第25話 素敵な声が戻ってきた場所

「やっと着いた……」

 森で二人会ってから大分時間が経って、もうすぐ夜になる頃、やっと家に着いたアカリとヒナタ。電気の付いている家を見て、ふぅ。と深呼吸をした

「疲れたね」

「うん……疲れた……」

 アカリに返事をしながら、アカリの手をぎゅっと強く掴んだヒナタ。ちょっと震えているヒナタの手に気づいたアカリがぎゅーっと強くヒナタを抱きしめた

「大丈夫だよ。一緒に、ごめんなさいしよう」

「うん。ありがとう、アカリ」

 そう言うと、アカリにぎゅっと強く抱きしめ返すヒナタ。すると、二人の側で、ふわりふわりと浮かんでいた本達が、それぞれの鞄に一冊ずつ隠れた。二人も抱きしめていた手を離し、お互いの手を繋いで、足取り重く家へと歩いてく




「ただいま……」

 二人一緒に、小声で帰宅の挨拶をすると、バタバタと家の中から足音が聞こえてきた。パタンと静かに玄関の扉が閉まると、走ってきたのか、レイナが息を切らして二人のもとに現れた

「アカリ!ヒナタ!」

 レイナの大声と気まずさで、後退りするアカリとヒナタ。玄関の扉に背中がついた時、レイナが二人を抱きしめた

「二人とも、無事で良かった!」

 強い力で抱きしめられて、動けず声も出ない二人。家政婦達も、三人の側にやって来ると、抱きしめていた少し力を離して、二人の頭を優しく撫でた

「アカリも突然居なくなって、心配したのよ」

「あっ……ごめんなさい……」

 レイナの言葉に顔を背けて、呟くアカリ。ヒナタも一緒になって、レイナから顔を見ない振りをしていると、騒ぎを聞きつけたクロスが、三人の元にやって来た

「アカリ、ヒナタ。お帰り」

 元気そうなアカリとヒナタを見て微笑むクロス。その笑顔を見て、顔を見合わせた

「勝手に出掛けて、ごめんなさい……」

「ごめんなさい……」

 か細い声で謝る二人に、クロスがまたクスッと微笑むと、レイナと同じく二人の頭を優しく撫でた

「二人とも、たくさん、冒険は出来たかい?」

 優しく問いかけたその声に、少し緊張していたヒナタの表情が、段々と笑顔になっていく


「はい。街に行って色々お店を見てきました」

「いいなー。私も色々お店見たかったな……」

「ごめんね。アカリの好きそうなケーキ屋さん見つけたから、今度一緒に行こう」

「本当に?じゃあ、お部屋で行く日を決めよう!」

 そう言うなり、突然ヒナタの手をつかんで、走り出したアカリ。レイナの側を通り、家政婦達の間をすり抜け、走り去っていった二人。あっという間に姿が見えなくなり、レイナと家政婦達が慌てだす

「ちょっと、二人とも待ちなさい」

 レイナの声が聞こえたのか、家の何処かから、二人の楽しそうな声が聞こえてくる




「元気そうで良かったですね」

「ああ。まだ元気があり余っているようだがな」

 静かだった家が一気に騒がしく、ドタバタと大きな足音と、笑い声と注意をする声が、さっきよりも家中に響き渡り、ノアに返事をしながら、苦笑いをするクロス。同じく家政婦達も思わずクスッと笑っている

「しかし、これから、どうしますか?」

 そんな中、一人だけ険しい表情のままのノアがクロスに声をかけた。その表情と話し声に、クロスもまた真剣な表情に変わっていく

「しばらく二人の様子を見ながら、術を進めよう。このまま進めずにいるのも、二人が持つ本の為にもならないからな」

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