第19話 唄えばきっと大丈夫

「お腹一杯だし、疲れちゃった。どうしよう……」

 トボトボと足取り重く残ったパンも片手に持って、森の中を歩き続けているヒナタ。足元が不安定な、でこぼこ道に疲れて、はぁ。とため息をついた

「お家に帰ろうかな……でも……」

 後ろを振り向いてみても、さっきまでいた街の姿はなく、段々と歩く気力が無くなり、側にあった木にもたれるように座り込んだ

「もう歩けないや。少し休もう」

 そんなヒナタの様子を、ふわふわ浮いて見ていた本が、突然、バサバサと紙の音を鳴らして、森の中を駆け抜けていった

「えっ……。ちょっとまって!」

 慌てて立ち上がり本の後を追いかけてくヒナタ。本もヒナタを見失わないように、立ち止まっては進んでを繰り返してく。更に森深く進んだ時、突然、立ち止まった本。ヒナタも息絶え絶えに追い付いて、ふわり浮いたままの本に触れようとした瞬間、ふわふわと空に向かって跳んでいく本。さすがに追いかけられないヒナタが本を見つめ呆然としている

「えー。どうしよう……」

 どうしようかと困っていると、また本がヒナタのもとに戻ってきた。すると、またヒナタの周りをグルグルと飛んで動き回りはじめた

「私は木に登れないよ。あっちで休みたいなら一人で休んで」

 ヒナタの言葉を聞いて、更にグルグルと飛び動き回る本。その行動の意味がわからずヒナタの表情が少し怒ったのか、不機嫌になっていく

「もう、だから……」

 と、ヒナタの様子に気づいたのか、ピタッと回るのを止めた本。恐る恐るヒナタに近づいて、本の角が口元にそっと触れた

「……もしかして、唄ってって言ってる?」

 そうヒナタが言うと、またヒナタの周りをグルグルと周りはじめた本。言葉が当たっていると思ったヒナタが怒った表情から変わって今度はクスッと笑う


「しょうがないなぁ……」

 そう言うと、ふぅ。と一つ深呼吸をすると、さっきとはまた違う好きなうたを唄いはじめたヒナタ。その唄にあわせるように、本がバサバサとページの音が鳴る。歩き疲れたことも忘れて、楽しく唄い続けるヒナタ。すると、本がまた光を放ち、ヒナタの周りが眩しく輝く。すると、ヒナタの体が勝手にふわりと浮かんだ。パニックになり唄うのを止めてじたばたと動くヒナタ。だが、勝手にどんどん空へと浮かんでいく。あたふたしているうちに、側にあった木の上まで辿り着いて、木の枝にゆっくりと足を止めた


「スゴい!ここなら、さっきの場所より休めるかも!」

 高い木の枝に怖がる様子もなく木の枝に座って、景色を眺めるヒナタ。本もヒナタの隣に来て木の枝に止まった

「アカリと一緒に眠りたいなぁ……」

 そう呟いていると、心地よい風に誘われてウトウトとしはじめたヒナタ。木にもたれてそのまま眠ってしまった。本も眠るヒナタの膝の上に移動すると、二人にのんびりとした時間が過ぎていく






「本がない……」

「確かにここに置くように術をかけたはずですよね」

 書庫で驚いた表情で話をするクロスとノア。一冊抜かれた後のある本棚を見つめ呆然としている

「ヒナタが持っていったのか」

「そうだと思われますが……」

「これは予想外というべきか……」

 何処かに紛れ込んでいないかと周りの本棚を見回してくノア。一方、クロスは探すことなく空いた隙間を見つめ、考え込んでいる

「あの本は、ヒナタ様とアカリ様の唄が書かれています。もし……」

「いや、あの本は特殊だ。ヒナタが持つ本とは違い、そう簡単には扱えないようにしたが……」

 一通り書庫の中を見終えたノアがクロスの元に戻ってきた。ノアの手元に本がない姿を見て、クロスが はぁ。とため息をついた

「とりあえず探そう。ノアは本の捜索を頼む」

「……わかりました」

 クロスにそう返事をすると、先に書庫へ出ていくノア。パタンと小さく扉の閉じる音が聞こえると、クロスがまた一つ深いため息をついた

「やはり、少し早かったのか……だがもう、本は動き出してしまったんだ。二人もきっと大丈夫だ……」

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