第8話 この痛みを忘れるほどに

「ヒナタとアカリは、もう起きただろうか」

「そうですね。起きた頃だと思いますが……」

 その頃、仕事に出たクロスとノアが話をしていた。機嫌の良さそうなクロスに対しノアは少し浮かない表情で返事をする

「どうしたんだい?気分でも悪いのかい?」

「いえ、ただ……」

「二人のことなら大丈夫だろう。レイナが側で支えるだろうし」

 ノアと話をしながら、自分自身の少しでも不安を拭おうと笑うクロス。ふぅ。と一つ深呼吸をして、歩いていた足を止めた

「それに、二人の心配している暇はないはずだが……」

「はい。申し訳ありません」

 クロスの少し後ろを歩いていたノアも足を止め、深呼吸をした。二人の前には、人里離れた草原の中にポツンとある大きな扉。突然、強い風も吹き荒れて二人の周りを草木が飛び舞う。そんな中、クロスが左手にヒナタの本を持ちながら、その大きな扉に触れると、ゆっくりと扉が開いていく。真っ暗な扉の中を見て息を飲むノアの緊張感が伝わったのか、クロスが少し振り返りクスッと笑った

「では、行こうか。本と共に……」






「痛い……」

 朝御飯の後、お出掛け前にアカリと部屋で休んでいたヒナタが突然、ぐっと胸を押さえてベッドに座った。声と動きに気づいたアカリが慌てて駆け寄っていく

「ヒナタ、どうしたの?大丈夫?」

「急に胸が少し痛くなって……」

「えっ……。大丈夫なの?お医者さん呼ぶ?」

 ゆっくりと体を倒してベッドに横になるヒナタ。ふぅ。と深呼吸をすると、心配そうに見ているアカリにニコッと笑う

「ううん。少し休めば大丈夫だよ」

 そう言うと、ウトウトとしはじめたヒナタ。目を閉じ眠ろうとする姿に、アカリがぎゅっと手をつかんでいた手を、もっと力強く握った

「ゴメンね、ヒナタ。私が昨日……」

 と、涙声でアカリがヒナタに話しかけていると、眠ってしまったのかヒナタの寝息が聞こえてきた。つかんでいた手をそっと離して、側でその姿を見守るアカリ。ボーッと寝ている様子を見ていると、コンコンと部屋の扉が叩く音が聞こえてきた




「あら、ヒナタ寝ちゃったの?」

 ベッドの側に一人いるアカリに声をかけたレイナ。声に気づいたアカリが少し顔を上げて、近づいてくるレイナを一瞬見てすぐまた、ヒナタの方に顔を向けた

「うん……。お腹いっぱいって寝ちゃった」

「あらそう。じゃあ、お出掛けはヒナタが起きてからにしましょうか」

 そう言いながら、アカリの隣に椅子を置いて座ったレイナ。心配そうにヒナタを見つめるアカリを見て、ぎゅっと抱きしめた

「アカリ」

「何?お母様」

 返事をしながら、ゆっくりとレイナの方に振り向く。二人、目が合ってレイナがクスッと微笑んだ

「お出掛け、どこに行く?」

「ヒナタが行きたい場所に行きます」

 質問にすぐ答えたアカリ。その答えを聞いてさっきよりも優しく抱きしめた

「優しい子ね……。アカリもヒナタが起きるまで、少し休んでなさい」

「……でも」

 レイナにそう言われて戸惑い、また寝ているヒナタを見て、うつ向いてしまったアカリ。不安な気持ちを察してか、レイナがアカリの頭をそっと撫でた

「アカリが眠るまで隣にいるわ。だから、ゆっくりおやすみ……」

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