第23話漠然とした闘気

ガウェインが去った後、俺とアーサーは大島たちと合流した。

「アーサー君、気分は大丈夫かい?」

大島は泣き続けるアーサーに寄り添い、右手で背中をさすった。

「うん・・・、ありがとう」

アーサーはポケットからハンカチを取り出すと、涙を拭いた。

「それでガウェインからは何か聞き出せた?」

「・・・イグニスはガウェインに英雄の力を与えたと言っていた。それがガウェインの持つジークフリートの力だということに間違いない。」

「なるほど、イグニスはガウェインに力を与えて、自分の手先として利用しているということか。」

大島が言った。

「まあ、どのみちイグニスがあくどい野郎だということに変わりはない。とにかくやっつけなければならない敵だということは、これでよくわかった。」

俺は決意した、俺が戦い続けた悪い奴らの中でも、イグニスほど狡猾で陰険な悪党はいない。

とにかく排除しなければならない・・・、俺はイグニスに対する敵意の高まりを感じていた。

「それで、どうやってイグニスをやっつける?」

「私はより多くの味方をつけようと思う、こちらは格闘ファンの人々に声をかけて、イグニスの摘発に協力してもらおう。こちらにはイグニスの不正の証拠が幾つかあるから。」

「わかった、だがイグニスはそのことに気が付いて手を打ってくる。油断は禁物だ」

俺は大島に釘を刺した。

「わかった、じゃあ私はこれで失礼するよ。」

大島は去って行った、俺はアーサーと一緒に小石川後楽園を後にした。












翌日、全世界格闘技フロンティアのトーナメント一回戦の試合が全て終了した。

第二試合へと勝ち上がったのは、日本・アメリカ・オランダ・ノルウェーの四か国。

この試合でどの国が決勝戦へ進出できるのか、注目度が高い試合だ。

「これからトーナメントの第二試合に入る、日本と戦うのはノルウェーに決定した。ノルウェーの代表選手はリンデヒボル、通称・瞬殺のフィストと呼ばれるほどパンチが協力な選手だ。竜也、ここまで勝ち上がってきたからこそ全力で行け。この試合には、決勝戦がかかっているからな。」

岩井は真剣な口調で言った。

俺は相変わらずの調子でトレーニングを始めた。

『竜也・・・、これからの戦いに向けてさらに強くならなきゃならない。だからもっと我が力をコントロールできるようにならないとな・・・。』

ドラゴンの一言に俺は頷いた、スタンピング・タイラントだけではドラゴンの力を引き出せきれていないと思っていた。

「そうだな・・・、ガウェインにはスタンピング・タイラントでも通用しないかもしれない。もっと強力な技とか・・・、そういうのが必要な気がするんだ。」

『竜也、それならお主の思うがままに技を思いつくがいい。』

ドラゴンの声に背中を押されて、俺は俺の必殺技を習得するトレーニングを始めた。

そのため俺は、このトレーニングからドラゴンの力を使用して、ドラゴンの力に慣れるための訓練を始めた。

トレーニングのフルタイムでドラゴンの力を使うのはとてもしんどかった、だがこれくらいの疲労で弱音を吐くわけにはいかない。

「今のトレーニングで、何もつかめなかった・・・。だが続けていれば、何か必殺技のヒントがわかる」

俺は決意と信念を精神に混ぜ込んで、試合へ挑む気持ちを固めた。







そして翌日、全世界格闘技フロンティアトーナメント戦の第二試合が始まった。

日本の対戦相手はノルウェー、ここで日本が決勝戦に進出かノルウェーが勝利して大番狂わせを見せるのか、ネットの向こうではかたずをのんで大勢の人々がみまもっていることだろう。

