第28話ドラゴンの帰還

イグニスに拉致されてアーサーのおかげで救出された俺は、合宿所で自分の荷物をまとめていた。明日、この合宿所とはお別れになるからだ。

『それにしても、帰るのが楽しみだな・・・。お前の周りの人たちは、どんな祝福をするのかな?』

ドラゴンはさっきから浮かれている、俺は別にそんなことはどうでもいい。

「まあ、おそらくまた盛大な歓迎を受けることになるのかな・・・?」

俺が色々思っていると、スマホが鳴った。

出ると、アーサーからだった。

「もしもし、竜也君?」

「ああ、アーサーか。どうしたんだ?」

「実は君の実家へ行こうと思ってね、君と一緒に行ってもいいかな?」

おいおい、突然すぎるだろ・・・。

「別にいいけど、どうしてその気になったんだ?」

「ちょっと、あの頃に戻りたくなってね。君の育ての両親にも、久しぶりに会いたいなって。」

そういえばアーサーはホームステイをしていた時、文殊と愛の家に遊びに来ていたことがあった。

「まあいいけどよ・・・、お前仕事は大丈夫なのか?」

「うん、もう全て終わっているから大丈夫だよ。明後日、日本を発つ予定だから。」

「そうか、それじゃあ七時五十一分の新幹線で行く。遅れるなよ」

「わかった、それじゃあまた東京駅で。」

ここで通信は切れた、そして俺は荷造りを再開した。












そして翌日の午前七時十五分、俺は合宿所を後にした。

日本格闘技協会が用意したバスで東京駅へ向かう。

ちなみに岩井は東京に家があるので東京駅で俺・松井・目白・獅童を見送ることになっている。

松井は栃木県、目白は長野県とそれぞれの実家へ帰省する予定だ。

そして俺と獅童は名古屋駅へと向かう予定だ。

東京駅に着くと、岩井は改めて俺たちに言った。

「お前たち、全世界格闘技フロンティアは大変だったな、お疲れ様だ。だがお前たちは全世界格闘技フロンティアで優勝したんだ。これからも自信を持って、精進していくように。それではさらばだ」

「岩井さん・・・、今までありがとうございました。」

俺たちは岩井に向けて頭を下げた、岩井はバスに乗って東京駅を後にした。

それから東京駅で松井と目白と別れて、俺と獅童はアーサーが来るのを待っていた。

「君とアーサーってよく会っていたから仲がいいと思っていたけど、小学生の頃に出会っていたとは思わなかったよ。」

獅童は思い違いをしている、俺とアーサーは腐れ縁で繋がっているに過ぎない。

そして午前七時四十一分、アーサーが慌ててやってきた。

「遅れてごめん、新幹線の時間大丈夫かな?」

「今から行けば大丈夫だ、行こうか」

俺とアーサーと獅童は新幹線の乗車券を購入して、のぞみに乗車した。

のぞみは定刻通りに発車し、名古屋まで一時間三十分の旅が始まった。

その間、売店で買ったおにぎりを食べながらスマホのネットニュースを見ていた。

今日のトップニュースは、昨日俺がイグニスに拉致されたことでイグニスが逮捕されたニュースだ。そこにはこんな文面がつづられていた。

『昨日、全世界格闘技フロンティアトーナメントの表彰式が終了した直後に、全世界格闘技フロンティアトーナメント優勝者であるタイラント城ケ崎こと城ヶ崎竜也選手が、何者かに拉致される事件が発生しました。その後城ヶ崎竜也選手は救助され、主犯のイグニス氏が国際警察により現行犯逮捕されました。イグニス氏は全世界格闘技フロンティアで行われた数々の不正行為に関与し、マッチ・クリエイターを通じてドーピングの薬品の販売を行っていたことも明らかになりました。開催当初からネット上で不正行為について炎上していた全世界格闘技フロンティア、その黒幕が逮捕されたことを受けてネット上では「クズ主催者、逮捕されて良かった」「お前は二度と、総合格闘技の世界に来るな」とイグニスに対する辛辣なコメントが多数きています。イグニス氏は今日、アメリカに送還され国際警察による取り調べを受ける予定です』

