第3話 一緒に願いを込めて唄を
「お父様……何をしているの?」
目の前に見える不思議な光景に、ポツリ呟くアカリ。ヒナタも扉の隙間から部屋の中を見渡していく
「ねぇ、アカリ。ちょっと押さないで……」
部屋の中を見ようとヒナタの背にもたれるようにグイグイと押すアカリ。片手に本を持っているせいでバランスを崩しそうになっている
「だって見えないんだもん……」
と二人がボソボソと小声で話していると、クロスが部屋の隅にいたノアを呼んだ。重い足取りでクロスの隣に来ると、二人一緒にふぅ。と深呼吸をした
「いいかい、ノア。この魔術は、決して止めてはいけない……大丈夫かね?」
「はい。心得ています」
「では……」
二人の言葉に部屋の中の緊張感が高まっていく。その緊張感がヒナタとアカリにも伝わり二人も息を飲んで見守っていると、強い光が部屋中に現れて、目をぎゅっと強くつぶるアカリとヒナタ。そのせいで、アカリの体重がヒナタに更にのしかかる
「ねぇアカリ、ちょっと重いよ……」
と、アカリの体重にヒナタが耐えきれずに、二人一緒にバタンと大きな音をたてて倒れてしまった。突然聞こえてきた音に驚き、魔術の様子を部屋の隅で心配そうに見ていた家政婦達が一斉に振り向いた
「二人とも!どうして」
アカリとヒナタの姿を見て、慌てて二人のもとにレイナが駆け寄っていく。クロスと一緒に魔術を唱えていた男性が、二人の様子を見て唱えていた魔術を止めてしまった
「ノア。止めてはいけないと言ったはずだ」
「ですが……お二人の力は力が足りません!このまま続けていては……」
「大丈夫。二人には、うたの力もある」
そう言うと、レイナの方を一瞬見た。クロスからの視線を感じてレイナが頷くと、アカリとヒナタの背中にそっと触れた
「二人とも、こっちに……」
「お母様……でも……」
入り口にいた二人を部屋の隅の方に行くように諭すが、部屋の不穏な雰囲気に押され動けずにいる二人。それでも手を繋いでレイナの所に恐る恐ると歩いていく
「いい?私と一緒に唄うの」
「歌う……ですか?」
レイナの元に着くなり、唄うように言われ戸惑うアカリ。
恐る恐るレイナに聞き返していると、ヒナタがアカリの手を取り、ぎゅっと強く握ってきた
「……アカリ」
「ヒナタ、大丈夫?」
話しかけても、不安そうな顔でうつ向いているヒナタ。二人の様子に気づいていても、クロスは魔術を止めることなく唱えている
「ほら、二人とも早く……」
レイナに言われて、戸惑いながらもポツリポツリと唄いはじめたアカリ。歌うのを躊躇っていたヒナタもアカリの唄声を聞いて、小さい声ながらも一緒に唄いはじめた
「素敵な唄だ。この魔術の力にもなるだろうな」
「ですが、本当に大丈夫なのですか?」
「大丈夫だ。今のところ問題はない」
そう言い、大きく深呼吸をすると再び魔術を唱えはじめたクロス。その様子に不安そうな表情ながらも、また魔術を唱えはじめたノア。同じく不安ながらも、レイナと共に唄い続けるアカリとヒナタ。緊張感が続く中、クロスとノアが行う魔術も終わりに近づいていく。そんな中、ヒナタが大切に抱きしめていた本が、突然ふわりと手元を離れて、ふわふわと浮かびだした
「本が……」
唄うのを止め、慌てて本を取ろうと手を伸ばすヒナタ。だが、本に手は届かず、クロスとノア二人の間に、ふわりと浮かぶ。本が来たことに気づいても、二人は魔術を唱えることを止めずに魔術は行い続けていく。すると、アカリとヒナタには何の魔術が行われているか分からないまま、魔術が終わり、それと同時に本がバタンと床に落ちた。とりあえず成功したことに、安堵感からかクロスとノアが、ふぅ。と一息ついた瞬間、アカリの叫び声が部屋に響き渡った
「ヒナタ!ヒナタ!」
その緊迫したアカリの叫び声に、全員がヒナタの方に振り向く。すると、アカリの側でぐったりと倒れたヒナタの姿があった。二人を見るなり慌ててヒナタ抱きしめるレイナ。家政婦達もヒナタが動かない姿を見て、ざわつきはじめる中、クロスはヒナタの本を取ると、じっと見つめ、ふぅ。と一つため息をついた
「これは大分よろしくないな……」
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