第19話ドラゴンとガウェイン
アーサーの過去を全て聞き終えた俺は、アーサーに一つ質問した。
「なあ、親友の名前は本当にガウェインだよな?」
「もちろん・・・ん?」
頷いた後、アーサーは何か感づいたようだ。
「ねえ、もしかしてガウェインとどこかで会ったの?」
はっきりと質問されたので、俺は言った。
「ああ、少し前に例の黒いマスクの男に『会わせたい人がいる』って言われて、ついて行った先の喫茶店でイグニスと出会ったんだ。」
「イグニスだって!?」
アーサー声色が急に変わった。
「ねえねえ、イグニスに会ったって本当なの?」
「ああそうだ、そしてイグニスは黒いマスクの男のことをガウェインだと俺に紹介した。」
「そうか・・・、まさかイグニスのところにいたなんて・・・。」
アーサーはガウェインの現状を知り、驚きで言葉が出なかった。
「それで、君はイグニスとどんな会話をしたの?」
「イグニスは俺の強さを見込んで、俺をスカウトしようとしてきた。もちろん試合を汚すようなことをする奴のとこなんか嫌だったから、スカウトの話は拒絶した。」
「竜也君をスカウトしようとするなんて、大胆なことをするね。それでイグニスがどこにいるのか、知ってる?」
「そこまではわからん、イグニスは俺に失望したと言っていたから、向こうから俺のところに来るのはまず有り得ない。それにイグニスと会ったと言ったが、それは直接会ったのではなくリモートで顔を見たということなんだ、だからイグニスは日本じゃなくてアメリカにいる可能性も考えられる。」
やはり悪い奴のボスは、見えない所から部下に指示を出しているもの。
部下と同じ場所で仕事はしないのだ。
「そうか・・・、リモートは考えたね。でも僕はイグニスの悪行を調べ上げて、もう二度とケンカのような試合が開催されないようにしてみせる。」
アーサーは右手を握りしめて決意を固めた、そして互いに健闘を祈ってその日はわかれた。
その翌日の日本武道館へ出かける一時間前、大島から俺のところに電話がかかってきた。
「竜也君、今日本武道館に来ている。」
「試合会場じゃないか、そこで何をするつもりだ?」
「決まっているだろ、マッチ・クリエイターのしていることを妨害するんだよ。」
「まあ、大島たちの気持ちはわかるけどさ、どうやって会場内に入るんだよ?会場は関係者以外立ち入り禁止になっているぜ」
「そんなの関係無いよ、ただ私と赤谷と友近が日本代表応援ボランティアに加入して日本武道館に潜入すればいい。そのための手続きはもう済ませてある。」
流石は大島・・・、行動が迅速だ。
「そうか・・・、じゃあ頑張れよ」
「竜也君もね、それじゃあね」
ここで通話が切れた、俺は大島の行動力に改めて脱帽した。
『どうやら、大島が来るようだな。あの男、力こそ竜也より貧弱だがそれに優る行動力を持っている。』
ドラゴンが言った。
『竜也、あの男と一緒にいた方がいいぞ。もっと人生を面白くできるぞ。』
別に俺は人生面白く生きるつもりは無い、俺はドラゴンの言うことを黙殺した。
そして俺は試合会場に到着した、今回の試合は日本VSカナダが行われる。
まずは目白VSスミス、これは目白のギブアップでスミスの勝利。
次は松井VSゴードン、これは松井がKO勝ちした。
そして次は俺とガーメとの対戦だ、ガーメはカナダでは人気の選手で「トール」という異名を持っている。
「赤コーナ、愛知の巨竜・タイラント城ケ崎ーーー!!」
「青コーナ、カナダのトール・ガーメ!!」
互いに睨みあい、戦闘体勢をとった。
「レディー・・・ファイト!!」
ゴングが鳴った、俺は先制ジャブを出した。
しかしキーラはこれをかわして、俺の腹部にカウンターを入れた。
『キーラ選手、いきなりのカウンターだ!!竜也選手、これはいきなり痛烈な一撃を受けました!!』
俺は痛みをこらえたが、キーラは容赦なく連続パンチを繰り出した。
俺はガードして持ちこたえた、そしてキーラのパンチが遅くなった隙をついて右フックを出した。
そして今度は俺がキーラに連続パンチを繰り出した、だが奴はガードが間に合わずにパンチをまともにくらった。
『さあ、お互いに技の出し合いが続いております。キーラ選手は試合前の取材で『タイラント城ケ崎に黒星をつけるのは俺だ』と豪語していました。未だに無敗の城ヶ崎竜也選手、今や彼の首を取りに世界中の猛者が挑みかかっています。果たしてキーラは真っ先に、タイラント城ケ崎に勝利した者に成れるのか?』
キーラの動きは、俺の評価で言わしてもらえば良かった。パンチ、キック、フットワーク。プロとしては一人前だと思う。
だが俺に勝つにはそれだけじゃ駄目だ、俺に勝る力が必要だ。
もしそれがあるなら、俺はそれを受け入れ全身で感じたい。
俺はこの大会で、敗北というものを知りたくなってしまった。
でもだからとて、自ら手を抜く行為はしない。俺にも選手としての誇りがある。
ここでレフェリーからブレイクタイムが来た、今のところは両者互角、どちらかが有効打を決めれば試合の流れが決まるだろう。
『さあ、ブレイクタイムが終わろうとしています。今のところは互角だが、試合の流れは一体どうなるのか!?』
レフェリーから試合再開の合図がかかった、そして直ぐに異変を感じた。
「あれ・・・?足が動かない・・・、いやこれは?」
足が動かなくなり俺は足元を見た、すると何者かが俺の足首を掴んだ。
「おい!!離せよ、お前!!」
