第27話イグニスの最期

全世界格闘技フロンティアトーナメントで優勝した俺は、試合後すぐに記者会見を受けた。

俺にカメラを向けて群がる記者たちの中に、アーサーの姿があった。

『城ヶ崎竜也選手、全世界格闘技フロンティアトーナメント優勝おめでとうございます!優勝したことについて、一言あれば話して下さい』

マイクを向けられた俺は答えた。

「あー・・・、俺は最初全世界の対戦相手と戦えることに大きな関心がありました。だから『優勝したい』とは全く思っていませんでした。ですが自身の努力による実力と幸運により、優勝することができました。今はその嬉しさを強く感じています。」

「ありがとうございました。話は変わって城ヶ崎竜也選手は孤児だということを聞きましたが、全国の孤児たちに向けて言いたいことがあれば、言ってください。」

「えっと・・・、俺には両親はいませんでした。しかしそれでも生きていけたのは、格闘技を知ったからです。格闘技を学んで極めていくことで、俺は生きる意味を手に入れました。ですので、みなさんも学んで極めたくなるようなものを見つけてください。時間はいくらかかってもいいです!」

俺はセリフの最期の口調が熱くなっていた。

「竜也選手、力強い言葉をありがとうございました!!」

こうして俺への取材が終わった、記者たちの群れが引き上げて行く中、アーサーだけは俺の目の前に残り続けた。

「竜也君、改めて優勝おめでとう!僕はとても嬉しいよ。」

「ありがとな。そういえば、途中で警察が割り込んできたの気づいたか?」

「うん、実はね警察にガウェインのことタレコミしたの僕なんだ。」

おい、何だそれ?試合中にいきなり来るから、試合が中止になるかと思ったんだぞ。

「まさか、お前が・・・。本当にこういうの、やめてくれよな。」

「ごめんなさい。だけどガウェインにこれ以上、マッチ・クリエイターに入ってほしくなかったんだ。彼にはずっと真っ当な格闘家でいてほしいから・・・。」

アーサーの言う通りだった、このままマッチ・クリエイターにいてはガウェインがどんな悪事を繰り返すかわからない。

「それであの後、ガウェインはどうなったんだ?」

「あれから病院へ搬送されたようだけど、かなり重篤らしい。試合中にガウェインと君から人とは思えないほどの力が溢れ出ていたんだ。」あれって、ドラゴンとジークフリートの力によるものだよね?」

「ああ、ガウェインは本物の勇者だった。俺に何度倒されても、立ち上がってきた。あいつは芯のある格闘家だ・・・、ただ最後は力に憑りつかれたモンスターとなっていたけどな。」

「うん、あのガウェインは完全に人じゃなくなっていたと思った・・・。一体、ガウェインに何があったんだろう・・・?」

「あいつはジークフリートを完全に取り込んだんだ、そして信じられないくらいの力を手に入れた。だけど大きすぎる力をコントロールすることができずに、格闘技術が素人レベルにまで落ちた。だからガウェインを倒すことができたんだ。」

「そうか・・・、彼はそこまで勝利に執着していたんだね・・・。」

アーサーは暗い表情になった、疎遠になったとはいえアーサーは友達思いの優しいやつなのだ。

俺はその後、アーサーと別れて合宿所へと戻って行った。










翌日、合宿所の食堂に大勢の人々が集合した。

今日の翌日は合宿所生活最終日である、この日はトレーニングを止めて、俺の優勝を祝う祝賀会が開かれた。

「今日は、俺たち日本代表の優勝を祝う日だ!思う存分楽しんでくれ!!」

「それじゃあ、優勝を祝って・・・乾杯!!」

乾杯の音頭をとったのは、大島だった。

今回の祝賀会の準備も、大島が全ての用意をしてくれた。

全くお助けマン精神あふれる奴だ。

「竜也さん、優勝おめでとう!!」

「まさか、あの時の一匹オオカミが日本代表を優勝へ導くとは思わなかったなあ・・・。才能がある奴って変わり者がいるんだよな。」

目白はしきりに頷いた。

「そうそう、出会った時の竜也は本当に素っ気なかったよな。」

松井と目白は当時を語り合っていた。

「そういえば、俺たちトーナメントではちっとも活躍できなかったけど、なんか残念な気分にはならなかったよな」

「そういえばそうだ、悔しかったけどなんか心が腐らなかったよな。」

「そりゃ、竜也の戦いが良かったからさ。相手がどんな選手でも、最後には必ず勝利するからね。」

大島が仲間の自慢をするかのように言った、だから俺はあんたの仲間にはなっていない。

「はぁ・・・、みんな俺の活躍で盛り上がりやがって・・・。そういえば、アーサーの奴、遅いなあ。」

アーサーは祝賀会には参加するという連絡を受け取っていたが、仕事の都合で遅れてくるという連絡を聞いていた。

そう思っていた時、アーサーが合宿所にやってきた。

「遅れてごめんね、やっと仕事が終わったんだ。」

「そうか、それでどんな用事だったんだ?」

俺はなんとなく尋ねてみた、どうせ「取材してた」などの返答が来るかと思っていたが、こんな答えが帰って来た。

「実は、ガウェインが亡くなったんだ・・・。」

「え・・・、もしかしてあの試合の後か・・・?」

俺が尋ねると、アーサーは頷いた。

アーサーによるとガウェインは俺に倒された後、一時は意識を取り戻した。しかしジークフリートの力を使った代償で、ガウェインの命はすでに風前の灯火と言えるほど重篤な状態だったので病院へ運ばれた。そして病院に運ばれてから二時間後、ガウェインは急死したらしい。

