第22話 もう一度、この道の先へ
「一度戻るべきか、それともヒナタのもとに……」
一人ぶつぶつと呟いて廊下を歩くクロス。難しい顔をして、何やら考え込んでいた
「いた!お父様!」
突然、大声が聞こえて、考え込んで下を向いていた顔を上げると同時に、少し離れた場所にいたアカリがこちらに向かって駆け寄ってきた
「会えてよかったです」
走った勢いのまま、クロスに抱きついたアカリ。勢いに負けて少しよろけたクロスの表情が、さっきとは違い少し綻んだ
「おや、アカリ。ヒナタを探しに街に行くんじゃなかったのかい?」
「そうだったけど、お家で待ってる方がいい気がして、お母様だけで探してってお願いしたんです」
「そうかい。僕もヒナタを探しに行くけど……。アカリ一人で家で待てるかい?」
「はい。みなさんもいるから大丈夫です」
アカリとクロスの会話を少し離れて見ていた家政婦達の方に振り向くアカリ。追いかけ疲れているのか、少し息を切らしている家政婦達を見て、クロスがクスッと笑う
「そうだね。迷惑かけちゃダメだよ」
そう言うと抱きついていたアカリを離して、家政婦達に今度は笑顔ではなく険しい表情で話しかける
「アカリをよろしく」
「はい。お任せください」
家政婦達がクロスに返事をすると、アカリの頭を撫でて、廊下をまた歩きはじめたクロス。その後ろ姿を手を振り見送るアカリ
「ヒナタをちゃんと見つけてくださいね!」
アカリの声にクロスも少し振り返って手を振る。廊下の角を曲がり姿が見えなくなると、いつの間にかアカリの側に来ていた家政婦達に、エヘヘと笑うと、またドタバタと足音を立てて家の中を走り出した
「よく寝た……」
その頃、寝ていたヒナタが木漏れ日からの眩しい日差しで目を覚ましていた
「これ、どうやって降りるの?」
足元を見ると、地面は遠く簡単には降りれそうな事に気づいたヒナタ。急に不安になって太ももにいた本を取って、ジーっと見つめた
「ねえ、どうすればいい?」
本に問いかけて、しばらく待ってみても何の反応がなく、はぁ。とため息ついたヒナタ。ふと、何となく本を開いてページをめくっていると、何かに気づいたのか不思議そうに本をパラパラとめくりはじめた
「あれ?本のページが減ってる?」
と、ヒナタが呟くと突然何の動きもみせなかった本のページがパラパラと閉じたり開いたりを繰り返しはじめた
「急にどうしたの?」
ヒナタの手から離れて、周りをグルグルと動きはじめると、今度はヒナタのいる木を上へ下へと忙しそうに行ったり来たりを繰り返しはじめた
「そうだね、降りなきゃ……」
ふわりふわり、ゆっくりと地面に降りていくヒナタ。そっと足が地面に着くと緊張感が解けて、ホッと胸を撫で下ろした
「そろそろ、お家帰ろうか。本も見当たらないし、アカリもお父様も心配しているだろうから……」
側でふわり浮いていた本に、そうヒナタが帰ろうと言うと、慌てたようにジタバタと動き出し、進んではヒナタのもとに戻ってを繰り返しはじめた
「もう少し歩くの?」
と、本の動きを見て、ヒナタが本に問いかけると答えがあっていたのか、ヒナタの頬に本がぺチッと触る。その本を手に取ると一歩足を踏み出して、ふぅ。と一つ深呼吸をした
「じゃあ、もう少しだけ冒険しようか。あの本も見つかるはずだもんね」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます