……」

「イチカもいるし。アカリにもフタバがいるでしょ」

「そうだけど……でも、触れないし……」

「聞きたいことあるから、私は行くよ」

 アカリの手を離し、イチカと一緒にクロスとレイナの所に歩いてくヒナタ。一人残されたアカリ。どんどん離れていくヒナタの後ろ姿を見て、怖さが増えて慌てて後を追いかけてく


「そうか、ヒナタは本を読めたんだったね」

「本当に大丈夫かしら……」

 ヒナタの言葉を聞いて微笑むクロスに対し、近くにある本棚を見て、また不安が募ってくレイナ。そんなレイナの肩にそっと触れてクロスがまたクスッと微笑んだ

「大丈夫さ。ここにいても平気なんだから。後は二人のうたの力を信じよう」

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