「そうか・・・、あいつとはこれからも戦いたかったな・・・。」

俺はガウェインの事を思い浮かべた、敵側だったが俺が出会った強敵に相応しい一人だった。

「それで、マッチ・クリエイターについては何かわかったのか?」

「うん、どうやらイグニスには全世界格闘技フロンティアを開催した本当の理由があるんだ。」

「本当の理由だと・・・?」

「うん、イグニスは最強の人類を生み出そうとしているんだ。最強の人類を生み出す技術をアメリカ軍に売り渡して、アメリカ軍の強化を企てているんだ。」

最強の人類・・・、それは一体どんなものなのか俺にはわからない。

「さらにイグニスについて調べてわかったことだけど、実はイグニスはアメリカ軍の研究所に所属していたことがわかったんだ、彼は人間の肉体強化について研究していた。だけど実用的な研究成果を上げられなかったことを理由に研究所を追い出されたんだ。だけどイグニスは研究を諦めずに、スポーツ業界に進出して成果をあげて自分の研究の成果を世界にしらしめようと画策したんだ。まあ、イグニスは元々戦闘シーンが大好きという癖な一面があるから、それも理由の一つになっているんだけどね。とにかくイグニスはこのまま野放しにはできない。」

アーサーは強い決意の顔で言った。

「それで明日、イグニスを逮捕しようと本格的に動くことになったんだ。明日君はイグニスから、優勝の賞状と勝利の聖杯を受け取ることになっている。そこでイグニスを捕まえることになっているんだ。その打合せもかねて用事があったんだ。」

アーサーの言う通り、明日には日本武道館で全世界格闘技フロンティアトーナメント優勝の表彰式が行われることになっている。昨日、決勝戦に来ていたイグニスだったが、アーサーのタレコミによってかけつけた警察に気がついて、密かに逃走していたようだった。

「わかった、それでイグニスは逮捕されるんだな?」

「うん、これで僕の任務が完了する。今までの調査の証拠はすでに本部に送ってあるから、イグニスの逮捕は時間の問題だ。調査の協力をしてくれた大島さんには、本当に感謝している。どうもありがとう」

