第29話 騒ぐことなく静寂なまま
「二人の本が見つかったの?」
「はい。お二人の鞄にそれぞれ一冊ずつ入っていました」
のんびりとしていたレイナに報告をする家政婦達。側にいたクロスも険しい表情で話を聞いている
「鞄に?確か、鞄は探したはずよね?」
「はい。なので、お二人が術で隠していたか、本自体が気配を消していたのかと思われますが……」
一通り報告が終わると、静まり返ってしまった部屋。レイナが、不安そうにクロスの方に振り向くと同時に、クロスが深いため息をついた
「ノアは今、どこにいる?」
「部屋で休んでいると思いますが……」
「なら、出掛けるとノアを呼んでくれ」
「分かりました……」
ノアを呼ぶために一人家政婦が、部屋を出ていくと、残った家政婦達の方にクロスが振り向き声をかけた
「それで、二人は本に喜んでいるんだろう?」
「はい。名前をつけて喜んで楽しんでいます」
「そうか、名前はなんだね?」
「ヒナタ様は、イチカ。アカリ様はフタバと、つけていましたよ」
「そうか、二人らしい可愛い名前だ」
名前を聞いて、クスッと笑うクロス。一方、レイナは事の深刻さを考えて浮かない表情のまま。すると、どこからともなく突然、ドタバタと足音が聞こえてきた
「クロス様、お待たせ致しました」
と、ノックもなしに、急いで来たのか息を切らしたノアが部屋に入ってきた。走ってくる途中に、少し乱れた服を直しているノアを見て、フッと笑うクロス。おもむろに立ち上がると、また険しい表情になってレイナを見た
「では、少々出掛けてくる。その間、二人を頼む」
「こんな遅くから……。それに二人とも、あまり休んでいないのに」
「少し様子を見に行くだけさ。すぐ戻るよ」
不安そうなレイナを見て微笑むクロス。話を終えると服を整え終えたノアと一緒に部屋を出ていった。バタンと少し強めに扉が閉ざされ、バタバタと聞こえる足音も少しずつ消えていく。部屋がまた静かになり、少し緊張感がほどけたのか、レイナがふぅ。と大きくため息をついた
「レイナ様、大丈夫ですか?」
疲れたように見えた家政婦がレイナに声をかけると、ニコッと微笑むレイナ。椅子から立ち上がり、また一つため息をつくと、家政婦達に優しく声をかけた
「大丈夫よ。それより、早くクロスの部屋に行って、二人と本を見守りましょう」
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