『赤コーナ、愛知の巨竜・タイラント城ケ崎!!』

『青コーナ、神速の鉄拳・リンデヒボル!!』

リンデヒボルは俺と同じくらいの背丈で、容姿もカッコいいことからネットでは一部注目を集めている選手だ。

俺とリンデヒボルは戦闘体勢をとった。

『レディー・・・、ファイト!!』

ゴングが鳴った直後、俺はリンデヒボルから先制ジャブを喰らった。

その後もリンデヒボルは素早い連続パンチで、俺を追い込んでいく。

『さあ、リンデヒボルの怒涛の早打ちだ!!これには竜也選手も攻撃する隙がありません、さあこのままリンデヒボル選手の一方的な攻撃が続いてしまうのか!!』

俺はフットワークで拳の弾幕を切り抜けようとするが、リンデヒボルも俺への標準を逃さずに拳を早打ちする。

『さあ、竜也選手。未だに攻撃に転じれていません!!このまま竜也選手がリンデヒボル選手に一方的に殴られまくる展開が続いてしまうのか!!このままでは、竜也選手が敗北してしまいます!!竜也選手、無敗伝説を守り抜くことができるのか!!リンデヒボル選手、勝利して大金星を飾れるのか!!今日の試合はどんな結果になっても、ベストバトルになる事でしょう!!』