アーサーは大島に頭を下げた、大島も頭を下げた。

「どうという事は無いよ、私はただみんなの役に立つことがしたかっただけだよ。」

「そうだね、大島さんはそういう人だもんね。」

「とにかくそういうことだ、今は祝賀会を楽しもう。」

「うん、そうだね。」

そして俺とアーサーはそれから祝賀会を、心行くまで楽しんだ。











祝賀会が終わり、午後九時を回った頃。この合宿所でする最後の入浴を終えて部屋に戻ってきたとき、電話がかかってきた。

「もしもし、竜也か?」

電話の声は親父だった。

「ああ、親父か。こんな時間にどうしたんだ?」

「おいおい、そんなこと言うなよ。お前の優勝を祝いに来たんだよ」

「ああ、そうか。一応ありがとな」

「ああ、そっちは大島さんに盛大に祝ってもらったようだな。私も祝賀会に参加したかったよ。」

「もうそんなに祝ってもらわなくてもいいよ、この大会での優勝も俺の記憶の一部に過ぎないから」

「まあ、お前は名誉よりも戦う事に興味が向く奴だからな。それでいつ頃、こっちに帰ってくるんだ?」

「一応、明日には帰ってくる予定だ。」

「わかった、妻とみんなで迎えに行くよ。それじゃあまた明日な」

「おう、またな」

そして電話は切れた。

『今の電話、親父からか?』

ドラゴンが俺に言った。

「ああ、明日迎えに行くらしい。」

『そうか、向こうではどんな祝福を受けるのかな?』

ドラゴンはおそらく向こうでも祝賀会を受けることになると思い込んでいるだろう、まあおそらく親父とお袋ならやる可能性は高いだろう。

俺は明日の表彰式に向けて寝ることにした。







翌日、俺は岩井の車で日本武道館へやってきた。

そこでは俺の姿を見に来た野次馬とスポーツ新聞の記者たちが、俺を撮影するために集まってきた。

俺は群衆の群れを突き抜けるように進み、会場へと入っていった。

そして表彰式が行われた、メダルと勝利の聖杯を渡すのはイグニスだった。

「全世界格闘技フロンティアトーナメント優勝者・日本代表・城ヶ崎竜也」

言われた俺はイグニスの前に歩いていった。

そしてイグニスから、賞状と勝利の聖杯を渡された。

「さあ、勝利の聖杯の中身を飲みたまえ」

それからイグニスはこう言った。

「君は表彰式が終わったら、武道館の裏まで来るんだ」

イグニスは俺の耳に小声で囁いた。

俺はイグニスが何かしかけてくると思った。

俺はイグニスからの指示通り、勝利の聖杯に入っている液体を飲んだ。

液体を飲み終えたが俺の体に特に異変はなかった。

「今のところは特に問題はないな・・・。」

その後、他の国の表彰式が進んで行き表彰式が終了した。

すると俺は突然強い尿意に襲われた、俺はトイレに直行した。

そして洋式トイレに座り用をを足していると、何者かがトイレに入ってきて、俺の口にハンカチを当てた。

「くそ・・・こういうこと・・・」

俺はあっさりと捕獲されてしまった。













「目が覚めましたか、ドラゴンキング」

うっすらとする意識に聞き覚えのある声が響く・・・、俺の目の前にいたのはイグニスだった。

「イグニス・・・お前か!!」

俺はイグニスをぶん殴ろうと動き出したが、俺の体は動かなかった。

その原因は俺の腕に手錠がつけられていて、手錠は重りに繋がれていた。

「無駄な抵抗はやめたまえ、お前はここから逃げ出すことはできない」

「・・・お前、最初から俺を捕まえるつもりだったんだな?」

「ああ、だからあの聖杯には利尿作用の強い薬を混ぜた水を入れたんだ。」

つまり始めから俺をトイレに行かせることが目的なのだ、トイレのエリアなら狭くて暴れにくいから、誰かを拉致するには最高の環境だ。

「イグニス・・・、どうして俺を拉致した?以前『お前には失望した』って言っていたのに、今更なぜ俺を拉致する必要がある?」

「ああ、確かに以前はそう言った。だけど、気が変わったのだ。お前は全世界格闘技フロンティアで優勝してみせた、それだけの立派な才能と実力があったのだ。そこに気づけずに、関心を持たなかった私が愚かだったよ。お前には私の研究に強制的に協力してもらう、後はマッチ・クリエイターのリーダーの役も与えよう。要はガウェインの代わりだ。」

要は決勝戦での死闘のせいで、ガウェインが亡くなったからその上位互換である俺を手駒にしようということだ。

「そういうことか、だが俺はあんたの手駒なんかにはならない」

「フフフ、お前の強い意志など真の『勝利の聖杯』には敵わない。」

そう言うとガウェインは、赤い色の液体が入った瓶を持ってきた。

「この瓶の中に入っている薬が、本当の『勝利の聖杯』なのだ。この薬は肉体の絶大な強化がある素晴らしい薬だ。ただ、副作用で自我を失ってしまうデメリットもあるが、反抗心が強い君を従えるにはむしろメリットだ。」

これがアーサーから聞いていた勝利の聖杯という薬品ということか・・・。

あんなもの飲んでたまるか!!

俺はドラゴンの力を高めようとしたが、上手く力が入らない。

『竜也、しっかりしろ!!力が入ってないぞ!!』

「わかっている!!くそっ、なぜなんだ・・・?」

「フフフ、その手錠には関節の働きを妨害する仕組みになっていてね、君がドラゴンの力を高めるために全身に力を入れていることは把握済みだ。」

くそっ・・・、俺はここまでなのか?

ドラゴンの力が使えなければ、この手錠を破ることは不可能である。

ここまで用意周到にやられたのは初めてだ、俺はうかつだった。

「さあ、私への忠誠の証としてこの『勝利の聖杯』を飲むがいい。」

「そこまでだ、イグニス!!」

そこへアーサーと三人の男がやってきた。

「お前らは何者だ!!」

「僕は全世界スポーツ連盟のアーサーだ、イグニス、お前はスポーツをこの手で汚し過ぎた。ここでこれまでの悪行の報いを受けるがいい。」

「イグニス、我々は国際警察の者だ。逮捕状が出ている、さあついてきてもらおう」

「何だと・・・、どうしてここがわかったんだ!?」

「僕の味方になってくれた協力者のおかげだよ、その協力者のおかげで事前に竜也君を拉致する計画を知ることができた。まあ、あんたの仲間にこの計画のことを吐かせたけどね。」

おそらく協力者は大島で間違いないだろう。

「クソッ、このタイミングで・・・。私は捕まらんぞ!!」

イグニスは逃走を図ったが、国際警察の三人にあっけなく捕らえられた。

そしてイグニスに手錠がかけられた、イグニスは悔しさが顔からにじみ出ている表情になった。

俺はその後、手錠から解放されて自由になった。

「助けられたな・・・、ありがとう、アーサー」

「良かったよ、君が無事で。君にはドラゴンキングとしてこれからも活躍してほしいからね、君は僕の希望だよ」

アーサーの期待に、俺は嬉しくなった。

そしてアーサーに連れられて、俺は岩井たちのところへ戻る事ができた。














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