最終話 続く因業とアーサー

俺が名古屋に帰って来てから翌日、俺とアーサーと大島は電車に乗車していた。

乗っているのは名鉄線、目的地は中部国際空港、アーサーがアメリカへと帰る日がやってきたのだ。

「アーサー、ついに帰る日が来たんだな」

「うん、ついにアメリカへ戻る時が来たんだ。君と会えなくなるのは寂しいけど、君の戦いを見届けることができて良かったよ。」

「そうか、アメリカへ帰ったらまたスポーツジャーナリストの仕事をするのか?」

「うん、でもその前に僕の家に帰らないと。妻が寂しがっているからね。」

「奥さんの名前、何だっけ?」

「桜木咲さんだよ、今は咲・アーサーだけどね」

「アメリカに住んでいるの?」

大島がアーサーに訊ねた。

「うん、専業主婦として頑張っているよ。僕の最高の妻さ。そう言えば竜也君は、結婚の事とか考えないの?」

俺は結婚について特に関心はない、俺は格闘家として続けられるところまで続けたいと思っている。

「竜也君はまだ結婚とかはやっぱり考えていないよ、だって竜也君は人付き合い苦手なんだから。」

大島、それ以上余計なこと言うとぶん殴るぞ・・・。

しかし俺の怒りなど、大島の眼中には無く陽気に笑っていた。

そんな中、電車は走り続けて終点の中部国際空港へ到着した。

俺とアーサーと大島は電車から降りて、中部国際空港の第2ターミナルへ向かった。

アーサーは出国審査で手続きをしている間、俺はドラゴンに言った。

「なあ、どうして俺の人生には関わった人との因業がついてしまうのだろうか?」

『それはお前が一度、その人との関りを力で断ち切ろうとするからだ。それが因業を生む大きな元となる。だがな、それが私にとっては面白いのだ。人と人とのつながりは、どんな作り話よりも面白い。やはりお前に力を与えて良かった、こういう人生の劇を何度も見ることができるからなのだ。』

「面白いか・・・、俺はとくにそう思っていない」

『まあ、そう思っていてもいい。私がただ見て楽しむことだけだからな』

ドラゴンは気楽に鼻息を鳴らした。

そうこうしているうちにアーサーの手続きは終了し、本格的に別れの時が迫っていた。

「じゃあ、竜也君に大島さん。僕は行くよ」

「ああ、またね」

「じゃあね、アーサー君」

こうしてアーサーは出国審査場を抜けて去っていった。

アーサーを見届けた俺と大島は、そのまま列車に乗り込んで再び名鉄名古屋駅へ向かった。

「いやあ、それにしても面白い人だったな、アーサー君」

「まあ、あいつは俺の出会ってきた人の中で最も変わった奴だからな。」

「なあ、これは私の意見なんだけどね、今からでも人付き合いを始めたほうがいいよ。君は魅力的な人なんだから」

「ふん・・・、今更そうしたってろくなことにならないんだよ」

「いやあ、そうでもないと思うよ。僕はいろんな人と付き合って人脈を極めていったから、毎日が楽しい日々を送ることができるんだ。毎日世界観が変わるようで、毎日退屈しないですむよ」