やはりイグニスは最低だなと改めて感じた。

「竜也君、昨日の記事を読んでいるの?」

アーサーが俺に言った。

俺が頷くとアーサーは言った。

「やはり彼が世界に見せていたのは試合じゃなくて、ただの不快なバトルだったんだね。だってスポーツとケンカ、してて楽しいのはスポーツの方だから。」

アーサーは静かに言った、俺はそれに同意した。

「なあ、獅童は名古屋駅に着いたらどうするんだ?」

「僕かい?僕は名古屋駅に着いたら、そこからあおなみ線に乗り換えて金城ふ頭まで行く。実家がそこにあるんだ」

「そうか、じゃあ名古屋駅でお別れだな」

「うん、君に会えて良かったよ。竜也」

「ふーん、竜也君ってやっぱり自分から友達を作るより、相手を友達にしてしまう方が得意みたいだね」

アーサーはクスクスとした笑顔で言った、俺はその顔を見なかったことにした。










午前九時三十一分、新幹線は名古屋駅に到着した。

そこで獅童と別れた俺とアーサーは、地下鉄で栄駅へ向かった。

栄駅に着くと、永久と桃枝をはじめ、大島一家など大勢の人が俺を出迎えてくれた。

「竜也、お帰りーーー!!」

「優勝おめでとう、よく頑張ったわ!!」

「竜也さん、おかえりなさい!!」

多くの拍手喝采を受けて、俺は改札口を抜けた。

「みんな、出迎えありがとな」

「おや?君は確か・・・?」

永久がアーサーを見たが、名前が思い出せないようだ。

「アーサーです」

「ああ!!思い出した。ホームステイに来ていた子だ。いやあ、大きくなったなあ。」

「本当に見違えたわねえ、イケメンになったわ」

永久と桃枝の視線は、全世界格闘技フロンティア優勝者である俺ではなく、久しぶりに出会ったアーサーに向けられた。

「永久さん、桃枝さん、お久しぶりです。今日は久しぶりに会いたくなってやってきました、急なおしかけですみません」

「そんなことないわ、パーティーの参加者は多い方がいいもの。あなたは竜也の優勝お祝いパーティーには参加するの?」

「はい、喜んで参加します」

「ねえねえ、竜也さんとお知り合いなんですか?」

「本物のアメリカ人・・・始めてみた。」

「日本へ何しにきたの?」

文殊と愛の家の子どもたちも、アーサーに興味深々だ。

『何だこれは?すっかり我の威厳が形なしではないか・・・』

ドラゴンが悲しそうに呟いた。

そして俺とアーサーは、文殊と愛の家へと向かっていった。





文殊と愛の家の食堂には、豪勢な食事が用意されていた。

俺は食堂に着くと、真っ先に席に座らされた。

「城ヶ崎竜也さん、優勝おめでとうございます!!」

子どもたちが一斉にクラッカーを鳴らした、俺は大きな声ではしゃぐ程ではないが、俺のためにしてくれたことに嬉しくなった。

「なぜなんだろう・・・、あいつらに何かされると嫌な気分にはならない・・・。」

それは俺にとって唯一の疑問だった。

それから俺は子どもたちから合唱を聞いた、親父によるとこの日のためにお袋が子どもたちに練習させたらしい。

曲名はゆずの「栄光の架橋」、練習の成果がはっきりと出ている素晴らしい曲だった。

「ここの子どもたちは竜也君の事が大好きなんだね、本当に君は大勢の人たちから愛されているんだね。」

アーサーがしみじみと言った。

「あの、あなたと竜也さんのことについて教えてください」

アーサーに声をかけたのは、大林撫子おおばやしなでこだった。

「もちろん、いいよ。」

「おい、撫子。あんまり野暮なことを質問するのはやめろ」

「別にいいじゃない、永久さんと桃枝さん以外の竜也と昔馴染みの人と話せるなんて滅多にないし。」

そう言って撫子はアーサーと話し出した、そこへ大島がやってきた。

「どうだい、盛大な歓迎は?」