実況から派手な叫び声が聞こえてくる、しかし試合に集中している俺は誰のどんな叫び声も聞こえない。

「このままでは・・・、負ける」

何とか攻撃の起点を出さないと、俺は何もできずにやられてしまう。

「行くしかない!!」

俺は覚悟を決めてリンデヒボルの下に拳を素早く入れて上に突き上げた、リンデヒボルのアゴに拳は決まった。

「あーっと、竜也選手!!逆襲のアッパーカットだ!!これは痛いぞ、さあここからどうなるんだ?」

リンデヒボルはグランドに倒れた、俺はすぐにアームロックをした。

このままリンデヒボルの腕を抑え込むことができれば、まだ勝機はある。

だがここでレフェリーからブレイクタイムの合図が出た、ここで決めれなかったのは残念だ。次で確実に仕留めてやる

「竜也、とにかく奴の拳に気を付けていけよ!逆転の可能性はまだお前の手の中にある。」

岩井が俺の肩を持ちながら言った。

一方のリンデヒボルはブレイクタイム中に何かを飲んでいた。

俺はただの水分補給かと思い、特に気にすることはなかった。

だがこの時に何かに気づけば良かったと、俺は後で思い知ることになった。

ブレイクタイムが終わりゴングの音で試合が再開する。

俺はドラゴンの力を発揮して、一気に試合を終わらせるつもりでいた。

だがまたもやリンデヒボルの、怒涛のパンチ攻撃が始まった。

俺はそれに怯まずに上半身をフルに動かしてパンチをかわしていく。

そしてリンデヒボルの左わき腹にストレートをぶち込んだ。

リンデヒボルの攻撃は少し止まったが、またすぐにパンチ攻撃を繰り出した。

「何かおかしい・・・、こんなに直ぐに動きが切り替えれるなんて・・・。」

俺はリンデヒボルの拳を避けながら、リンデヒボルの顔を見た。

奴は格闘家特有の攻撃の表情になってはいたが、目が充血していて、まるで徹夜でもしていたかのような印象だった。

しかし俺はそんなのに関係なく、リンデヒボルの右わき腹にストレートを決めた。

リンデヒボルは先程と同様に、またパンチ攻撃をした。

『さあ、拳の弾幕を出し続けるリンデヒボル選手!!そしてその隙をついて攻撃する竜也選手!!果たして、どっちが勝つのでしょうか!!』

だがここでリンデヒボルも俺も、体の疲労がピークに達した。

息を切らしながらも、闘争心むき出しの顔で睨み続ける。

『竜也、ここが新技を出すチャンスだ。一気に相手を撃破せよ』

ドラゴンが言った、確かにここなら新技を繰り出すいい機会だ。

俺は一撃で相手を倒すことを頭に浮かべながら、リンデヒボルに攻撃をした。

そしてリンデヒボルの攻撃を見て、新技のイマジネーションが浮かんだ。

「俺もあんな感じに攻撃ができれば・・・。」

リンデヒボルの神速の拳・・・ドラゴンの力・・・それを合わせる・・・。

そして俺は拳にドラゴンの力を込めて、全力で連続パンチを繰り出した。

「うりゃああああ!!」

俺はとにかく攻めまくった、リンデヒボルの拳に負けない程の速さで自分も拳を早く出した。

『あーっと、竜也選手!!怒涛の早打ちだ!!リンデヒボル選手に負けないほどの速さと激しさが出ています、これはまさに逆鱗です!!そしてなんと、今度はリンデヒボル選手が攻撃できなくなっています!!さあ、竜也選手の逆襲が始まりました。これは竜也選手の勝利となるのか!?』

攻めている時、俺は自然と無意識になる。

そして体から「攻撃だ、攻撃だ!!」と呼びかけられている気がする。

それは「漠然とした闘気」と言ってもいいだろう。

俺はリンデヒボルを殴り続けて、最後にとどめのアッパーカットを出した。

リンデヒボルは仰向けに宙に浮くと、ドスンと倒れた。

リンデヒボルはレフェリーのカウントが終わっても立ち上がることはなく、ゴングの音がいつもよりも高らかになった。

『勝者・城ヶ崎竜也選手ーーっ!!一時はピンチに追い込まれながらも、奇跡の大逆転を果たし、ついに全世界格闘技フロンティアトーナメントの決勝戦まで来ました!さあ後はもう優勝か敗退か、どうなるのか予測不可能です!!この全世界格闘技フロンティアトーナメントの決勝戦、私も楽しみになりました!!』

俺はドラゴンの力を使い過ぎたのか、直ぐに動くことが出来ないほど疲労していた。

『竜也、よくやった!!先程の怒涛の攻撃は、必殺技と言ってもいいものだ。さあ、なんて名をつけるんだ?』

ドラゴンが言った、俺は疲労感の中で技の名前を言った。

「逆鱗のフィスト」

『竜也・・・、その名前いいな』

ドラゴンは笑いながら言った。












その日の午後九時三十分、風呂上りの俺に大島から連絡が入った。

「もしもし、竜也君?今日の試合とても良かったよ、特に最後の猛攻撃がね。」

「それで、要件は何だ?」

「相変わらず素っ気ないな・・・、要件というのは全世界格闘技フロンティアトーナメントに批判する仲間を集めるということだけど、かなりの味方が集まっているんだ。やっぱりこの大会が最低の試合をしていることを、理解している人は大勢いるみたい。」

「そうか、それでこれだけの味方を集めてどうするんだ?」

「じゃあ、私が集めたルール違反の証拠をネットに公開してもらおう。あと、奴らを罠に嵌める作戦を思いついたよ。」

「嵌める・・・?」

「おそらくマッチ・クリエイターは、この大会に関する儲け話なら食いつくと思うんだ。だからファンの皆さんに『全世界格闘技フロンティアトーナメントの公式グッズを、独自に入手したい』と言って、取り引きを理由に奴らをこちらの指定する場所におびき出すんだ。そこを一網打尽にする。あとついでにマッチ・クリエイターが募集しているアルバイトに参加して、本格的に奴らの実態を調査する。」

さすがは大島、人海戦術にしてはプロフェッショナルである。

「そうか、それで大島は今大丈夫なのか?」

「うーん、ハッキリと安心とは言えないんだよね。向こうも私を監視しているようだし、気を付けて行動しないといけないようだ。だからしばらく君とは連絡できそうなない」

「別にいいよ、別にあんたから連絡なくてもいいし」

「そんなこと言わないでよ」

大島が困った声を出したのがおかしかった。

「それじゃあ気をつけてな。」

「うん、竜也君も決勝戦に向けて体に気を付けて」

ここで通話は切れた。

「大島の奴・・・、探偵みたいなことしてるな」

『やっぱり大島はただ者じゃないな。』

俺とドラゴンは大島の頭脳と行動力に脱帽した。



  






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