大島は楽しそうに言ったが、俺はどのみちやるつもりはないので、大島の話をスルーする態度を決め込んだ。

そして電車は名鉄名古屋駅に到着して、俺は大島と別れて自分の家へと帰っていった。








七月の最終日、俺はジムへと向かって歩いてた。

俺が全世界格闘技フロンティア優勝者になったことで、多くの人がスマホで撮影しようとしたり、サインを求めて声をかけたりしてきた。

面倒なので俺は強く睨むことにしている、そうするとみんなネズミのように逃げ出していくのだ。

ジムに着くと、下田が俺に話しかけてきた。

「竜也、ちょっと話があるんだがいいか?」

「いいけど、なに?」

「竜也・・・、お前にその気があればの話なのだが、このジムの跡を継いでくれないか?」

「は?俺がこのジムを・・・」

俺は呆然とした、ジムはずっと下田が続けていつかは閉めるつもりだと思っていたぁらだ。

「竜也、君には実力がある。君にならこのジムを任せてもいいと思うんだ。」

俺は正直言って、自信が無かった。

人付き合いが極端に乏しい俺にコーチが務まる訳がない、出来ることなら実践の相手をするぐらいしか思い浮かばない。

「下田さん・・・、残念ですが俺にはこのジムのコーチなんてできません。」

「いや、君にならできるさ。ここの経理のことが心配なら問題は無い、馬瀬がしてくれることになったから。」

すると下田のところにメガネをかけた三十代後半の男がやってきた。

「下田さん、今月分の決算が終わりました」

「おお、丁度いいところに来た。紹介しよう、彼が馬瀬君だ。今から五年前にここを卒業してから、派遣で経理の仕事をしてたんだが、今年の二月から経理担当として働いているんだ。」

俺はジムにこんな人がいることを知らなかった、普段トレーニングと大会のことしか考えていないので、このジムの運営にはこれっぽちも関心が無かった。

「馬瀬有志です。城ヶ崎さん、この度は優勝おめでとうございます。」

馬瀬は謙虚に頭を下げた。

「ああ・・・、ありがとな。でもさあ、やっぱり俺なんかにコーチは務まらない。悪いけど、諦めてくれ。」

俺は下田と馬瀬を無視してトレーニングへと向かっていった。

いつものメニューをこなして、自分の格闘技術を磨き続ける毎日。

半分は孤独のようなものだけど、自分はそれに満足しているかけがえのない日常だから、これからも変わらず続けていく。

しかし俺がそう思っているところに、休憩のタイミングでドラゴンが話しかけてきた。

『竜也、なぜ下田の話を無視したのだ?今後のことにとっては、決して悪くはない話だと思うが・・・。』

お前に言われる義理は無い、ていうかドラゴンなのにこんなことを言うのかと、俺は呆れかえった。

「俺の人生は俺が決める、憑りついているお前が決めるものじゃない。」

『そうか・・・、まあお前がその気になればいいだけの話だ。』

ドラゴンはそれっきり何も言わなくなった、そしていつも通りの時間が過ぎていった・・・。










そして二日後、ジムが休みの俺は文殊と愛の家へ向かっていた。

昨日、電話で親父から『君に見せたいものがある、明日必ず来なさい』と言われた。

「親父の奴、必ず来なさいって言っていたわりには元気のいい声をしていたな。一体なんだ?」

俺が文殊と愛の家に着くと、相変わらず子どもたちが元気よく俺を出迎える。

「竜也、こっちに来るんだ」

親父に手招きされて、俺は親父の後に続いた。

そして理事長室に入った、そこではお袋がノートパソコンをいじっていた。

「竜也、お前に見せたいものがあるんだ。これを見なさい」

そう言ってお袋は俺にノートパソコンの画面を見せた。

『やあ、竜也君!元気にしているかい?』

そこにはアーサーの笑顔が映っていた。

「これリモートか?」

「ええ、うちのパソコンにもリモート通信機能を加えてみたのよ。これでいつでもアーサー君と、お話できるわ。」

お袋は嬉しそうに言った。

「もしかして、このためにわざわざ俺を呼んだのか?」

俺が尋ねると、親父とお袋は同時に頷いた。

『竜也さ~ん、はじめまして』

『紹介するよ、彼女が僕の妻・サキだ。よろしくね。』

アーサーは元気に紹介した。

「ふっ・・・、楽しそうなことだな。やはりあいつは変わった奴だな」

俺は密かに笑った。

俺とアーサーは因業の始まったあの頃に戻って、会話に夢中になった。

俺はこの時に限って、人付き合いの喜びを感じるのであった。



これで俺とアーサーの因業に、新たな記録がつけられた。これから、どんな記録がつけられていくのだろうか・・・。


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ドラゴンとアーサー 読天文之 @AMAGATA

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