第37話 二人のうたの行方

「ヒナタ……。本当に唄うの?」

「うん。アカリも一緒に唄うよ」

「今は止めておこうよ。イチカとフタバに何かあったら……」

「大丈夫だよ。多分……」

 アカリからヒナタに声をかけて、またヒソヒソと話しはじめた二人。話を終えても不安そうなアカリに対し、ヒナタは背中に隠したイチカを手で強くつかんで、グッと歯を食いしばった。二人の様子をニコニコと見ているクロス。すると、レイナがそっと近づいて、クロスにコソッと話しかけた

「ねぇ、クロス。本当にいいの?」

「ああ、万が一に備えて、ノアが先に行ったし、私もすぐに向かう」

 そう話していると、内緒話を終えたアカリとヒナタが、レイナ達の方に向いて、深呼吸をした。二人、見つめあい、背中に隠したイチカとフタバをぎゅっと強くつかんで、一緒に頷くとゆっくりと唄いはじめた


「素敵なうた声だ……」

「本当に大丈夫……」

 不安で一杯のレイナと家政婦達に対し、クロスは二人のうたに聞き惚れている。唄うことに不安だったアカリも楽しそうに唄っていると、イチカとフタバも楽しくなったのか、二人の手から離れて、ふわりと浮かんで二人の顔の側に来た。驚きのあまり唄う事を一瞬忘れていると、パラパラとページがめくられ強い光を放つイチカとフタバ。その場にいた皆が、その光の眩しさに目を細めるていると、ほんの一瞬、弱くなった光。その瞬間を狙って、イチカとフタバを隠そうと手を伸ばし本を取り、パタンと少し勢いをつけて本を閉じると、光が消える同時に、アカリとヒナタの姿も消えてしまった






「……何処に行ったか分かるか」

「はい。部屋で見ていた者が報告に来ると思います」

「そうか。なら、悪いがこの部屋に何か変化はないか、調べてもらって構わないか」

「……わかりました」

 目の前で二人が消え、うろたえる家政婦達とは違い、淡々と指示をするクロス。二人の唄声から一気にバタバタと騒がしい物音が響く書庫の中。一人、アカリとヒナタがいた場所を名にも言わずただジーっと見つめるレイナに気づいたクロスが、心配そうに声をかけた

「レイナ。大丈夫かい?」

「ええ……。二人とも、一緒に同じ場所に移動していたら、良いけれど……」

 お互いの手をぎゅっとつかんで、寄り添う二人。その間も、書庫の中ではバタバタと騒がしい物音がまだ響き渡る






「痛っ……」

 その頃、書庫から移動した場所に倒れていたアカリが、ゆっくりと体を起こした。さっきまでいた書庫とは違う光景に驚きつつも、すぐ側で倒れているヒナタに気づいて駆け寄り、体を揺らしながら声をかけた

「ヒナタ、大丈夫?」

 何度か体を揺らされて、目を覚ましたヒナタ。ゆっくりと体を起こすと、少しボーッとしている様子だか、アカリを見て、ゆっくりと頷いた

「うん、何とか……」

 ヒナタの声を聞いて、ホッとため息をついたアカリ。すると、ヒナタが体を起こして辺りを見渡しはじめた。目の前は、建物一つない広い高原に呆然とする

「……ここどこ?」

「昨日、歩いた所とは違うかなぁ……フタバ、ここどこか分かる?」

 二人の側で、地面の上に重なるように倒れていたイチカとフタバが、アカリの声でふわりふわりと浮かびだす。問いかけには答えず二人の周りをウロウロと浮かんでいると、イチカをつかんで、一人歩きだしたヒナタ。足音に気づいたアカリが慌てて声をかけた

「えっ、ヒナタ?」

 ぐんぐん離れてくヒナタを見つめ、戸惑い動かないアカリ。名前を呼ぶ声に気づいたヒナタがクルリと振り返った


「アカリ、置いてくよ」

「ちょっと、待って!」

 止まることなく歩いてくヒナタを慌てて追いかけてくアカリ。イチカも置いていかれないように、アカリの後ろを慌てて追いかけていく。後ろから、アカリの声が聞こえてくる中、ヒナタがイチカをぎゅっと強く抱きしめ、ポツリと呟いた

「イチカとフタバを早く戻さなきゃ。早く行かなきゃ……」

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