第43話 いつまでも、消えることのないように
「もう近いですね」
「そうだな。このペースなら夕方には来るかな。それまでに……」
ほんの少しの休憩を終えて、クロスがノアと一緒に本に映るアカリとヒナタの様子を見ていた。元気そうな二人を見て、クロスがクスッと笑っていると、ふと隣にいたはずのレイナの姿がないことに気づいて、ノアから離れて辺りを見渡す
「レイナ。どうしたんだい?」
「この本達は……」
クロス達の近くにある本棚とは別に無造作に積み置かれた本を見て、
「もう消える本達だよ。ここにいるのには、もう力が無いんだ」
クロスがそう答えると、レイナが小さく息を吸う。その吐息が聞こえたのか、クロスがレイナの口を手で塞いだ
「君が唄っても無駄だ。それに、二人が来る前に疲れては駄目だよ」
クスッと笑いそう言うと、そっと口を塞いでいた手を離すとレイナから離れて、ノアがいる方へと一人歩きはじめた
「ノア」
「はい。何かありましたか?」
クロスに名前を呼ばれたノア。二人が映る本から目を離し、近付いてくるクロスの方に目を向けた
「君も少し疲れたろう。少しレイナと休んでてくれ」
「ですが、クロス様は……」
クロスの後ろから、ゆっくりとうつ向き歩いてきたレイナの姿が見えた
「分かりました。レイナ様、こちらへ……」
そっとノアに背中を押され、近くにあるソファーへとノアと一緒に歩ていくレイナ。一人残ったクロスが二人の後ろ姿を見届けた後、さっきまでレイナと見ていた本棚に戻っていった。その中の一冊を手に取ると、パラッとページをめくると、大分かすれ、消えかけた文字が書かれていた
「この本も、もう消えるか……。二人が間に合えば良いが……」
「フタバ、疲れた?」
隣で上下に激しく動くフタバに、心配そうに声をかけたアカリ。歩いていた足を止めると、それと同時にフタバがフラフラと地面に落ちていった
「どうしたの?」
少し前を歩いていたヒナタが振り返ると、アカリが地面に落ちたフタバを手に取り、ぎゅっと抱きしめていた
「フタバが浮かぶの疲れたみたい。少し休む?」
そう言われて、ふと隣で浮かんでいるイチカを見た
「イチカも疲れたみたいだし、そうしよっか」
ヒナタもイチカを抱きしめて、近くにある木に移動して、木陰の下で休む二人。アカリがうーんと背伸びをして、寝転び、ヒナタも木にもたれイチカを読みはじめ、二人にのんびりとした時間が流れていると、ガサッと少し強い風が吹いた。風に揺られて落ちた葉っぱが目にかかり、思わずぎゅっと強く閉じたアカリ。すぐに風が止み、そっと目を開けると、なぜかヒナタがコップを持ち、ジュースを美味しそうに飲んでいた。持っていなかったはずの飲み物を見て、アカリが呆然としていると、視線に気づいたヒナタがもう一個あったジュース入りのコップをアカリに渡した
「……ありがとう」
手渡されたジュースは二人の甘いジュース。それを一気に飲み干すアカリ。その姿にヒナタが呆れて苦笑いをしている。その笑い声にアカリがヒナタを見ると、太ももの上に置かれたイチカを見て、納得した顔をした
「そっか……。ヒナタはイチカの使い方、もう分かるんだね」
「うん。でも、何となくだよ」
と、話をしながらアカリがイチカを取ってページをめくる。パラパラと本の中身を進めていくと、何かに気づいたのか、アカリの顔が不思議そうな表情に変わってく
「ねぇ、イチカのページ、少し減ってない?」
アカリの言葉に、微笑ましく見ていたヒナタの表情が変わってく
「フタバは変わってる感じしないけど……」
そう言いながら、側に置いていたフタバを取り、重ねて目比べ、うーんと悩んでいると、突然立ち上がったヒナタがアカリからイチカを奪い返しスタスタと歩きはじめた
「ほら、もう行くよ。フタバは持って歩こう。急がなきゃ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます