第20話 知らない振りを続ける意味を

「アカリ、どうしたの?体調悪い?」

 ヒナタが街に着く頃、ヒナタを探しに行く予定のアカリはベッドに座って動かず、ボーッとしていた。そんなアカリを心配するレイナが、心配そうに声をかけていた

「ううん、元気だけど……」

 レイナにそう返事をしても浮かない表情のアカリ。その背中をレイナがそっと触れると、少し顔を上げて不安げにレイナの顔を見た

「お父様、ヒナタのこと、気にならないのかな?」

 そう言うと、またうつ向いてしまったアカリ。その言葉と不安そうな雰囲気に背中を擦っていた手を止めて、今度は抱きしめるとアカリがレイナの腕をつかんだ

「ノアさんもみなさん、落ちついてて……。本当はヒナタのいる場所、知ってるのかな?お母様は何か知ってる?」

「いいえ、何も聞いていないわ」

「本当に?嘘じゃない?」

「ええ。嘘なんてついてないわ」

 アカリの言葉に答えるように、アカリをぎゅっと抱きしめると、つかんでいたレイナの腕を離し体をレイナに寄せて持たれるアカリ。二人にのんびりとした時間が過ぎていると、誰かが訪ねてきたのかコンコンと扉の叩く音が響いた

「誰かしら……」

 アカリを離して、部屋の扉を開けると、ノアと数人の家政婦が不安そうな表情で立っていた

「あら。みんな、どうしたの?」

「少しお話が……」

 雰囲気とノアの言葉に、ただ事ではないと思ったレイナ。ベッドで不安そうに様子を見ているアカリの方に振り向くとニコッと笑った

「アカリ。お着替えしててね」

 そう言うと、すぐ部屋を出ていったレイナ。微かに聞こえてくる話し声に、アカリがはぁ。とため息をついた





「お着替えかぁ……。どうしよう」

 ベッドから降りて、クローゼットに向かってくアカリ。たくさんある洋服を、あれこれと取り出しては服を放り投げて、何とか服を着替え終えると、今度は枕の下に隠していた本を取り出して、またクローゼットから鞄を何個も放り投げて選びはじめた

「鞄にヒナタの本も入れて……っと」

 お気に入りの鞄に本を入れると、廊下に居るであろうレイナに向かって大声で叫んだ






「本が消えたの?」

「ええ、書庫に置いていたのですが、行方を知りませんか?」

「いえ……」

 アカリが部屋の中を散らかしている頃、レイナは驚いた表情でノアから報告を聞いていた。すぐに、険しい表情になって、アカリを探して書庫に行ったことを思い出して、

「あっ、でも確かさっき……」

「お母様!ちょっと来て!」

 話を遮るように、部屋からアカリの大声が聞こえてきた

「あら、ごめんなさいね……」

 慌てて部屋に戻ってくレイナ。バタンと扉が閉まると、部屋の中からアカリが何だか騒がしく話しているのが聞こえてくる


「ノアさん、どうしましょう……」

 あまり答えが得られず、不安になった家政婦がノアに問いかけると、少し悩んではぁ。と大きなため息ついた

「仕方ない。クロス様も色々動くだろう。私はクロス様と本を探しに行くことにする。そっちは引き続き、クロス様の部屋でヒナタ様の監視を。何かあればすぐ呼ぶように」

「……はい。わかりました」

 ノアにお辞儀をして、クロスの部屋へと戻ってく家政婦達。すると、少し廊下が静かになり、さっきよりもアカリの騒がしい声が聞こえてくる。アカリの騒がしさに注意をするレイナの声も聞こえてきて、思わずノアがクスッと笑った

「何事もなく本が帰ってきて、残りの魔術も終えてまた平和に暮らせると良いのだがな……」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る