第24話決戦前の因業

翌日、俺は食堂のテレビでやっている朝の報道番組で、俺が出場していた日本VSノルウェーの試合を見ていた。

報道番組では昨日の試合について『城ヶ崎竜也選手の決勝戦進出に、日本人は大いに盛り上がっています。反則行為の横行が酷いこの大会での唯一の救いとなっている、このまま竜也選手が優勝することを、格闘ファンを始め多くの人々が大いに期待している』という内容で報じていた。

『竜也、とうとうここまで来たな。振り返れば、色々あったな・・・。』

ドラゴンがしみじみと言った。

始めに全世界格闘技フロンティアの出場権を与えられたあの時、俺は世界の色んな格闘選手と戦えると心の中で淡い喜びを感じていた。

そしてアーサーと再会し、色んな反則行為を喰らい、そして全世界格闘技フロンティアの闇の全貌を知った。それでも俺はこの大会に出場し、闇の根源となるイグニス・アーサーの旧友のガウェインと出会い、そしてドラゴンの力を更に昇華させることが出来た。

俺は全世界格闘技フロンティアで多くの事を経験した、そう思えばそれほど悪い大会じゃなかった気がした。

そして報道番組では『今日、城ヶ崎竜也と決勝戦で戦う相手を決める、アメリカVSオランダの試合が行われる』と報じていた。

「そういえば、ガウェインが出場していると言っていたな・・・。」

今日の準決勝第二試合に出場しているのだろうか・・・?

俺がそう思っていると、獅童から「アーサーが来ているから、来てほしい」と連絡を受けた。

俺が食堂を出て休憩部屋へ行くと、アーサーと岩井が談笑していた。

「あ、竜也君。今日一日、僕に付き合ってくれる?」

「は?お前、俺とファミレスにでも行きたいのか?」

「そんなふざけたことじゃないよ!!」

アーサーはむきになって否定した。

「じゃあ、何だ?」

「今日行われるアメリカVSオランダの試合を、一緒に見に行ってほしいというものだ。」

アーサーの代わりに、岩井が答えた。

「俺がですか・・・」

「敵情視察に丁度いいだろ?今日はトレーニングを休んで、アーサー君と一緒に試合を見に行くんだ」

これは岩井からの命令だ・・・。

「いや、俺はいつも通りにトレーニングをしています」

「いいの?アメリカ側の選手は、ガウェインだよ」

このアーサーの一言で、俺の気が変わった。

かつて俺に宿るドラゴンを瀕死のところまで追い詰めたジークフリートを宿すガウェイン、あいつがどんな風に戦うのか興味が湧いたのだ。

「それなら、付き合ってもいい。だけど俺が立ち入ることなんてできるのか?」

「大丈夫だよ、僕の顔パスがあるし、それにもし竜也君がアメリカVSオランダの試合を観戦していたとなれば、大きな話題になるよ」

アーサーの奴め・・・、さてはそれが狙いだな。

俺はそう思って、アーサーの顔を呆れながら見つめた。

そして俺はアーサーと岩井に強引に促され、アーサーの運転する車に乗って、日本武道館へと向かった。








日本武道館に着くと俺は、アーサーから一応マスクを手渡されたので装着した。

そして武道館の入り口から入っていった、すると周りからざわめく声が聞こえてきた。

『ねえ、あれって城ヶ崎竜也じゃないか・・・?』

『間違いないよ、アーサーと一緒にいるということは知り合いということか?』

『あいつ一匹狼だと思っていたけど、知り合いがいたとは思わなかった』

大会のスタッフや他の記者から注目の的になっていた、しかし俺とアーサーはどこ吹く風と気にすることなく、記者専用の特別席に座った。

「試合が始まる前に、僕からガウェインについて少し説明するね。ガウェインは全世界格闘技フロンティアが始まる前から、『アメリカの無双聖騎士』という異名で呼ばれ、個人成績は君と同じで無敗。決勝戦は巨竜と聖騎士が戦うだろうと予想する人が多くいるんだ。彼の拳は『聖なる拳』と言われ、たった三発殴っただけで相手を倒した試合もあったんだよ。」

俺はガウェインに対してがぜん興味が湧いた。

俺と初めて対面した時に警察官のアゴを破壊した、あの拳の強さが試合でどう発揮されるのかが気になった。

そして試合開始のアナウンスが入り、ガウェインとその対戦相手が入場した。

『赤コーナ、アメリカの無双聖騎士・ビリー・ガウェイン!!』

『青コーナ、オランダのドラキュラ・マタード・ファウスト!!』

相手のマタード選手について、アーサーが教えてくれた。

「マタードは元悪役レスラーで、その後格闘選手になってからは「リングのドラキュラ」と言われているんだ。彼はドラキュラのメイクをしているけど、あれは彼のパフォーマンスなんだ」

試合前にメイクなんて、俺は必要ないと思うけどね・・・。

そしてゴングが鳴り試合が始まった、マタードの先制ストレートをガウェインはかわした。

その後ガウェインは、マタードの顔面を三回殴った。

すると殴られたマタードのメイクはすっかり取れて、顔面が変形していた。

マタードは身体を震わせると、そのままうつ伏せに倒れた。

レフェリーのカウントが終わり、ゴングが鳴った。

『勝者・ガウェイン選手!!やはり決勝戦のカードは竜也選手とガウェイン選手に決まりました!!ドラゴンキングと無双聖騎士、ファンタジーで因縁すら感じる戦いとなる予感がします!!この全世界格闘技フロンティアトーナメント、その決勝戦が一日千秋の気持ちです。みなさん、決勝戦を絶対見逃すな!!』

