第21話ワールドトーナメント

休息を終えた俺は、新幹線で東京へ向かい再び合宿所に戻ってきた。

俺は文殊と愛の家を出る時に渡された一枚の色紙を見つめていた、そこには文殊と愛の家で暮らす子どもたちからの応援の言葉が一面にびっしりと書かれていた。

「本当に俺って、子どもからよく好かれるな・・・。子どもたちは俺のどこが好きなんだ?」

『それはお前の強さだな、お前の力強い戦いが子どもたちを惹きつけるのだ』

ドラゴンが言った、強さが人を惹きつけるか・・・。

今まで人と関わらずに生きてきたので、ドラゴンの言っていることが今一つわからない。

合宿所には既に松井と目白が来ていた。

「あ、竜也久しぶり」

「ああ、松井か」

「あ、竜也さん。これ、お土産です」

目白が渡したのは、新品のスポーツタオルだった。

「ああ、ありがとな」

それぞれの部屋で着替えて、トレーニングルームへと向かう。

今日はここで、全世界格闘技フロンティアのトーナメント戦に誰が出場するのか、岩井が発表することになっている。

俺はあの時の試合を思い浮かべていた・・・、俺は一度も負けなかったが、それだからと言って俺が確定で選ばれる訳がない。

俺がドキドキしながら待っていると、岩井が獅童と一緒にトレーニングルームに入ってきた。

「みんな、ゆっくり休むことはできたか?これからは全世界格闘技フロンティアのトーナメント戦に入る、選ばれなかった二人には万が一の時のための補欠という役目があるから、気を抜かずにトレーニングをするように。それでは、トーナメント戦に出場する選手を発表する・・・・・」

そして岩井は少し間を置いてから、俺を指さして言った。

「城ヶ崎竜也、お前がトーナメント戦の代表の選手だ」

俺は突然のことに驚いた、松井と目白と獅童は俺に向けて拍手をしている。

「おめでとう、竜也」

「やっぱり、代表は竜也だよな。悔しいけど」

「竜也、君は正真正銘の日本代表だ。」

俺はどうやら、選ばれたようだ。それなら俺は逃げるわけにはいかない。

「竜也、これからお前は日本代表を背負って戦わなければならない。そのプレッシャーに負けない覚悟はあるか?」

「はい、俺はどんなものにも負けません」

「よし、いい度胸だ」

岩井は俺の肩に手を置いて頷いた。










そして全世界格闘技フロンティアのトーナメント戦が始まった。

このトーナメントに出場するのは、日本・アメリカ・オランダ・カナダ・コンゴ・ペルー・イスラエル・ノルウェーの八か国で行われる。

イギリスやフランスなど既に不正行為で退場している国は出場できない。

試合は一対一で行われ、制限時間なし。

新しい形で行われることになった全世界格闘技フロンティアだが、俺は優勝を必ずつかみ取る。

一回戦、日本はイスラエル、アメリカはケニアと対戦をする。

そして今日、日本VSイスラエルの試合が行われることになった。

『赤コーナ、愛知の巨竜・タイラント城ケ崎!!』

『青コーナ、中東の帝王・クムイフラア!!』

クムイフラアは俺より一回り小柄だが、ここまでの成績は良く思わぬ台風の目として注目されている選手だ。

「レディー・・・ファイト!!」

ゴングの音が鳴って試合が始まった、お互いに強烈なジャブが飛んだ。

『さあ、お互いにジャブを飛ばしました。さあここから、互いに激しい攻撃が始まりました。トーナメント方式に変更になったこの大会、しかし試合の盛り上がりに影響はなさそうです。』

クムイフラアはグランドに俺を持っていこうとする、寝技に持ち込んでギブアップを狙っているようだ。

「しかし、お前の思惑通りにはいかないぞ・・・。」

俺はフットワークでクムイフラアの攻撃を避けていった、だが次の瞬間に異変は起きた。

「ぐへっ!!」

クムイフラアの拳が俺の喉元にきまった、俺は気を失いそうな衝撃を感じた。

「あいつ、喉元をやりやがったな・・・。反則だろ、これ」

しかしレフェリーからは特に何も反応はない、あいつらの不正行為が始まったのだ。

『さあ、クムイフラアの攻撃に一瞬よろめいたかに見えた竜也選手。しかし持ちこたえました、日本代表はこんなものではありません。さあ竜也選手、ここからどう形勢を持っていくのでしょうか?』

俺は試合に集中した、この程度の不正行為なら慣れている。

「おりゃあ!!」

俺は喉元をやられたお返しに、クムイフラアの顔面に拳をぶつけた。

しかしクムイフラアはなおも俺の喉元を狙って攻撃してくる。

「喉ばかり狙いやがって・・・、本気で俺を殺す気か?」

クムイフラアのパンチをかがんでかわした俺は、クムイフラアのアゴにアッパーカットをきめた。

クムイフラアはグランドに倒れた、レフェリーがカウントを始める。

「このまま起き上がるなよ」

しかしクムイフラアは直ぐに立ち上がった、俺は心の中で小さく「クソッ!!」と呟いた。

そして試合は再会した、クムイフラアの攻撃は更に陰湿なものになった。

足に拳をぶつけたり、フットワークしているときに自分の足を引っかけようと出してきたりするようになった。

これではまるで嫌がらせだ、そんな悪ガキみたいなことをしている自覚はないのか?

