第7話 好きなものは待てない

「……アカリ、食べないの?お腹いっぱい?」

「ううん。お腹すいてるけど……」

 ボソボソと小さい声でアカリに声をかけたヒナタ。その声につられて、アカリもか細い声で返事をする

「ちゃんとご飯は食べないとダメよ。二人のデザートも私が食べちゃうわよ」

 二人の様子を向かいから、先に朝御飯を食べ終えたレイナが、ニコニコと微笑み見ている。その視線を感じて、アカリが恐る恐るレイナに声をかけた

「お母様……あの……」

「お話は食事が終わってからね。だから、早く食べないと」

「……はい」

 話を遮られて、また少しうつ向いてご飯を食べはじめたアカリ。その様子を見ていたレイナの側で、食べ終えた食器を片付けはじめた家政婦に気づいて、レイナが声をかけた

「そういえば、クロスはいつ帰ってくるか聞いた?」

「はい。しばらく帰ってこれないと言っておりましたが……」

「そう。しばらく寂しくなるわね」

「うん……。でもお仕事だから……」

 と、レイナにしょんぼりとした声で返事をするアカリ。ヒナタもパンを頬張りながら、小さく頷いている。片付けを終えたのか、カチャカチャと聞こえていた食器の音が消えて、ふと、部屋が静かになった


「……さてと、そろそろデザートでも頂こうかしら」

「はい。お持ちします。少々お待ちください」

 レイナにそう返事をすると、ゆっくりと扉を開けると部屋を出ていった家政婦達。パタンと扉の閉まる音が聞こえると、その様子を見ていたアカリとヒナタにレイナが声をかけた

「ヒナタ、アカリ」

「はっ、はい!」

 急に呼ばれてアカリが思わず大声で返事をした

「二人とも、こっちにいらっしゃい」

 レイナにそう言われて、ふと顔を見合わせると、ゆっくりと椅子から降りて、手を繋いでレイナの元へと歩いてく。不安そうな二人を見てレイナが優しく二人を抱きしめた

「私の可愛い娘。いつまでも愛しているわ」

「私もお母様、大好きです。ね、ヒナタ」

「……うん」

 ヒナタが、か細い声で返事をすると、更に強く二人を抱きしめるレイナ。三人とも無言のまま時間が過ぎて、静かになった部屋に、またコンコンと扉を叩く音が響いた




「レイナ様。デザートをお持ちしました」

 と、家政婦達が持ってきた沢山のケーキや焼き菓子を見て、不安そうな顔が一気に笑顔になったアカリとヒナタ。大急ぎで家政婦達の所に駆け寄ってく

「美味しそう!早く食べよう」

「アカリはまだ、ご飯残ってるからダメだよ」

「えー……」

 お菓子を取ろうと手を伸ばしたアカリの手を、ヒナタがつかんで止めた。捕まれた手をしょんぼりと見つめるアカリ。そのままヒナタと一緒にテーブルまで戻ると、残った朝御飯を二人一緒に食べはじめた






「ごちそうさま」

 お腹一杯になったのか、おかずを少し残してふぅ。とため息ついたアカリ。先に朝御飯を食べ終えたヒナタも一緒に手を合わせた

「じゃあ、みんなでデザートを食べましょうか」

「うん!」

 レイナの言葉を聞くなり、二人手を繋いでデザートが置かれたテーブルに走ってく

「ヒナタ、何にする?」

「えーっと……どうしようかな……」

 楽しそうにデザートを選ぶ二人の後ろ姿を、レイナも楽しそうに見守っていると、同じく二人の様子を側で微笑ましく見守っていた家政婦達を呼んだ

「そうそう。午後、二人と出掛けるから、準備をお願いね」

「かしこまりました。お出掛けになるとクロス様に伝えますか?」

「いえ、大丈夫よ」

「お母様!どれを食べますか?」

 話を遮るような大きな声でレイナを呼ぶアカリ。機嫌の良いその声に、レイナとの会話で少し緊張していた家政婦達の顔が綻ぶ。同じくレイナも、ほんの少し緊張感が解けて、クスッと笑うと、返事をしながら二人のもとにゆっくりと歩きだした

「そうね。二人と同じデザートにしようかしらね」

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