第56話 お互いの想いを受け止めて

「ヒナタ、本で何か読んだのかい?」

「うん……」

 ゆっくりと重い足取りでクロスとレイナのもとに歩いている途中、ヒナタに話しかけたクロスに、小さく頷くヒナタのそのすぐ後ろから、アカリが不安そうに見ている

「何を読んだの?」

「イチカもフタバもお家に帰りたいって言ってたの。でも、何回聞いてもお家の場所答えてくれなくて、だから、アカリと一緒に探したの」

 アカリの質問に、少しうつ向きながら答えると、ヒナタの側にイチカとフタバが心配しているのか、周りをグルグルと飛びはじめた

「そっか。他にも何か聞いたかい?」

「イチカはいつも悲しいって言ってる。フタバはアカリといて、とても楽しそうだけど……」

 首を横に振りながらクロスの質問にも答えると、歩いていた足を止め、うつ向き黙り込んでしまったヒナタ。慌ててアカリがヒナタの前に移動すると、手を取りぎゅっと強くつかんだ

「イチカはヒナタといても悲しかったの?あんなに一緒に楽しくご飯食べたのに」

「ううん、そうじゃなくて……」

 アカリの悲しそうな声と表情に、慌てて否定するヒナタ。イチカもアカリの言葉を否定するようにグルグル動き回る



「その悲しい想いは、その本の思い出だね」

 ヒナタの代わりにクロス答えると、アカリが不思議に首をかしげた

「イチカの思い出?」

「そう、とても昔の悲しい想いをヒナタに見せたんだよ」

「えっ、どうして?」

 クロスの言葉を聞いて、側でフタバと一緒にふわりと浮かんでいるイチカを見た。見られるのを嫌がるように、イチカがアカリの後ろに隠れるとフタバも同じくアカリの背中に隠れてしまった。どうにか見ようと後ろを振り向くアカリから、見られないように逃げ回るイチカとフタバのページの音が響き渡る


「ヒナタはその想いを守らないといけないからだよ」

 アカリの様子をクスクスと笑いながら、話しかけたクロス。すると、騒いでいたアカリがピタッと足を止め、クロスの方に目を向けた

「イチカの悲しい想い?」

「そう。アカリはフタバの楽しい想いを守らなきゃね」

「フタバの楽しい想いを?でも、どうして?」

 アカリとクロスの会話に目を背け聞かないようにしていたヒナタが、ゆっくりとまた歩きだした。慌ててヒナタの側に駆け寄るイチカ。アカリとフタバも、慌てて後を追いかけてく。どんどん近づいてくる二人に、レイナが目を背けると、クロスがアカリの肩を寄せ、アカリの質問に答えた

「本達のためだよ。アカリ、ヒナタ。そろそろ、用意は良いかい?」

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