「クソ・・・、本当に小ズルイことをするぜ」

俺はクムイフラアの腹筋にパンチをした、この攻撃でクムイフラアは動きを止めた。

『さあ、ここで行くぞ竜也!!』

言われなくてもいい、俺はドラゴンの力を体に纏った。

クムイフラアは俺の高まる気迫と威圧感に、体を震わせた。

それはドラゴンを初めて見た子どもの頃の俺と重なった。

俺は容赦なくパンチを三回連続であてた、クムイフラアはネットの傍まで体を飛ばされた。

俺は飛び上がって技を繰り出した。

「スタンピング・タイラント!!」

俺の拳はクムイフラアの顔面に決まった、ゴングがそして試合が終わった。

『勝者・タイラント城ケ崎!!トーナメント方式になっても、やはり彼の無敗は変わりません!!トーナメント戦初勝利を飾った竜也選手は、果たして決勝戦まで無敵を守り抜くことはできるのでしょうか!?』

「よし!!よくやった、竜也。この調子で、次の戦いも頑張れよ!」

俺はリングを下りた時、岩井に声をかけられた。

「ところで竜也、喉は大丈夫か?」

「ああ、普通に喋れますし問題ないと思いますが・・・。」

岩井は試合中、クムイフラアに喉元を殴られたことを見抜いていたようだ。

「いや、念のため精密検査を受けて来い。今後の試合に影響があるかどうか、心配だからな。」

俺は岩井の言う通りにした、検査の結果は異常無しに終わった。










夜の八時、大島から電話がかかってきた。

「もしもし、竜也君?喉は大丈夫かい?」

「ああ、問題ねえよ。ていうか、お前もわかってたんだな。」

「ああ、あのクムイフラアは酷い選手だよ・・・。だから試合が終わった後、イスラエル代表の控室に三人で講義しに行ったんだ。そしたら向こうは『反則行為なんてしていない』の一点張りで、結局うやむやになって控室から追い出されてしまったよ」

「あんたも無茶するな・・・。」

「それでボランティアのリーダーから怒られてきたとこなんだ、それより『勝利の聖杯』について少しだけ分かったことがあるんだ。」

俺は大島の一言にドキッとした、勝利の聖杯の秘密とは・・・?

「実はマッチ・クリエイターには秘密裏に隠された研究所みたいなところがあって、そこではスポーツドーピングの研究が行われているらしいんだ。そこで新たな新薬の開発が行われていて、その新薬の名前が勝利の聖杯というらしい。」

俺は吐き気を感じた。

トーナメント戦の優勝者に新型のドーピングが与えられるだと・・・?

マッチ・クリエイターはそこまで総合格闘技の世界を汚すというのか?

「そいつは嫌な話だな・・・。」

「そうだよ、ドーピングは選手の健康にも悪影響を及ぼすというのに・・・。早くこんな極悪主催者を捕まえてほしいよ。」

「わかったことはそれだけか?」

「うん、今のところはね。これからも調査を続けていく」

「気をつけろよ、連中に気づかれないようにな」

「わかっている、竜也君も試合に負けないように気をつけてね。竜也君は日本代表としての期待を背負っているからね」

大島から期待されなくても別にどうでもいい、俺は電話を切って眠りについた。







翌日、俺はトレーニングをしていた。

するとアーサーが俺の取材にやってきた。トレーニングを中断して、アーサーの取材に付き合った。

「竜也さん、昨日の試合素晴らしい戦いだったよ!」

「ああ、いつも通りの試合をしたまでだよ」

「それで竜也さんは、対戦相手として気になっている国はありますか?」

「やっぱりアメリカかな、やっぱり優勝候補になっていますからね」

本当はジークフリートを宿すガウェインがいるということで、気になっていただけだ。

「そういや、今日アメリカVSノルウェーの試合が始まりますよ。見る予定はありますか?」

「もちろん、確か一時間後からだったな・・・。」

「はい、私も観戦しにいきますよ。それでは最後に、全世界格闘技フロンティアがトーナメント戦になってから、思う事を一つお願いします。」

「・・・そんなの、ただ試合で勝ち続けるだけですよ。俺はそれ以外の答えが解りません・・・。」

俺は真剣な顔で言った、アーサーは頷いてメモを書き込むと取材を終えた。

「おつかれ、竜也君。僕から聞きたいことがあるけど、大島さんって何者なの?」

まあ、あの気さくで若々しい容姿からじゃあ、秘密結社のボスなんて想像はできないよな。

俺はアーサーに大島について知っている限りのことを教えた。

「大島さんってそんなに凄い方だったんですね、大島さんそんなこと一度も言っていなかったよ。」

「あいつはそういう奴なんだよ」

そしてアーサーは、合宿所から去っていった。







お昼の午後一時、俺は食堂のテレビに映る生中継でアメリカVSノルウェーの試合を観戦した。

ノルウェー代表はビークイン選手、そしてアメリカ代表はガウェイン選手だ。

試合が始まった、ビークインの猛烈な攻撃をなめらかなフットワークで避けていくガウェイン。

そしてビークインの顔面にガウェインの左ストレート、そこから今度は右ストレート、最後は腹部に一発攻撃をきめた。

ビークインはガウェインからたった三回の攻撃を受けただけで倒れた。

『勝者・ガウェイン選手!!アメリカの鷹騎士と言われたこの男、その強さは世界クラスに匹敵しています。タイラント城ケ崎とならぶ無敗のこの男、このトーナメント戦でも光輝くことができるのでしょうか?』

こうして試合は終わった、俺はガウェインの強さに衝撃を感じた。

「彼は俺と同様、特別な力を手にしても鍛錬を欠かさずにしてきた。だがそれだけではない、あの正確で早い拳・・・・。あれは想像以上なものだ。果たして今の俺に通用するのか・・・?」

『どうした、竜也?もしかして怖気づいたのか?』

ドラゴンが言った。

「いや、ガウェインの強さについて考えていただけだ。」

『まあ、今のままでは五分五分だな。』

俺はガウェインに対して闘志を燃え上がらせた。



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