第54話 揺るぎない気持ちを持ったまま

「お母様、大丈夫?具合悪いのですか?」

 ずっと、うつ向いているレイナに心配そうに声をかけたアカリ。その声に、うつ向いていた顔を上げ、ぎこちない笑顔でアカリとヒナタを見た

「大丈夫よ、ありがとう。二人こそ疲れてない?」

「うん、元気……」

 レイナに返事をしながら今度はアカリが少しうつ向いて歩きだす。黙り込んでしまったアカリに、不安げにレイナが見ていると、ヒナタがレイナの手をぎゅっとつかんだ

「お母様は、この先に行ったことあるんですか?」

「ここには来たことあるけれど、この奥までは……」

 二人の会話に、うつ向いていた顔を上げたアカリ。すると、手を繋いで歩くレイナとヒナタを見て、慌ててレイナのもう片方の手をぎゅっとつかんだ





「本がたくさん……」

 だいぶ進んだ先に、突然部屋にはいってきた時よりも数えきれない程の本や大きな本棚が目の前に現れ驚くアカリとヒナタ。同じく本の数に驚き足を止めたレイナ。二人も足を止めキョロキョロと辺りを見渡す

「本が無限にある……」

 すると、三人から少し早く歩いていたクロスが、本棚から本を一冊持って戻ってきた

「ここはね、記憶かが書かれた本がたくさんあるんだよ」

「……記憶?」

「そう。昔からの思い出とか、この世界や街の出来事を書いてあるんだよ」

「私達のことも書いてあるの?」

「もちろん。素敵な思い出がたくさん書かれているよ」

 ヒナタとアカリの質問に、クロスが淡々と答えていると、イチカとフタバが突然クロスのもとにふわりと飛んでいった

「あっ……」

 慌てて手を伸ばすアカリ。ヒナタも一歩足を出して追いかけようとするが、なぜか追いかけられずイチカから顔を背けた



「おや。あまり二人に感情的になってはいけないよ」

 クロスの前に浮かび止まるイチカとフタバ。その様子にクロスが困ったように笑う

「お父様、フタバとイチカを返して」

「それは、もうちょっと二人が頑張ったらだね」

 アカリの質問に不思議な返事で答えるクロス。アカリとヒナタが不思議そうに顔を見合わせていると、クロスが、まだ二人と手を繋いでいるレイナの方に顔を向けた

「さてと、レイナ。こちらへ来てくれるかい?」

 クロスに呼ばれて、無言で歩きだしたレイナ。手をつかんでいたアカリとヒナタも無意識に力を抜いて、レイナの手から離れた

「……お母様」

 ポツリと呟いたアカリの声に、足を止めたレイナ。振り返ると、アカリとヒナタがお互いの両手をつかんでいた。心配そうにレイナを見つめる二人の姿に、少しうつ向いてしまったレイナ。たが、すぐに顔を上げ二人にニコッと笑って声をかけた

「大丈夫よ。アカリ、ヒナタ。一緒にあの本と一緒に帰りましょうね」

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