「ああ、それなりに嬉しい。みんなには感謝している」

「それなりって、素直じゃないなあ。もっと喜んでよ」

大島が陽気に俺の背中を叩いた、俺は軽い気持ちになるのは苦手だ。

「やめろよ、大島。元々、俺はみんなで賑やかというのは嫌いなんだ。」

「それはそうと、私の武勇伝を聞きたくないか?」

「大島の武勇伝?一体なんだよ?」

「実は私は誘拐された君を見かけたんだ、そしてアーサーたちと仲間達に連絡して、君を乗せた車の後をつけたんだ。それで君はイグニスの魔の手から逃れられたという訳。」

「なるほど、つまり俺は大島に助けられたということか・・・。」

「ああ、国際警察からお礼を言われたよ。警視庁からは『さすが愛知県警の認める財閥だな・・・』って言われたよ。」

大島は得意げに言ったが、警視庁は大島さんに呆れたんだと俺は思う。

「そうか、ありがとな。」

「どういたしまして。いやあ、それにしても君は本当に凄いなあ。本当に世界に名をとどろかせることができたんだから。」

「それは偶然だと思う、俺以上の力を持った選手は他にもたくさんいた。もし俺にドラゴンの力がなければ、俺は世界一になることはできなかった。世界一になれたのは、完全に俺の実力では無いんだ・・・。」

俺が暗い声で言うと、大島は熱い口調で言った。

「そんなこと無いよ!!君は真面目な努力家だということは、みんな知っているんだ。それにこれは私なりの言葉だけど、君がドラゴンの力を授かったのは運命なんじゃないかって思うんだ。現に君はドラゴンの力で命が助かったから、今ここに存在しているわけでしょ?だから君にはドラゴンの力という一つの実力があると思えばいいよ。」

大島の言葉に俺は自信を持った。ていうか大島に励まされるなんて、俺は一体何を考えていたんだ?

「あ、大島さーん」

そこへシルクハットを被った一人の少年がやってきた、髪が金髪で背丈からして小六か中学生だろうか

「あ、君に紹介するね。この子は天星イーサン、僕の仲間なんだ」

「初めまして、イーサンです。あなたが、竜也さんですか?会えて光栄です」

イーサンはジェントルマンのように礼儀正しくおじぎをした。

「イーサンはイギリスと日本のハーフで、彼のお父さんはジェームスという世界的に有名なマジシャンなんだ。イーサンは父さんの影響で、マジックを始めたんだよ。」

大島が言うと、イーサンは被っていたシルクハットに一枚のトランプを入れた。そして何やらシルクハットを動かすと、俺にシルクハットを差し出して言った。

「この中に手を入れて、トランプを探してみて」

俺はシルクハットの中に手を突っ込んだ、ところがトランプはそこにはなかった。

「あれ?おかしいなあ・・・」

何度も手探りしたが、トランプはない。するとイーサンはポケットから、トランプを取り出した。

「ふふふ、凄いでしょ?僕のマジック」

イーサンは少年の笑みを浮かべて言った。

「ああ・・・、お前やるじゃないか」

「ありがとう、それじゃあね」

そう言ってイーサンは去って行った。

『ほう・・・、あの少年なかなかやるじゃないか。いずれあの少年と、対峙する予感がするるな』

ドラゴンが言った、また新たな因業が始まるというのか?

するとアーサーが再び俺に話しかけてきた。

「大林さんから君のこと、いっぱい教えてもらったよ。やっぱり君は特別な人だ、友達になれて良かったよ」

「そうか、俺の友達になれて良かったか。」

「うん。これからもよろしく、竜也」

アーサーはそう言って、俺に親しみの眼差しを向けた。

俺はあの時の因縁に心から良かったと感じた。





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