記者たちのカメラのシャッターが連打され、フラッシュがギラギラと輝いている。

そして記者たちはガウェインに取材会見へと、先を争うように駆け出した。

俺もアーサーの後を追って、ガウェインの記者会見へと向かった。

ガウェインの前には大勢の記者が集まり、ガウェインの姿がよく見えなかった。

『ガウェイン選手、決勝進出おめでとうございます。決勝戦では城ヶ崎竜也選手との試合になりましたが、意気込みはありますか?』

するとガウェインは得意顔でこう言った。

「相手はこの日本を代表する選手だということはすでに知っています、しかし俺は負けません。相手が人だろうがドラゴンだろうが、俺は倒してみせます。そしてこの大会で優勝を果たし、みんなが思い描く英雄に俺は昇華します。」

ガウェインの堂々とした発言に、記者たちは拍手の代わりにシャッター音を鳴らした。

「おい、竜也じゃないか!!」

ガウェインが俺に気づいて言った、記者たちの視線が一度に俺に向けられた。

「あ、城ヶ崎竜也選手だ!!」

「どうやって入ってきたんだ・・・?」

「どうしてここに来たんだ?」

記者たちはガウェインから、俺のところへと群がってきた。

「竜也選手、失礼ですがどうやってここへやって来たのですか?」

質問されたので俺は答えた。

「俺の知り合いにアーサーっていう記者がいて、彼から試合を見に来ないかと誘われたからここに来た。」

「なるほど、それで今回の試合はどうでしたか?」

この質問にガウェインは反応し、俺の顔を見つめた。

「まあ・・・、ガウェインはとても強かった。俺でもプロ選手をたった三回殴っただけで倒すのは難しい。それができるガウェインは、俺が見る限り俺の強敵になることは確定しています。ですが俺は負けません、絶対に決勝戦で優勝します」

俺は最後の「優勝します」のところを決意を込めて言った。

するとガウェインは、俺に向かって大声で言った。

「優勝は俺のものだ、俺は勝利の聖杯とドラゴンの首をアメリカのみなさんに見せてやろう!!」

ドラゴンの首とは「俺の敗北」を比喩表現しているのだろう。

俺とガウェインは、ドラゴンと聖騎士のように因縁あふれる目つきで睨みつけた。

その光景に多くの人々が俺とガウェインに見入った。

「今日はお前の勝利を称えよう、だが決勝戦で勝つのは俺だからな。」

「それはこっちのセリフだ」

こうして俺はガウェインの前から立ち去った、俺の後をアーサーが追いかけていった。











日本武道館を出た俺とアーサーは、車で合宿所へと戻っていった。

「竜也君、ガウェインを改めて見てどう思った?」

「やっぱりジークフリートを宿す者は強い・・・、俺は奴に負けると強く感じている。それでも俺は負けない。」

「そうだよね、君は最初から勝敗とか考えないもんね」

アーサーは運転しながら言った。

「決勝戦はもちろん見に行くよ、君とアーサーのどっちが勝っても僕は嬉しい。」

「そうか・・・、お前らしいや」

俺とアーサーは合宿所についた、すると合宿所には大勢の人だかりができていた。

「何だ、ありゃ?」

「おお、竜也君!やっと帰って来た!!」

するとそこには大島の姿があった、大島の声に大勢の人が俺の方を向いた。

「あ!!城ヶ崎竜也選手だ!!」

「すげえ、ガチもんのドラゴンキングだ!!」

「でけえ・・・、まさにタイラントって感じだぜ!!」

大勢の人が俺を輝く目で見つめてくる、俺はこの大勢の人の正体を察した。

「大島・・・、こいつら格闘ファンだな?」

「うん、もう早く竜也に会わせろとうるさくて、なだめるのが大変だったよ」

大島によると、この格闘ファンたちは大島に協力する代わりに、本物のタイラント城ケ崎に会わせてくれとお願いしたらしい。

「あの、一緒に写真を撮ってもいいですか?」

「わかった。だけどここじゃ迷惑がかかる、場所を変えよう。」

ということで近くの広場に移動して、俺は格闘ファン一人一人と撮影した。

格闘ファンたちは満足すると、大島と一緒に去って行った。

再び合宿所に戻った俺は食堂に入り、すぐに昼食にありついた。

「今日はとても疲れたな・・・。」

「お帰り、竜也。ガウェインはどうだった?」

岩井が向かいの席に座りながら言った。

「やっぱり強いです、油断していると直ぐにやられてしまいます・・・」

「そうか、お前もそう感じたか。私もガウェインの試合を見たんだが、あの拳のパワーはかなりのものだ。あいつには竜也と同様に、天性の才能がある。」

岩井はそう言うが、ガウェインの力の七割か八割はジークフリートの力である。

あいつのパワーは強力だが、あいつがジークフリートの力を上手く引き出せているかと言われると、そうとは思えない気がする。

「そうですか・・・、それで岩井さんは俺が勝つと思いますか?」

俺は気になって岩井に質問した。

「うーん・・・、それははっきりとは答えられない。」

岩井は腕を組みながら言った、そしてこう続けた。

「だが、お前が負けるもんかと思えば、お前が勝つ確率は上がる。勝負の世界では、大きく力を発揮できる者が強いのだ。」

「わかりました・・・」

俺は食べ終えた食器を洗い場に置いてに行って、食堂を後にしようとした時、岩井から声をかけられた。

「竜也・・・、どんな試合でも絶対に引いてはいけない。KOするまで諦めずに挑んでいくんだ!!」

「・・・最初から分かっていますよ、岩井さん」

岩井は応援の眼差しを向けた、俺はそれを背に受けてトレーニングへと向かって行った。




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