まさかこんな幼稚な手段にでるとは思わなかった、俺が足首を抜こうと動き出すと急に足首の自由が蘇った。
だがその隙にキーラに羽交い締めにされ、動けなくなった。
「くっ・・・、またこれかよ。」
俺は全力でキーラの羽交い締めを払いのけた、しかしこの後も俺はネットに近づくたびに足首を掴まれるようになった。
『さあ、タイラント城ケ崎選手。一体どうしたんでしょうか?若干足元がおぼつかないように見えます、これはどこか負傷してしまったというのでしょうか、さあ竜也選手は一体どうするのか?』
俺は怪我なんてしていない、ただ妨害を受けているだけだ。
俺はまたネットに近づいて、足首を掴まれた。
「くっ・・・、もういい加減にしろ!」
しかし今度は下で悲鳴が聞こえ、俺の足が自由になった。
襲いかかるキーラを間一髪でかわす。
『竜也、早く終わらせるぞ』
ドラゴンの声がした、俺はドラゴンの力を全身にまとわせた。
その迫力に、キーラは顔を引きつらせた。
俺はキーラをとにかく殴りまくった、そして再び何者かが俺の足首を掴んだ。
「邪魔なんだよ!!」
俺はジャンプして足首の拘束を解いた、そしてその勢いでキーラめがけて拳を放った。
「スタンピング・タイラント!!」
俺の拳はキーラの腹部にきまった、キーラはネットにバウンスして倒れた。
それから立ち上がることはなく、俺の勝利が決定した。
『竜也選手!!またもや大逆転、もう彼は逆転の神に愛されているとしか言いようがありません、まさに英雄!!いや、彼は勝利の女神に愛されたドラゴンです!!これでまた新たにタイラント城ケ崎に、無敵の歴史の一ページが加わりました。さあ、今後の試合では何を見せてくれるのでしょうか?』
俺はリングから降りた、すると赤谷が一人の男を捕えていた。
「竜也君、君の妨害をしていたのはこいつらだよ。」
「そうか・・・、こいつらが。」
俺は無様な姿になっている男を軽蔑の眼差しで見つめた。
そして大島・友近も、同様に男を捕えていた。
「竜也君、大丈夫だったか?」
「ああ、怪我はない。それよりもお前たちは、リングの近くにいたのか?」
「ああ、連中が妨害するのを見張っていたんだ。そしたらリングの横から連中がかわるがわる竜也君の足首を掴んでいたんだ、だから私と赤谷と友近でそれぞれ男を捕えたんだ。」
「そうか、ここじゃなんだから移動することにしよう。」
俺は控室に向かった、後から大島たちにつられて連中の三人が後に続いた。
それから三人を問い詰めたところ、三人は全員日本人だった。
全員初対面で、それぞれインターネットで金になるバイトを探していたところ、この妨害作戦のアルバイトを見つけて応募したそうだ。
三人が全然マッチ・クリエイターについて知らなかったので、もうここに現れるなとガン飛ばしておいて三人を解放した。
合宿所に帰って入浴して、スポーツドリンクを買いに向かったとき、声をかけられた。
「竜也、また会ったな。」
「あ?お前・・・、ガウェインか?」
俺が振り向くと、黒いマスクの男もといガウェインの姿があった。
「竜也、先ほどの一撃・・・見事だっつた。あのラストの攻撃には脱帽したよ。」
「・・・俺に用があるようだな、まさかマッチ・クリエイターにスカウトしに来たんじゃないだろうな?」
「そんな事じゃない、それに今回は俺が独断でやっていることだ。」
俺はガウェインの企みがわからない。
「俺がお前に会いに来たのは、お前に伝えなければいけないことと、お前に聞きたいことがあるんだ。」
「なるほど、まずは伝えなければいけないことから聞くとしよう。」
俺はガウェインを睨んだ、これは決して攻撃しようというつもりはなく、ガウェインの心中を見抜こうとしているのだ。
「お前に伝えなければならないこと、それは俺がアメリカ代表の選手であるということだ。だからお前とはいずれ対峙する運命だということだ。俺の中のジークフリートも、ドラゴンと戦えることを楽しみにしている。」
『ドラゴンを宿す者よ、貴様を好敵手と認めよう』
ガウェインからジークフリートが現れ、それにつられるようにドラゴンも現れた。
『ふん、貴様と戦う運命なのはとっくにわかっていたことだ。』
『あの時はあと一歩のところで首を跳ね損ねたが、今回はお前の首を跳ねてやる。』
『なら我は貴様を粉砕するまでだ。』
ここでドラゴンとジークフリートは、戻っていった。
「次にお前に訊きたいことだが、お前はどうしてここまで強くなれた?」
「・・・俺は総合格闘技のスキルは独学で学んだ、そしてひたすら鍛錬に走っていただけだ。ドラゴンの力だけが、俺の力じゃない。」
「独学でここまで来たのか・・・、才能のある奴はいいよな。」
ガウェインの表情が暗くなった、そして羨ましそうな視線を向けた。
「別に才能とかどうでもいい、今までしてきたことを積み重ねてきた結果だ。」
「ふん、謙虚なふりしやがって・・・。」
ガウェインはそっぽを向いた。
「なあ、俺からも訊きたいことがある。」
「なんだ、何が知りたい?」
「お前、アーサーの親友だったのだろう?」
ガウェインの表情が引きつった。
「アーサー・・・そうか、お前がアーサーがホームステイの時に出会った親友だったか・・・。こりゃ、とんだ出会いだぜ。」
ガウェインは笑いながら去っていった、俺はガウェインからにじみ出る嫉妬を感じ取っていた。
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