第36話 見つめる先に想いを寄せて
「イチカー。フタバー」
書庫の中で、ヒナタが呼ぶ声が響く。電気をつけずに入った為、真っ暗の中ゆっくりと歩いてくアカリとヒナタ。キョロキョロと辺りを見渡して探していると、アカリが近くの本棚を見つけてヒナタから離れ、その本棚へと駆け寄ってく
「あっ!ヒナタ。ここだよ!イチカがいた場所」
アカリの声を聞いて、アカリのいる本棚を越して歩いたヒナタが戻ってきた。指差す先を見て、どこか悲しげな表情をしている
「ここに、イチカがいたの?」
「うん。偶然見つけたの。でね、うたを唄ったら、ヒナタのところにいつの間にか居たんだよ」
アカリの話を聞きながら本棚を見つめるヒナタ。一冊だけ本が入りそうな隙間がポツンと空いているその場所に、そっと手を伸ばした
「もしかしたら、唄ったら出てくるんじゃない?」
「えー。まさかぁ……」
「どうせ見つからないんだし、物は試しだよ」
本棚を触っていたヒナタの手を取りグイグイと引っ張って、入り口近くの少し開けた場所に移動していく
「そうだね。一緒に唄って出てくるかも」
二人見つめあってエヘヘと笑い、お互いの両手をぎゅっとつかんだ。目を閉じ楽しそうに奏でる唄声につられるように、何処からともなく小さな光が書庫に灯る。唄ったまま、その光の方に目を向けると、光の中から、イチカとフタバが、ふわりふわりと浮かんで二人のもとに向かってきた
「イチカ!フタバ!」
二冊の本を見て、アカリとヒナタも本のもとに走ってく。本をつかむと、強くぎゅっと抱きしめると、ニコッと笑いあう二人。本が戻ってきて、少しホッと胸を撫で下ろしていると、突然ガタガタと書庫の扉が揺れる音が響いた
「ヒナタ!アカリ!」
書庫内に響き渡るレイナの声と二人に近づいてくる慌てて背中の後ろに見られないように本を隠す二人。その瞬間、走ってきたのか、息を切らしたレイナがアカリとヒナタを見つけた
「……お母様。どうしたんですか?」
「ここで、二人で何をしているの?」
「えっと……ヒナタと、おうたの練習を……」
はぐらかすように苦笑いで答えるアカリに対し、ヒナタは顔を背けて、レイナを見ないふりをしている。レイナや後を追いかけていた家政婦達が、何にも言わず二人を見つめていると、クスクスと笑う声が後ろから聞こえてきた
「何のうたを唄っていたんだい?」
アカリやヒナタだけでなく二人の周りにいた全員が、驚き声のする方に振り向くと、クロスがニコニコと笑って近づいてきていた
「じゃあ二人とも、唄の練習の成果を見せてくれるかい?」
「私はいいけど……。でも、ヒナタが……」
クロスからのお願いに、ヒナタを見ながら困ったように答えるアカリ。レイナやクロス達もみんな、ヒナタを見る。すると、一人顔を背けていたヒナタが全員の視線を感じて、少しムッと怒った顔をして、クロスの方を見た
「唄います。お父様、お母様。聞いてくれますか?」
「もちろんだよ。素敵なうたを聞かせておくれ」
「でも、ヒナタ……」
「アカリ。あのね……」
アカリがヒナタに不安そうに話しかけると、二人で何やらヒソヒソと話しはじめると、少し離れた場所で様子を見ていたノアをクロスがコソッと呼んだ
「ノア。先に出ているように……」
アカリとヒナタに聞こえないように、ノアに伝えると一度頷き書庫を後にしたノア。その後ろ姿を不安そうにレイナが見ていると、クロスがレイナをそっと抱きしめた
「大丈夫だ。君のうたを唄うんだ。二人の本と唄を信じよう」
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